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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
52/71

52話


 パパに内緒で進めてきたことがある。パパのお隣の田中さんが単身赴任を終え家族の待つ自宅から通勤可能な転勤先になったと話していたのを聞いていたので、パパに内緒で田中さんに会いに行きお部屋のことを話した。


「おや、小林さんの娘さんだね」

「こんにちは」

「お父さんの忘れ物かい?」

「いいえ、実は田中さんにお願いがあって」

「なんだい?」


 田中さんは嫌な顔をしないで、話を聞いてくださった。


「部屋の事は大家さんに伝えてあげるよ」


 田中さんは快く部屋のことを大家さんへ伝えてくださると言ってくれた。


「ありがとうございます。助かります。父には内緒なので連絡は私にお願いします」


 そう伝えて連絡先を預けた。田中さんはすぐに大家さんへ掛け合ってくださったようで大家さんからその日のうちに連絡がきた。田中さんの転居後すぐにハウスクリーニングを依頼しておくから入居はまた連絡するということだった。


 これでパパの退院までに引っ越しを済ませておきたい。そう密かに思っていた。大きい荷物は無いから、紺野班メンバーに手伝ってもらおうと思っていた。意外にも河西看護師長が率先して協力してくれることになった。


 大家さんから連絡があり、手続きして鍵をもらった。その日のうちに、部屋へ行き掃除から始めようと思っていた。この事を知っている河西看護師長と紺野班メンバーが手伝いに来てくれた。掃除を紺野班メンバーに任せ、河西看護師長が車で来てくれたので荷物を運び込むことになった。


「前原さん、あなたは来てちょうだい」


 河西看護師長に言われ荷物運びに抜擢されていた。


「俺も行きまーす」


 小野君も立候補したけど


「あなたは来なくていいわ」


 河西看護師長にきっぱり断られた。


 前から少しずつまとめておいたので、そんなに時間をかけずにアパートへ戻れた。そして入れ変わるように河西看護師長が


「女子以外、車に乗って! あっちの掃除に行くわよ」


 そう言って男子4人を引き連れて、掃除に行ってくれた。その間に、ここの片付けを始めた。


「ここから病院まで近いね」

「うん」

「乗り換えなしってのが嬉しいよね」


 まだ受かったのかもわからないのに、こんな会話で盛り上がっていた。みんなのおかげでパパの退院までに引っ越しを終わらせて、この生活に少し慣れておくこともできた。



 土曜日の午後、パパの退院。時間外受付でパパが出てくるのを待っていた。パパと河西看護師長が話ながら歩いてくるのが見えた。


「専属看護師をつけておきましたし、私たちも安心です。菜須さん、よろしくね」

「はい。分かりました。外来通院の時には、こちらにも顔を出しますね」


 全てをわかっている河西看護師長は、パパに気づかれないようにウインクをして笑顔で頷いてくれた。


 いつかの一時退院の時と同じように、ふたりでタクシーにのっていく。

 アパートに到着して、パパが部屋の鍵を開ける。ふふっ、こっちも掃除などしておいたんだよねぇと心の中で呟いた。


「さて、冷蔵庫の買いだしでもいくか」

 商店街のスーパーに買い出しにでかけた。ついでに、よつ葉の分も買っておこうそう思いかごに入れてる姿にパパは何も言わないけど不思議そうにはしている様子だけど、まだ教えてあげない。


 買い物袋を下げてパパの部屋に戻り、冷蔵庫にひととおりの物を入れる。テーブルの上には、よつ葉の分の一袋が残っていた。パパが疑問を問いかけてきた。


「これどうするんだ? 食べるには多すぎるし、よつ葉が持って帰るか?」


「うん、そのつもり。でもすぐだから、片付けてきちゃうね」


 ついに種明かしの時がきたかな?


 パパの目の前で鍵を取り出して、パパの家の玄関を開けると『隣の部屋』の扉を開けた。


 荷物を片付けてパパの家に戻ると、パパは驚いていた。


「河西看護師長が、専任をつけるって言ってたじゃない?」


 少し意地悪に伝えてみた。


「それがこれか?」


「こっちの方がお家賃安かったし、クリーニングされたばかりでお部屋きれいだったし、なんたってお隣さんになるんだから、ナースコールもすぐに来られるよ」


「そういうことか……」


 今日からお隣同士の父娘の生活が始まった。

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