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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
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51話

 俺の退院日が決まった。

 本当ならいつでもよかったらしいけど、本当によつ葉の試験が終わるのを待っていたようだ。


 もちろん、約束どおり、すぐによつ葉にもその日程を伝えた。


 本来なら、その後の生活の注意点や、定期的な通院などの指導も受けるはずなのだけど、俺の時は、日程とそれまでに部屋を片づけること、会計のことを少し言われた程度で、逆に身構えていた方としては拍子抜けしてしまうほどだった。


 半年過ごしてきた個室。荷物は増やさないようにはしていたけど、それでも生活用品などが溜まってしまっている。病院の中で処分できるものは談話室にあるゴミ箱に捨てにいく。


 この談話室にも世話になったなと思う。でも、俺がここ1日中にいることはなくなった。気温が上がってきたこともあり、外でのリハビリを兼ねて、庭を散歩することが多くなったからだ。


 病院内で処分できないものについては、部屋の鍵を渡してあるよつ葉に持ち帰りを頼んだりしていた。


 退院が決まってしまえば、ことはとんとんと流れていく。もちろん毎朝の検温や回診もコミュニケーションが主になってくる。特に個室では、こちらから出て行かなければ、ほかの患者と話をする必要もない。今の自分には逆にありがたい状況だ。


「そうですね、小林さんもいよいよ退院ですね。なんだか寂しくなります」


 この河西さんには本当にいろいろな面で助けてもらった。

 逆にこの人の助けがなければ乗り切れなかったピンチもたくさんある。


「最初の頃は週に一度くらいの外来ですよね。こちらの病棟に顔を出されることもなくなってしまいますね」

「そのときは何でも理由をつけて呼び出してくださいよ」


 わざと人があまりいない土曜日の午後、河西さんに促されて半年近く過ごした病室を出た。

 時間外受付にはよつ葉が待っていてくれた。


「専属看護師をつけておきましたし、私たちも安心です。菜須さん、よろしくね」

「はい。分かりました。外来通院の時には、こちらにも顔を出しますね」


 いつかの一時退院の時と同じように、ふたりでタクシーにのっていく。

 アパートに到着して、自分の部屋の鍵を開ける。

 さすがお願いしてあっただけあって、部屋の中が片づいているし、長期間不在にしたというような雰囲気は消されている。


「さて、冷蔵庫の買いだしでもいくか」

 商店街のスーパーで買い出しをしたのはいいのだが……、一人分には少々多いし、自分があまり口にしないものも混じっている。


 買い物袋を下げて部屋に戻り、冷蔵庫にひととおりの物を入れても、まだテーブルの上の袋の中にはものが残っていた。


「これどうするんだ? 食べるには多すぎるし、よつ葉が持って帰るか?」


「うん、そのつもり。でもすぐだから、片付けてきちゃうね」


 いくらすぐだからと言ったって……、そんな簡単にはと思っていたら……。


 よつ葉は俺の目の前で鍵を取り出して、我が家の玄関を開けると、『隣の部屋』の扉を開けた。


 数分後に、再び扉を開けてきた彼女に、俺は開いた口が塞がらなかった。


「河西看護師長が、専任をつけるって言ってたじゃない?」

「それがこれか?」


「こっちの方がお家賃安かったし、クリーニングされたばかりでお部屋きれいだったし、なんたってお隣さんになるんだから、ナースコールもすぐに来られるよ」


「そういうことか……」


 こんなやり取りから、父娘でありながら、お隣付き合いになるという、風変わりな日々が始まることになった。



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