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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
41/71

41話


 1月も中頃になって、よつ葉が学校のゼミではなく、講習会に出るようになった。


 その様子は、病室で夕食をつまみながらの時に教えてもらうこともできた。


 初日の今日はいきなり昨年の試験を本番さながらに解いてみるということだったそうだ。


 その結果によってクラス分けがされるという。話によれば、ほぼ合格圏内にいるAクラスから、最後の特訓、底上げを要するCクラスまでに分けられるという。


 聞いてみれば、さすがに毎日遅くまで過去問を解いていることもあり、一通り引っ掛かることなく解けたと言う手応えを聞いたから、まぁ、そこはあまり気にしないでもいいだろう。


 学力については、これまでも体調が悪い条件の時に問題を解かせても、そこまで響くようなことはなかったから、頭の中には定着している。


 あとは、少しでもいい条件や体調で当日を迎えさせてやるのが周囲にできることだ。



 しかし、世の中には、そんなことを全く無視してくる輩がいることも事実であって……。



 クラス分けが発表された日、昼のメッセージでは予想通りのAクラスで発表されていたとのこと。

 この間、河西さんからお説教を食らった小野くんがCクラスだったと言うおまけの情報までつていたから、この時点までは何もなかったことが伺える。


 その事件は、帰りの電車のなかで起こったとのこと。


「ぱぱぁ!」


 病室に入ってくるなり、自分に抱きついて、声や体を震わせながら怯えている様子をみると、なにかが起きたと言うことは否定しようもない。


「よつ葉、もうここにはふたりしかいない。なにも怖いことはないから、ゆっくりと話してごらん」


 しばらく背中を撫でていると、ようやくぽつりぽつりと話し始めた内容を辛抱強く聞いて繋げてみると、電車のなかで後ろに立った男性が、よつ葉の背中に体を押し付けてきたらしい。

 これが一般女性でも嫌だろうが、この子は看護学生。押し付けてきたものがなんだというのは嫌でも理解しているはず。


 俺は唇を噛んだ。一緒にいてやれなかったのが本当にもどかしい。本当に卑劣な犯罪行為。

 今からでも痴漢の被害届は出せるけれど、あの犯罪は現行犯で取り押さえるか証拠を掴まないとつき出すことができないから、結局はこうなってしまう。


 これがな……、同じゼミの美羽ちゃんみたいに身長もあり、恰幅が良くて、もし捕まっても力負けしそうな子なら、相手も手を出してこないのだが、よつ葉のような、一見してまだ高校生のように幼く見える子だと、格好の餌食になってしまう…。


 これに味をしめれば、残りの一週間、電車に乗るたびに同じような被害に遭う可能性も否定できない。


 そんなバカなことはさせたくない。


「よつ葉、じゃぁ、これは防御を少しでもあげるための策だ。少し不便になるかもしれないが、試してみてくれ」


 これまでに乗っていたところは、階段になるべく近いところだったということ。

 それを車掌の前、つまり一番後ろに乗るように。なにかあったときに、すぐにサインが出せる場所に乗ること。


 そして、もうひとつは、一番最後に乗るように、ドアに背を向けるようにと。前側はバックも持っているし、顔も見えるから手出しはしてこない。後方の顔が見えずに無防備になってしまう場所を潰すように。


 被害者が防御策を固めると言うのも腹が立つ話だけど、このふたつを実行してもらうだけでも、こちらがわの隙を少しでも減らすことができる。


「ここから帰れるか?」


 いつもの時間になってしまい、俺はよつ葉とふたりで夜間出口に向かう。


 タクシーをつけてもらって、よつ葉を乗せた。


 運転手に、よつ葉の住所を伝えて、先に料金も支払ってしまう。


 タクシーを見送って、さてと考える。

 少しは立ち直ってくれるといいのだけど。今日はこれでも、毎日ではリハビリにはならない…。



 一方で、最悪の場合に備えて、河西さんに毛布などをお願いしておこう。


 よつ葉から家に無事に着いたメッセージが入って、ようやく問題の「1日目」が終わった。


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