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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
30/71

30話

 パパを起こさないように、ソッと布団から抜け出して洗濯機をかけ、朝食の準備をする。


 まず、ご飯を炊かなくちゃね。炊飯器にふたり分のご飯をセットして、在り合わせの物でおかずを作る。お味噌汁の具材は、ワカメとお豆腐。そしてベーコンとほうれん草のソテーを準備をしていると洗濯機が終わった音が聞こえてくる。

 パパはまだ眠っている様子なので、浴室に干しておくことにする。全てが終わった頃にパパがよつ葉に声をかけてくれる。


「よつ葉、おはよう。朝からやってもらっちゃって悪いな」


「パパおはよう。本当にあるものだけで在り合わせだけど許してね」



「よつ葉……」


「パパ、よつ葉がやりたかったことなんだからいいの。ちゃんと夢かなっちゃったよ?」


 パパに心配をかけないように明るく振る舞う。そしてふたりで食卓を囲む。パパの箸が進んでいる様子にホッとした。病院のときよりも食欲がある。それは大きな収穫だった。


「ごちそうさまぁ。片付けちゃうね」

「よつ葉、お皿の片付けはやっておくから、外出の用意を始めてくれるか? 着替えとかお化粧とかもあるだろう?」


 パパにお願いをして身支度をさせてもらう。


「お願いしちゃうね?」


 昨日買った服のタグを切り、並べて選ぶ。


「パパ、ちょっとこっちから目をそらしててね? ちょっと刺激強いかも? それともガッカリするかなぁ?」


 パジャマのボタンに手をかけながら、パパに意地悪を言ってみる。正直言えば、パパになら見られたって構わないと思ってる。昨日だって、よつ葉はパパに抱きついて寝ていたんだもの。体型だって分かってるよね。


 幸いこの部屋の間取りは2DK。パパも自分の着替えを取りに行くと、よつ葉の視線からパパが消える。


「パパ、ごめんね。ありがとう」


 襖の反対側からパパに声をかけた。


「謝ることじゃない。当たり前のことだよ」


 襖越しに話をしながら、ササッと着替える。



「パパ、終わったよ。ありがとう」


 よつ葉の声に、パパが襖を開ける。


「よつ葉……」

「なぁにパパ、なにかよつ葉についてる?」

「よつ葉……、きれいだ……」

「もぉ、パパ? お世辞は抜きだよぉ?」


 パパはよつ葉を褒めすぎる。本人は当然のことと言うけれど、よつ葉自身が聞きなれていないもの。学校でも言われたことない。


「よしよつ葉、出るぞ?」

「うん!」

 服と同じく昨日買ったブーツを履いて、前に買ってもらったマフラーを襟元に巻いて出発準備が出来上がる。パパとふたりで電車に乗りパパに着いて行く。


 パパに連れてきてもらったのは、郊外にあるキャラクターがいっぱいのテーマパーク。


「よつ葉はここ来たことないだろう?」

「もちろん。遊園地だなんてもういつ以来の話だろう……」


 パパが入場券を買ってくれて園内に入る。


「パパ、もぅ、こういうことは先に言ってもらわなくちゃ」


 パパと園内を巡る内に、だんだん気分が幼い頃に戻っていた。


「ねぇ、パパ、あのうさぎさん懐かしい!」

「よつ葉が小さい頃からいるよなぁ」

「うんうん!」


 そのあともパパと、ショーやパレードを一緒に見たり、乗車中に撮られた写真を買ったり、よつ葉の持っているスマホで、キャラクターと一緒に写真を撮ったり過ごした。

 小児科の実習をしたときに、よく枕元に家族写真が置いてあることがあった。

 よつ葉はこういう経験をそれまでしてこなかったから……。

 逆に、病室で寂しいと眠れない子たちの気持ちがわかった気がする。


 だって、今日はパパと一緒に撮ってもらえた写真たち。これは消したくない。よつ葉の宝物になったから……。

 いつまでだって、この画面を抱き締めていたいと思うもの。



「パパ……、体は大丈夫?」


 昼食に、よつ葉の好きなキャラクターの飾りをつけたパスタを食べながら、この瞬間だけは看護の顔に戻る。


「よつ葉こそ、慣れないことして大丈夫か?」

「うん、だってパパと一緒。こんなに楽しく笑ったの、前はいつだったんだろう……」


 パパっ子だったよつ葉に、この時間は懐かしく嬉しい時間。気にしているであろうパパに、この事だけはパパに伝えなくてはいけない。


「パパ、よつ葉もお姉ちゃんもパパのこと責めたりしてない。仕方ないことだったんだよ。そうでなきゃ今こうしてパパと一緒にデートなんか出来てないよ?」

「よつ葉……」

「おしゃれもして、一緒に手を繋いで外出して、一緒にごはんも食べて。そして、とても楽しい……。これって立派なデートだよね。パパはよつ葉に初めてのデートをプレゼントしてくれてるの」


 パパとの大切な時間だと言うことを、どうしてもパパに知ってほしかった。


「朝にお着替えをしたあとにね、どんなお化粧をしたら大人のパパとお似合いになるんだろうって、一生懸命考えた。ドキドキしながら普段とちょっとだけメイクを変えてみた。逆に普段より幼くなったかもって思ったよ。パパはそんなよつ葉のこときれいだって言ってくれた。よつ葉、朝から嬉し泣きずっと堪えてた……」


「ほら、よつ葉。せっかくの顔が台無しになっちゃうぞ? 俺だってこんな可愛い子隣に歩いて、どう見られるんだろうと思った。父娘なんだから当然なんだよな。病院じゃ見られないよつ葉の顔が見れてよかったよ」

「うん、だから……、よつ葉の初めてのデートのお相手はパパで決まりなの」


 そのあとの時間、パパとふたりでクレーンゲームをしたり、よつ葉が使う小物や文房具を好きな絵柄で買い揃えて、学校のゼミのメンバーへのお土産も買ってから、最後にクリスマスのステージを並んで見た。


「ぱぱぁ……」


 見終わったあとに、一番近い化粧室に駆け込んでメイクを直した。


「ただいまぁ」

「おかえり。よつ葉が疲れないようにそろそろ上がろうか」

「それは、パパが疲れたってことじゃないの?」

「それがなぁ……」

「パパ、よつ葉は思いっきり楽しめた。だから、お礼がしたいの……」


 電車での帰り道、パパに思っていることを伝えることにした。


「明日ね、あんまりお天気がよくないって言ってたから、よつ葉がおうちでお料理作ってお祝いしようって思ってたの。あと、今夜のお夕飯のことも考えなくちゃ。帰りにスーパー寄っていい?」


 パパは、よつ葉の言葉を黙って最後まで聞き方頷いてくれた。二人で食料品売り場でカートを押す。


「よつ葉、今日の夕飯は俺が作るよ」

「えっ? でもパパが……」


「よつ葉がいればこれだけ元気でいられる。逆に、明日はみんなよつ葉に任せるから」

「うん、任されたよー」


 二日分のメニューを考えながら、ふたりでカートに入れていく。


「よつ葉……。夜更かしは体に毒だ。夕飯を作っている間に看護記録書いてしまいなさい。それに、試験の参考書も持ってきたんだろ? それをやってなさい」

「ぱぱぁ……」


 家に戻り、明日の食材を冷蔵庫にしまい、夕食分で使う分を並べておく。


「今日はサーモンのムニエルにするから、少し待っててくれな? ご飯炊いてすぐに作るから」

「うん……。じゃあ、それも記録に書いておくね」


 パパの言葉に甘えて看護記録を書き始めた。


「パパ、いくら一時退院でも、今日のこと全部書いたら怒られちゃうかなぁ?」

「そこは……、そうだなぁ、適当にはしょっておけ……。真実はよつ葉とパパの秘密だ」

「パパ悪いんだぁ!」

「そういうのを必要悪って言えるかなぁ……。河西さんにはナイショだぞ?」


 昨日と同じくお皿やお椀がふたつずつ。幸せを感じる瞬間だった。

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