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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
57/71

57話

 あれからどのくらいの時間が経ったのか。カーテンの隙間から朝日が差し込んで来ている。


 結局、昨日は一睡もすることはなかった。


 冷蔵庫の前で意識を失っていたよつ葉をなんとか抱えあげ、布団に寝かせる。

 あれだけ病院で世話になったし、実技の練習だとの名目で回復体位の練習などもしていたが、まさか逆に自分がその知識を使うことになろうとは……。


 救急車も頭に浮かんだが、脈も呼吸もしっかりしていたので、とりあえず様子見にしていたのだけれど。


 全く、どこまで人に迷惑をかける人だと、以前の妻に腹が立つ。

 この子が何をしたというのだ。自分の道を見つけ出して、そこに向けて自力で歩いているだけではないか。


 教師になってほしいというのは、あくまで本人の希望…、エゴイズムでしかない。そこに背いたからと、ここまで追い詰めていい理由はどこにもないはずだ。


 ただ、こうやって身体に実際に影響が出てくるとなると、このままというわけにはいかなさそうだ。

 いつ同じようなことが再度起きないとは限らない。


 かと言って、四六時中見張っているわけにもいかないし、娘とはいえプライバシーの確保は必要なのだから……。


 そのときに、ふとあることに気がついた。この部屋の間取りは自分の部屋とは違う。一人暮らし下宿用のいわゆる1Kだ。

 それに比べて、もともと大家の部屋の真上にある自分の部屋は、下の間取りがそのまま2階に上がっているので、2LDKの間取りがある。


 荷物を整理すれば、よつ葉の部屋を作ってやることができるはずだ。


 もちろん、プライベートが欲しいときもあるだろうから、部屋としては契約を解除せずに残しておくことが条件だが。


 様子を見ていると、しばらく起きそうにはない。

 朝食の用意をしがてら、俺はこの計画が実際に実行できそうなのか、


 テーブルの上に事の顛末の書き置きを残し、位置の自分の部屋に戻る。

 リビングではない残りの二部屋を見て、タンスなど大きな家具がおいてない方であれば、ここ数時間あれば片付きそうだ。


 荷物を寄せて、とりあえず空の部屋を作り出す。よつ葉が気に入れば隣の部屋から寝具等を持ち込むことはすぐできる。


 背後のふすまが開く音がした。


「ぱぱぁ……」

「起きたか。事情を話す必要はない。一応部屋を用意することまではした。あとはよつ葉が決めていい」


 ここで長い時間をかける必要はない。よつ葉がどうしたいか、それを聞くだけだ。決断したあとであれば時間はいくらでも取れるのだから。


「今夜からここで寝る」

「分かった。どこまで荷物を持ってくるかは自分で決めなさい。こっちとしても、看護師がすぐ隣りにいてくれるなら、願ったり叶ったりだ」

「うん」


 昼食を食べ終えてから、二人で手分けをして、自分は部屋の掃除を終わらせる。よつ葉は隣の部屋で持ってくるものを整理することになった。


 これまでにも食事、入浴を済ませてから部屋に戻ることもあったから、パジャマなどが持ち込まれても特に驚くことじゃなかった。

 それでも、やはり実際に布団類が持ち込まれるとなると雰囲気が変わってくる。


「今夜から心配いらないね」

「心配させるほうが間違っているんだけどな……」


 こんな会話から、十数年ぶりの父娘同居が始まることになった。

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