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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
55/71

55話

 深夜のことだった。隣の部屋から話し声がする。木造のアパートだ。詳しくはわからないけれど、何かを話している程度は感じられてしまう。


 こんな深夜に電話を掛けてくるとは、一体何事かと思ってしまう。

 学生時代は時間を忘れてなんてこともあるだろうけど、どうも様子が違う。


 なぜなら、よつ葉の声がほとんどしないからだ。


 楽しい会話であれば、あの子だってそれなりに会話をしている。

 それは入院中に何度もそんなシーンを見ているから楽しいものであれ、不快なものであれコミュニケーションはとれるはず。


 それをじっと相手の言われるがまま、しかも壁を通じてまで聞こえてきてしまう音量に、答えも返す気力もなく、じっとやり過ごしているのだろう。


 こういうことをする人物には心当たりがある。

 いま親権で問題になっている、あの子達の母親しかいない。


 自分が望んだ進路に従わなかったことで、徹底的に無視をしたり、家から追い出す、また個人のものを勝手に処分するなど、人権侵害も甚だしいことを何度も聞いた。


 そこに、最近の親権変更について、弁護士などから聞き取りもあったことで、皮肉を罵詈雑言でぶちまけているのだろう。

 黙って聞いている方に何も過失はないというものであるのに。


 深夜であることもあり、壁越しでもその長い電話が終わり、立ち上がったことが雰囲気でわかった。


 なぜここまで隣の部屋の様子がわかるのか。


 それはよつ葉の部屋で、自分の部屋の壁側には何も置かなかったからだ。


 俺の部屋には音が漏れても構わないということで、そういった配置にしたらしい。


 壁に手をついて立ち上がる音がする。電話が終わったのか。


 しかし、今度はそれっきり物音が途絶えてしまった。

 こんな深夜に出掛ける理由もない。


 コンコンと壁にノックをしてみても反応がない。でも、部屋を留守にしていないのは明かりが付いていることでもわかる。


 最後の手段だと、合鍵を取り出した。娘とはいえ成人した女性の部屋に強硬で入ることに躊躇がない訳じゃない。

 でも、いまはそれよりも嫌な予感のほうが先行した。


 扉をノックしても、中からの返事はない。でも、ドアスコープで明かりがついているのはわかる。


「よつ葉、開けるぞ!?」


 鍵を回し、扉を開けて部屋のなかに入った瞬間、俺は信じられない状況がそこに広がっていることに、一瞬呆然と立ち尽くした。

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