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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
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14話

 島指導看護師さんに今日からもうひとり受け持ちを持ってもらうから挨拶に行くと言われていた。


「おはようございます。島看護師と一緒に担当をさせていただきます看護実習生の菜須よつ葉です。よろしくお願いします」


 そう挨拶をしたときだった。


「要らん」


 一言返ってきたが、島指導看護師が患者様と話をしていたとき島指導看護師に指示されていた点滴の準備をしていた。


 その患者様が行動を起こした。


「こんな若いのを寄越したんか!」

と怒鳴り付け、点滴スタンドを投げつけてきた。咄嗟の事に何もできず、左腕にまともに当たってしまう。痛みが走り、見ると裂傷で出血していた部分を押さえて震えることしかできない。


 島指導看護師がナースコールをして、応援看護師や医師が病室に入ってきた。医師がよつ葉の怪我を診て、


「救急外来で処置してもらっておいで」


 その指示に島指導看護師に連れられて病室を出たところで舞花さんが立っていた。救急外来の処置室に連れられて入室をすると救急医が既に待機していてくださっていた。きっと病棟から連絡が入っていたんだろうと思う。


 「災難だったね。痛いね。診せてもらえる?診察と処置をしようか」


 そう言って、傷口を診察して処置を始めてくれた。


「裂傷と打撲だね。傷は浅いから縫う必要は無いと思うよ。その代わり2、3日は余り力を入れないようにしてね」


 そう言いながら裂傷の処置をしてくれている救命医。さすがに、一刻を争う治療をしている医師だけありこんな裂傷の処置は朝飯前の処置だ。


「ありがとうございます」

「いえいえ、残りの実習も頑張って。違和感あったら直ぐ言って。明日から実習前にここに寄ってから実習参加して」

「はい。よろしくお願いします」

「未来の仲間だからね」


 そう言って本来の仕事へ戻っていかれた。河西看護師長が、廊下へ出ていたようで戻ってきて


「島さん、ごめん。大西さんの続きをお願いしていい? たぶんみんなのお仕置きを受けているとは思うけど、一応担当替えも指示をするつもりだけど。菜須さんはちょっと落ち着かせてからどうするか判断するわ」

「かしこまりました」


 島指導看護師も処置室を出ていかれた。


「よつ葉、大丈夫か?」


 汐希パパの声が聞こえて甘えたかったけど甘えるわけにいかない。やっぱり汐希パパに迷惑や心配をかけたらダメだと思い直しいつものよつ葉を装う努力をする。


「うん……」


汐希パパは河西看護師長に話しかける。


「怪我の程度はどんな感じでしょう?」

「浅いですが裂傷……切り傷ですね。あとは打撲です。傷も浅いので縫合などはしておりません、まだお若いので傷跡も残らないと先生もおっしゃってます」

「そうですか。よかった……」


 河西看護師長とパパの会話を黙って聞いている。


「菜須さん、数日だけど傷が癒えるまでは包帯もあるから、作業自体は見学で学んでちょうだい。あなたならそれでも十分だと思うし。ただ、小林さんは別ね。検温や投薬も含めていつも通りでお願いします。巡回も無理にとは言わないわ。あの部屋なら二人でずっと話すこともできるでしょ?」


「看護師長……」

「いまは『ショック状態』だから、それを抑える鎮静剤がない訳じゃないけど、ここにそんなものより効くお薬がいらっしゃるんだから、二人でお昼を食べて少し落ち着いていらっしゃい。午後の暖かい時間なら病院の庭くらい散歩してきてもいいわよ」


 河西看護師長に見送られて、汐希パパと二人で部屋までの廊下を歩く。


「お昼はどうしてる?」

「お弁当持ってきてるから、ロッカーに取りに行ってきてもいい?」

「分かった。俺は部屋に戻ってるから、そこで待ってる」


 ロッカーに戻る前にナースステーションへ行き、迷惑をかけたことを謝罪すると先輩看護師の皆様は、笑顔で言葉を返してくれた。その声に頭を下げてロッカーへお弁当を取りに行ってパパの病室に向かった。


 ノックをして病室に入る。


「食べられるか?」

「うん。左腕だし、手は使えるから」


 あまり食欲はない。なかなか箸が進まない。そんなときパパが、

「この間の三者面談で、こういうことを言っていたんだろう?」

「えっ……?」


「なんだ、おまえが一番理解していると思っていたぞ? 医療事故があったり、こうして自分が傷ついてしまうこともある。そういう現場に大切な娘を出していいのか?と聞かれたと俺は理解したんだがな。おまえが今回のことで看護師になることをもし躊躇するようなら、俺はそれに反論するつもりはない。別の道はいくらでもある」


 そっかぁ、そこまで考えていなかった。


「……ううん。それはないかな……。でも今はちょっと時間がほしい……」


 そうは、言ったけど看護師と決めここまで来たよつ葉は他に道がない。考え込むよつ葉にパパは


「さっき、河西さんが散歩ならいいと言ってたよな。外に出るか」

「うん……。手続きしてくるね」


 ほぼ残してしまったお弁当を片付け、ナースステーションに向かう。そして河西看護師長に小林様の中庭への散歩の申請をとり看護記録に時間と中庭へ散歩と記入してばパパの病室に戻る。


 パパと一緒に歩いていると


「菜須さん、ゆっくりしてらっしゃい 」


 河西看護師長が声をかけてくださった。


「はい……、ありがとうございます」


 エレベーターに乗り込み中庭へ向かった。

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