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夢はひとりみるものじゃない  作者: 小林汐希・菜須よつ葉
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12話

 今日は検査出しの勉強をしましょうと言われて、検査時間を確認して検査室に連絡を入れたりと色々と忙しくしていた。その時、河西看護師長がナースステーションに来て


「菜須さん、私服に着替えてここに戻ってくれる? 荷物は要らないわ」

「えっ? 検査出しの途中なので」

「よつ葉ちゃん、代わるよ~」


 笑顔で島看護師が代わってくれた。

 何がどうなっているのかわからずいたが、取り敢えず更衣室へ着替えに行くことにした。


「さぁ、着替えて来て」

「はい」





 着替えて戻ると、河西看護師長が


「もう、お化粧も直してこなきゃダメでしょ」


 そう言ってよつ葉をナースステーション奥に連れていかれ河西看護師長がポーチを取りだし、ファンデーションで整えてくれた。


「さぁ、行くわよ」

「えっ? 何処に?」






 パパの病室の前に来て、ドアをノックする河西看護師長。


「失礼します。菜須さんをお連れしました」

「ぜひ、中にお願いします」


「菜須さん、中に……」

「失礼します……。佐々木教授!」


 思わず声に出てしまうほど驚いた。何がどうなっているのか……


「菜須さん、これで三者面談になります。この間の続きをしましょう」


 病室に置かれていた丸椅子に腰を掛ける。


「お父様にはこれまでのことをお話ししました。そして、菜須さんの事情もお伺いしました。そこで、大学としては、こちらの小林さんを菜須さんの保証人として登録し、その方との面談を行うことで、正式な三者面談として書類を製作したいと思います。それでよろしいですか?」


「はい……」


 佐々木先生から、これまでのこと、そしてこれからの予定のことについて説明が行われる。


 統合実習の延長もきちんと結果を残しており、病院側からも高評価を得ている。


 国家試験についても、模試上では十分な結果が出ている。


 あとは、本人の意思と家族や保証人の同意なのだと。


「菜須さん、このまま試験まで進まれて、合格した暁には、看護師として活躍することを貴女自身は望んでおられますか?」


「はい。私は看護師になりたくて、家を出る覚悟でここまで来ました。なりたいと思っている職業です。いえ、なりたいんです」


「分かりました。二者面談のときと変わりませんね。それでは、お父様にお伺いします。お嬢さんは今のように仰っています。医療現場というものは時として凄惨なこともあります。そういう場に、大切なお嬢さんを送り出すことを、お父様としてはどのようにお考えなのでしょうか?」


 佐々木先生がペンを持った。


「よつ葉が、看護師という職業を自分で悩み抜いて選択し、そして結果を残していること。国家試験を控えて努力している姿を、こうして実際に見ているわけです。患者としても、この子に看護してもらえると安心するのですよ。私には反対する理由など、どこを探しても見つかりません」


「パパ……、よつ葉は看護師になっていいの?」


 反対される家の中で、誰にも聞けなかった質問。


「なりなさい。おまえは看護師になりたいという自分の信じた道を進みなさい。本人がなりたいことに進めること、そしてその夢に向かって応援すること。それが俺の教育方針だ。辛くなったらいつでもいい、帰っておいで。そうやってひとつずつ大人になっていくんだから」


「うん……。はい!」


「菜須さん、分かりましたよ。十分です。今のまま来年の試験に向けて準備を進めてください。大学としても、精いっぱいバックアップさせていただきます。三者面談をこれで終わりますよ。小林さん、申し訳ないですが、ご署名をいただいても宜しいでしょうか? あと、年明けに最終の面談があるのですが、それもお父様でよろしいですか?」


「ええ、もちろんです」


 パパが書類にサインをして、佐々木先生は笑顔で部屋をあとにしてくれた。


「パパ……、いいの?」

「これができるのは俺しかいないだろう?」


 パパがそっと両手を広げたので、思わず胸元に飛び込んでいた。

 何年前になるのだろう。パパに抱き締めてもらえるなんて……。


「自分の信じた道を行きなさい。辛くても頑張れる。それに一度大人になればスタートラインはみんな一緒だ。何度でもやり直すことはできる。まずは、自分の第一希望に進みなさい」


「はい……」


 パパに頭を撫でてもらい、今まで我慢していた涙が流れた。


「よくここまで頑張った。もう少しだ。おまえなら胸を張って送り出せる」


「もう、みんなよつ葉を置いてきぼりにして話を進めるんだもん。いきなり「私服に着替えて」なんて、何かあったのかと思ったよ……」


「ごめんな。他の学生にそんな話が漏れたら厄介なことが起きるかもしれない。河西さんに全面協力してもらった」


「看護師長にお礼を言っておかなくちゃ」

「河西さん、ちゃんと分かってるよ。だから、ウインクくらいしてやれば十分に分かるだろう」


「あぁ、パジャマ濡れちゃってる。戻ったらすぐに着替え持ってくるね」

「急ぐ必要はないぞ。それに、俺が水こぼしたくらいに言っておけよ?」

「はぁい」


 そっと、病室を後にして更衣室へ向かった。

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