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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
69/71

69話

 春休みも終盤に差し掛かった日、この部屋に三人が集まった。


 ふた葉がやって来たからだ。といっても、いきなりアポイントなしで押し掛けてきた訳じゃない。

 あの裁判の判決が出て数日後、弁護士さんを通じて先方から判決に対して控訴の意思がないことが確認できたという。

 そして、親権や戸籍の修正に伴う書類を書いてもらう必要があったので、時間を調整して来てもらった。


「まったく、無理しちゃって。よつ葉だけでもよかったのに。大変だったでしょ」

「ふた葉だって、県内の学校じゃないことでグチグチ言われてたんだろう? そういうのは単なる親のエゴでしかない」

「迷惑かけてたわね」

「気にする話じゃない。迷惑かけていたのはこっちの方だ。自分も新年度からよつ葉と同じ日に復帰することが決まった」

「よかった。でも最初から無理したらダメだからね。あ、でもよつ葉ってプロがいるかぁ」


 よつ葉の合格発表だった夜は寄せ鍋だったので、この日はふた葉のリクエストで今日は海鮮料理をテーブルの上に広げた。


「よつ葉はいいわよねー、この間と今日で2回の豪華料理じゃない」

「パパを困らせるようなこと言ったらだめ」


 何年、いや十何年ぶりだろう。こうやって三人でテーブルを囲んだのは。

 それぞれ幼い頃から習い事をしていたし、それぞれの受験の時期も重なったことから、家族全員がそろっての食事の機会などはほとんどなかった。

 厳密に言ってしまうと、この状態でも「家族」全員がそろっているわけではない。


 親権の話になって、少しまじめな話を二人には話しておいた。

 正直なことを言ってしまえば、よつ葉が国家資格の合格という結果をもった先日で、「子育て」というものは終わったと言ってもいいのかもしれない。それにまだ若い二人からすれば、先に年老いて迷惑をかけてしまうのは間違いなく自分なのだ。だから、親権を取り戻すということは、ある意味自分のわがままでもあったのかもしれないと。


「それはもう心配ないでしょ。よつ葉は看護師になったわけだし。それにグチグチといつまでも地元じゃないだの、親が望んだ進路じゃないだの言われているよりは、よっぽど精神的に楽ってもんよ」


 お酒の勢いもあるのだろが、それがふた葉の本音なのだろう。

 まだ結婚していない二人にとっては、相談できる相手というものは必要だろうし、何よりも安心して帰ってこられる場所というものが必要なのだろうから。


「まったく、よつ葉が引っ越しをするなんて、ずいぶん思い切ったことするなと思ったけど、この環境じゃぁね。あたしもこれまでよりは二人のことを心配しなくてもすむわけだし」

「あ、あのなぁ……」


 こうは言っているものの、ふた葉も安心しているようだ。その証拠にいつもよりも飲み物のピッチが早い。


「ふた葉は明日には帰るんだろ? せっかくの時間なんだから邪魔は消えるとするか」


 よつ葉の苦しい時間を支えてくれたのは間違いなく彼女なのだし、成人になった二人の中で、親がついていけない分野の話題というのもあるだろう。


 夕食の片づけを終えて、自分が先に寝床に入ることにする。

 今日はさすがにいつもと違ってよつ葉との布団は別の部屋に敷いた。


「二人とも、何時まで起きていてもいいけど、明日の新幹線に二日酔いで乗るなんてことにはならないでくれよな?」

「おねえちゃんつぶれる前に切り上げるから大丈夫。パパおやすみなさい」


 枕元の時計を見ると、午後10時を回っている。

 こういうとき、隣の部屋が空室(正確には荷物部屋)になっているのはありがたい。自分にとっては娘たちの声だから平気だが、気にする住人がいないとも限らないからだ。


 久しぶりに姉妹で話したいことがたくさん溜まっていたのだろう。

 あの二人がいったい何時まで起きていたのか。それを知る前に俺は全ての仕事をやり終えた疲れで眠っていた。

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