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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
32/71

32話


 パパが食器の片づけを終えて、テーブルで日誌を書いたり、残ったお薬の数が合っているかなどの作業をしていたよつ葉に声をかけてくれた。


「どうだ? 看護日誌書き終わったか?」

「うん。もう今日の分は終わり。パパもお薬ちゃんと飲んでくれたし、就寝時間は明日の朝に書き加えれば大丈夫」

「そっか……」


「よーし、終わったぁ。パパ、お風呂の用意は出来てる?」


 昨日約束をしたことを覚えているかなぁ……と思いながら聞いてみた。


「うん。出来てるよ。着替えとかも全部洗濯機の上に用意してある」


 パパも覚えてくれていたみたいとホッとした。

 もしかしたら、「昨日のことは冗談だろ?」と言われてしまうかもしれないと心配していたから。


「うん、分かった。じゃぁ、一緒に入ろうよ。子どもの時みたいに」


 もう何年も前なのに、よつ葉のパパっ子は変わっていなかったようだ。

 そうだよね……。パパはいつもよつ葉の味方でいてくれたんだもん。パパっ子になるのも必然だった。


「よつ葉は平気なのか? その……」

「へっ? あぁ、だって、看護実習でも見るから。それによつ葉とパパでしょ?」


 昨日とは違い、背中だけでなく、基本的に体を洗うことを任せてもらった。そして洗ってもらうのもパパに任せていた。

 よつ葉も大人になった。でも恥ずかしいという気持ちは全くなかった。幼い頃と全く同じ。背中をタオルで擦ってもらうことなのに、目の奥が熱くなるのを感じてしまった。


「髪の毛もお願いしていい?」


 肩までの髪をシャンプーで丁寧に洗ってくれた。二人とも交代で洗い終わって、二人揃ってバスタブに入って見つめ合う。


「ふふっ。できちゃったぁ。やってみればどうってことないのにね」


 風呂上がりに、これも何年ぶりだろうか。パパがよつ葉の髪をドライヤーで乾かしてくれる。

 やっていることは自分一人でやっていることと全く同じなのに、どうしてなんだろう。いつもよりきれいに仕上がったように思う。


「明日もいいよね?」

「もちろん」


 今日やることは全て終わり、病室の消灯時間は午後9時。パパが声をかけてくれる。


「日誌は書き終わったかい?」

「あとこれだけ。就寝時間は今でいいよね」


 よつ葉が看護日誌の就寝時間を書いている間に、昨日と同じく1組の布団に二人で入る用意をしてくれたパパ。


「パパいい?」

「うん?」


 最初に並んで布団に入って、少し体を起こすとパパが声をかけてくれた。


「どうした?」


 パパの胸の上に耳を当てる。


「むかし、眠れないとき、パパはいつもよつ葉を抱き締めて、この音を聴かせてくれた……。変わってないね……。あの頃と……」


 パパの心音を聞きながら安心感を感じていた。パパにも同じように感じてほしくて声をかけた。


「パパ、手を貸して?」


 パパの手をとって、自分の胸元に当てる。


「よつ葉……」

「パパ……、分かる?」

「あぁ……」

「よつ葉、生きてきてよかったんだよね……?」

「当たり前だ。だからこそ、よつ葉と再会できたんだ。間違いない」


 今まで、自分の存在意義が見出だせなかった。でも、パパが掬い上げてくれた。


「うん……。頑張ってきてよかった……」


 パパがよつ葉の手を握ってくれる。


「こらからも、ちゃんと見守っていくのが俺の役目だ……。なんにも心配しなくていい……」

「うん……」


 パパに抱き締めてもらって、久しぶりに心を躍らせてはしゃぐことができた1日を思い出しながら、いつの間にか深い眠りに落ちていた。


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