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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
64/71

64話

 いよいよ発表当日。合否の発表時間は午後なのだから早起きする必要もないのに早く目が覚めてしまった。


 パパもよつ葉同様緊張しているようで朝食どころか昼食も満足に摂れなかった。

 それをわかっているのかパパは、普段から用意するような朝食は作らずに、おにぎりとインスタントの味噌汁を用意して、好きなものだけ口に入れるようにしておいてくれた。


「おはよぉ」

「どうせ食欲もないだろうから、適当に作っておいた。空きっ腹じゃ気持ち悪くなっちゃうから、何でもいいから入れておいてくれ」

「もうパパ、それよつ葉のセリフなんだけど」

「それもそうだな」

「パパの方が緊張しているんじゃないの?」

「そうかもしれんなぁ」


 こんな会話をして緊張緩和を試みる。


 発表会場となる厚生労働省の建物までは1時間ほどの場所。特に持参するものは無いし必要な書類は後日で大丈夫だから気楽に行きたいけど気持ちが着いていかず緊張が抜けない。




 パパとふたり電車に乗って、結果が張り出される建物の近くまで行く。


 発表の時間まで喫茶店で待つことにした。パパとコーヒーを飲みながら緊張を押さえていた。ここから会場までは歩いて10分程度とパパが教えてくれた。そしてここを出る時をよつ葉に任されていた。


 番号があってもなくても、大丈夫という覚悟ができた。


「じゃぁ、行ってみようか」


 発表の10分前にパパに声をかけた。


「覚悟決まったのか?」

「覚悟っていうより、行ってみなくちゃ始まらないから」

「わかった」


 お店を出て、目的のビルに向かう。緊張が抜けない。周りにいる人達が全員ライバルで優秀な人に見える。


 張り出されるであろう掲示板の前にはもうすでに発表を待っている受験生たちが意外と多いのに驚いた。


「どうする? 一緒に見るか、最初に見てくるか?」


 なかなか動かないよつ葉に声をかけてくれる。



「ちょっと考える……」


 14時ちょうど、係員が丸めた用紙を持って掲示板の前に出てきた。

 大きく空けてあるスペースに丸めてあった紙を広げて留めていく。

 全ての用紙を留め終わった後、一斉に受験者たちが駆け寄っていく。


「あったー!」

「やったー!」


 掲示板のところから、そんな声が聞こえてくる。ますます動けない。



 そんなときよつ葉のスマホにメッセージの着信音が鞄の中で鳴り響く。



 インターネットで合否を見ていたメンバーからの通知だった。


「見にいかなきゃダメみたいだなぁ」


 みんなは合格を知らせてくれた。残るはよつ葉だけとなり、ようやく決心がついた。


「行ってくるね」

「分かった。ここで待ってる」


 パパは、その場で待っていてくれるようだった。


 受験票を手に掲示板に向かう。よつ葉の運命の受験番号07936を探す。7000番台に目を向ける。7930番まできたところで視線をはずし深呼吸をして覚悟を決める。


 (あった! 看護師になれる……)


 感無量だった。今まで頑張ってきたことが報われた瞬間だった。


 あっ、いけない。パパを忘れてた!パパは掲示板から目をそらして待っていた。


 そっと横に並びパパの腕を引っ張ってみた。


「一緒に来て確認してくれる?」

「分かった」


 パパに受験票を渡した。パパは受験票をじっと見つめていた。そして掲示板に目を向ける。


「ぱぱぁ……」

「おめでとう。今夜は……お祝いだな」


 担当教授に連絡を入れた。きっともう結果を見ていたのだろう。「おめでとう。まぁ、あなたが落ちるわけないわよね」とサラッと言われた。




 紺野班のメンバーには受験票と掲示されている番号を並べて撮影し、合格を返信しておいた。


「ぱぱぁ、終わった……」

「そうだ。もう終わったんだ。もう病院でコソコソする必要もない。堂々と制服の採寸に行っておいで」



 来たときとは全く違う軽い足取りで、パパとふたり帰宅のために駅に向かって歩き出した。

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