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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
65/71

65話

 結果発表からの帰り、よつ葉と二人でスーパーに寄った。


「え、冷蔵庫そんなに空だったっけ?」

「今日は特別だ。なんでも好きなもの食べさせてやるぞ」

「そんな……。好きなものだなんて、いきなり言われても……」


 そうだよな。これまで奨学金という限られた予算の中での生活。聞けば毎週金曜日の特売日に、必要最低限のもの、中にはいわゆる「おつとめ品」を中心に買ってきて、自炊をしていたと聞く。

 好き嫌いというより、予算の中で何を作れるかというような生活だったから、希望メニューと言ってもなかなか思い浮かばないのだろう。以前の一時外出で一緒に食事をしたときにも、なかなかメニューが決められずに一緒のものを頼んだことを思い出す。


「よし、それなら温まるように鍋にするか」

「うん!」


 そうと決まれば話は早い。

 材料は頭の中に粗方入っているから、野菜類から始まって、焼き豆腐も忘れずに入れて、肉のコーナーにてふと考える。さて、何を使うかな……。

 牛肉だと灰汁が出るから……、やっぱり鶏肉をベースにするか。


 食感と味のための鶏モモと、出汁がすぐに出るように肉団子を選んでおく。味付けは、本当は最初からやりたいけれど、鍋の素を使わせてもらって時間短縮だ。


 それを持って帰って、戸棚の奥にしまってあった土鍋と卓上コンロを取り出す。一人になってから使うことはないと思っていたのだけど、防災用品の一つだと思って処分しないでおいてよかった。


 具材を鍋の中に並べてコンロの火をつける。

 グツグツ煮たつ音がしてきて、その間に取り皿や飲み物を用意する。


「よつ葉、もういいだろう」


 蓋を開けると、出汁が具材に行き渡っていて、その匂いだけでも食欲を十分に刺激してきた。


 本当はお酒と行きたいところだけど、薬を飲んでいる以上は、まだ禁酒は解けていないので、炭酸を開けてふたりで祝杯をあげる。


「おめでとう、よくここまで頑張ってきたな」

「ぱぱぁ……」


 頬をつうと流れる涙だけで、これまでの苦労というものが全て感じ取れる。


「ただ、これで終わりじゃないぞ? これからが本番だからな?」

「うん」

「とは言っても、そんなのは今日言う話じゃない。今日は腹一杯食べて飲んで、笑ってくれ」

「うん。よつ葉もお鍋はよくやったけど、いつも一人分だから、こんなに具だくさんなんて見たことない」


 それは仕方ないと同時に自分でも後悔している。もっと早くこの境遇に気づいていたら、もう少しは余裕のある状態で試験に臨めたのだと思うと、そして試験直前に起こった事件を考えると、よく立ち直ってここまでの結果を出したものだと思う。


「あれ?」

 後ろに置いてあったスマートフォンが鳴る。


「あれ、お姉ちゃんだ」

「ふた葉から?」


 なんだ、何か連絡してくるようなことがあったのだろうか?


「もしもし?」

「ちょっとよつ葉! この時間までなんの連絡もよこさないってどゆこと!?」

「え?」

「知ってんだからね、今日が結果発表だったんでしょ!? そのくらいの連絡よこしなさいよ!」


「へっ、パパ連絡した?」

「俺はよつ葉がしたもんだとてっきり……」


 その会話に、ふた葉がさらにヒートアップしてしまったようで……。


「ちょっと、なにふたりで隠してんのよ! どうせお祝いなんでしょ?!」


 ついに耐えきれなくなったよつ葉が、クスクス笑いながら、スピーカーのモードに切り替える。


「今日は、パパ特製のお鍋。温かいよぉ?」

「もー! そんなことだろうと思った! あたしのことだけ除け者にしてー!!」

「だって、お姉ちゃん、学校の用意する必要あるじゃない!?」

「まぁまぁ、ふた葉にもそのうち埋め合わせするから。春休みになったら遊びに来いよ」


「とりあえず、合格したのよね? それなら安心して寝れるわ。よく頑張ったね。おめでとう」

「お姉ちゃんも、ありがとう」


 通話が切れて、思わず顔を見合わせると、お互い吹き出してしまった。


「とんだ竜巻が飛び込んできたな」

「おねえちゃん、次来たらきっといっぱい食べるよ?」

「覚悟だけはしておく……」


 お腹いっぱいで動けなくなる前にと、ふたりで急いで片付けをして、交代でお風呂に入り終わると、やはり昨日からの緊張が一気にほどけて、どっと疲れが吹き出してくる。

 いつもよりだいぶ早い時間だけど、いつもどおりに並べた布団に横になる。


「あー、おわったぁ…………」

「明日は学校に行ってくるんだろう?」

「うん、たぶん書類を書いたりしなきゃならないから」

「分かった。家の片付けをしておくから行っておいで。みんなと食べたりするようなら言ってくれれば大丈夫だから」

「どうだろうなぁ……」


 なかなかそのあとの会話が続かないと思って横をみると、よつ葉はすでに寝息をたてて目をつぶっていた。


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