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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
39/71

39話

 テレビだけが大騒ぎをする新年になった。どこのチャンネルに回してみても代わり映えのないものばかり。


 これじゃぁ、どこのテレビ局だって、視聴率はドングリの背比べと言うものだろう。


 そんなことだから、相変わらず午前中は談話室で舞花さんとの雑談をして過ごす。変わったのは夕方を過ぎてからだ。


 年末までで、よつ葉の延長実習は終了になり、学校の冬休みでもゼミでの勉強会が続いていると言う。


 そのゼミが終わったあと、家には帰らずによつ葉はこの病室にやって来る。別に俺がそこに口出しをすることはない。窓際に机と椅子を用意した。河西さんにお願いして、ナースステーションの奥で埃を被っていた電気スタンドを借りておいた。

 よつ葉は家族と言う名目で面会に入ってくるから、事実上面会時間の縛りはない。

 売店で軽食などを用意しておく。その間、俺は自分のベッドで仕事を片付けたり本を読んだりして過ごした。


 河西さんの言葉を借りて言えば、もう実力も知識の方も例年の試験範囲から言えば十分な合格点を出せるのだろうけど、ここで手を抜くわけにはいかないから、過去問題集を繰り返しているのだろうということだった。


 事実、よつ葉がこの部屋を出ていくのは、面会時間や消灯時間をとっくに過ぎた11時近くだ。これ以上遅くなってしまうと、部屋に帰ってからの時間を考えて睡眠のリズムにはよくない。

 とは言っても、帰ってからも参考書を広げているのだろうなと言うことは容易に想像がつく。



 学校としては冬休みが終わり、最終的な日程に入ってくる。


「パパ、今度ね……」

「うん?」



 こういう持ち出し方をしてくるときのよつ葉は大体想像がついている。本当はやりたいけれど、いろいろな事情でそれは叶わないときだ。


「試験の最終直前の講習があるんだけど、それ出た方がいいかなぁ」

「よつ葉の実力としては十分なんだろうけど、少しでも不安だと思えば、受けてきてもいいんじゃないか?」


「やっぱりそう思う……?」


 ん? なんだかこの展開は前に聞いたこともあった気がする。

 そうだ、あの模試の時だ。受験したくても先立つものがないときと同じだ。


「その講習、いくらかかるんだ?」

「えっと、5万3000円。でも、それはもう奨学金で払ってきた」


 それは……、奨学金で生活全てを賄っているよつ葉として決して容易く出せる金額ではなかったはずだ。


 以前の模試は自分の手持ちのお金で受験させることもできたが、よつ葉自身が捻出したということは、やはり本人の覚悟の表れだと思うことにしている。


 当然、真っ先に削るのは食費やら衣料品などだろう。

 着るものはともかく、食費を削って、体力を落として風邪をひかせるわけにいかない。

 以前にも増して、用意しておく夜食のバリエーションに気をつけるようにした。


 自分には専門外のことだ。でも、夜の検温に来た河西さんに質問をしたりしている。その内容はその場ではよくわからない。

 翌朝に聞けば、細かいところまでよく勉強しているから、知識についてはほぼ心配ないレベルには来ているのだと。


「正直、最後の追い込みの講習までは必要ないとは思いますが、ご本人もなにかをしていないと落ち着かないのだと思いますよ? ここまできたら、そっと見守っていてあげてください」


 そうだよな。ここまで来て、周囲が騒ぐことじゃない。そっと見守っていてやる。安心させてやるのが親の役目というものだろう。



 そのついでかもしれない。河西さんは俺の看護記録をみながらこう言った。


「菜須さんの試験の時期を目処に、小林さんも退院に向けたリハビリを本格化させましょうかね」

「本当ですか?」


 どうやら、よつ葉と過ごしたあの外泊のあと、数値が上向いているとのことで、もともと半年を目処にした休職だったから、いつまでも病院のベッドの上というわけにはいかない。

 仕事は少しずつ始めているけれど、勤務に耐えられる体力をつけなくてはならない。そのためには、一度退院して自分の部屋で暮らしながら様子を見るという経過措置も必要だ。


「それについては、菜須さんもなにか策があるみたいな話をこの間してましたよ?」


 よつ葉が対策を考えている? 俺にはよつ葉があんな大胆な行動に出るとは、まだそのときには考え付くはずもなかった。


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