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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
49/71

49話

 よつ葉の試験が終わった翌日、午前中は穏やかな晴れだった。

 河西さんから、退院に向けての話をするための看護師さんが紹介されて、このあとの日程について説明を受けた。


 4月になれば、よつ葉は今度は正式に看護師となってこの病院に就職してくる。さすがにそこまでには退院しておきたいという思いがあるからだ。


 それに、いつも談話室で話し相手になってくれていた舞花さんがまもなく退院という話を聞いていたから、当然自分もいつかはその日が来ると思っていたし。


 そんな午前中が過ぎて、昼食をとっていたときだ。スマートフォンにメッセージの通知が入った。


『小野くんに負けた……』


 よつ葉からのひと言にがく然とする。

 そんなバカな。あれだけ直前の模試ですら得点差があり、それこそ河西さんのお説教があったほどだ。

 もちろん、そこからの挽回はあっただろうが、学年で3本の指に入るほどのあの子が、小野くんに負けたとは……。


『書く欄間違えたか?』


『自己採点だけど、必修の知識問題の点数が負けてる』


 そうか、総合点ではないのか。

 午前中の必須科目は合格ラインが定められている。規定のラインを超えていないと、午後の応用知識の点数がどんなによくても合格できない。


 その後のやり取りで、基準点はクリアしていることを確認したから、とにかく、総合得点では勝っているだろうと。それに自己採点であやふやなところが多かったという話を聞いて、これは本当の得点が出るまでは分からないと思った。


 そんなことがあって、午後は部屋にいても落ち着かない。

 退院へ向けた体力作りという名目で、病院の中の書店や売店まで足を伸ばしたり、いつもは踏み入れない他の診療科の病棟に入ったりもした。


 再び、着信のバイブレーションを感じて、ポケットから取り出してみると、病院には来ているようで、ただ、いつもの病棟には顔を出したくないらしい。


『総合受付の先のカフェカウンターで落ち合おう』


 そう打ち込んで、再び外来の受付がある総合棟に戻って、コンビニや薬局、レストランなどが集まっているエリアに戻ってきた。


「お疲れさん」

「あー、今日は疲れた……」


 それはそうだろう。昨日は出来たと思っていても、頭はフル回転だっただろうし、これまでのことを考えれば、よく眠れたかも怪しい。


 実力はあるのに本番に弱いというグループは実際に一定数の割合で存在する。


「結局、総合点ではどうだった?」


 オープンスペースの席に、コーヒーを買って向かい合う。


「総合点では負けなかった」

「そりゃそうだろうなぁ」


 午前中の一件が、相当堪えたのだろう。

 それに、班員全員のなかでトップだったという話自体、信憑性はどこまでのものなのか……。


「とりあえず、総合点では負けてないんだから、問題はないだろう。結果が出るまで1ヶ月か……。長いよな……」


「うん、長いー」


 そこで、今朝からの退院に向けた話が動き始めたことを伝えておくことにした。


「退院といっても、すぐに仕事が始まる訳じゃないし、実生活のリハビリも必要になる。それに、あの計画も進めなくちゃな」


 そう、この結果発表までよつ葉のスケジュールはなにもないという。この期間を無駄にするつもりはない。

 試験が終わるまでは表向きは止めておいた計画を進めることが出来る。


「忙しくなるかもしれないけど、まぁいろいろと協力してくれ」


 病棟には顔を出さないように話し合った。顔を出せばみんな試験の翌日は自己採点をしているだろうと知っているから、あれこれ聞いてくるだろう。

 不確定要素とはいえ、まだ『小野ショック』が抜けきれていない状態ではいかない方がいい。


「退院の日程が決まったら教えて? いろいろと準備することもあるから」

「悪いな……」


 これだけの長期入院だから、小さくまとめたつもりでも、荷物はそれなりにある。舞花さんも家族に少しずつ持って帰ってもらったと笑ってたっけ。


 長いようで、実はそうでもない1ヶ月がこの日から始まった。

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