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レバーを引く

作者: 電波式廃墟少年

レバーを引くだけならだれでもできる。ではその先は?

私の大切な人が亡くなって3年がたった。

シュウくんはその日、朝練に自転車で向かっていた。商店街を通り抜けた時にトラックに撥ねられて帰らぬ人になった。

私はそんなシュウくんを家の前で引き留めてしまった。それが原因で死んでしまったんだ。

引き留めていなかったら。発明品なんて見せずにそのまま行ってらっしゃいの一言で送ってしまえばよかったんだ。


夏休みが明けて高校で黙とうした。そしてその時に誓ったことがある。


私はシュウくんを助ける。そして告白する。



――――――――――



外から車と人が行き交う音が聞こえる。窓にはカーテンがかけられ、日光が隙間から漏れる程度である。この部屋で暮らし始めてどれくらいたったのだろう。

目の前には出来たばかりの鉄の箱がある。


「やっとできた。」

タイムマシン。私が短期間とはいえ完成させた作品。中には説明したくなくなるような量のプログラムを書き詰めた機械が入っている。人が一人入れる先が尖った半円柱の真ん中には、数十個のボタンやレバーとモニターが付いている。モニターには水色のデジタル記号が並んでいる。それらは16桁の数列をなしている。横には木製のテーブルが置かれ、上にデジタル時計が置かれている。


20240915131529・・・・・・下2桁は高速で変化している。

手元のスマホを見る。9月15日13時15分と表示された待ち受けを眺めた後タイムマシンを見つめる。


ボタンの横には「片羽かたばね ひな製」と書かれた金属プレートが張り付けられている。

「よし。行こう。」


私は大きく深呼吸するとボタンとレバーを無心で操作していく。モニターには20210825060000と表示される。

私は数字を3度見返した後、左に或るレバーを引く。

「待っててね。今行くよ。」

白衣の右胸あたりで小さなメモ帳ごと握りしめる。成功させるっていう誓いである。


その瞬間あたりの音が消え、景色が白く染まる。




――――――――――



次に私が見たのは先ほどと同じ部屋だった。目の前には依然と鉄の装置が私をにらむように置かれている。私は手元に或るスマホを開き、時間を見る。


8月25日


私は一息つくとダッシュで背後に或る扉を開けた。その先には石の階段が下へ下へと延びていた。そこから外に出れる。私はこの景色を何度も見てきた。階段を飛ばし飛ばしで駆け降りる。

「確かシュウくんはこの後商店街に行くんだっけ。」

私はコンビニに並んでいる新聞を横目に走る。この新聞は何度でも見てきた。人が次々と横目に私を見るが、わき目も降らず走り続ける。朝ということもあり、通勤する社会人達のYシャツばかりが目に留まる。


「事故まで30分・・・シュウくんは確か今から高校に向かうんだっけ。」

私はメモ帳を取り出す。そこには事故が発生する前に起こった出来事が書きなぐられていた。1枚1枚精密に書かれていたスケジュール、それは私が繰り返し挑戦し続けた証である。今いるところから商店街までは走って10分である。十分間に合う。


私の作戦はこうだ。

事故が発生する6時32分までにシュウくんの自転車を商店街で止めること。それができればシュウくんは助かる。シンプルなことだ。

しかし、この作戦には問題が一つ存在していた。私の運動能力がそれに見合わないことだ。

どれだけ簡単に見えても、運動能力が中学からなかった私にとっては最大の壁でもある。

最初は当然のごとく時間が足りなかったので、失敗するたびに元の時間に戻って脚力を鍛えた。タイムは回数を重ねるたびによくなっていた。おかげで私の部屋にはいつしか陸上のトロフィーが飾られていた。


そんな事を思い出しながら私は商店街の入り口へと差し掛かる。私は入り口近くの八百屋の前で足を止める。商店街はまだ店が一つも開いていない。息を切らしながらシャッターに手を突く。

スマホで再度時間を見る。そこには6時16分と表示された待ち受け画面が映っていた。外に出るまでの時間を加味しても少し遅くなっただろうか。

「大丈夫。あと15分はある。これならまだ止められそう。」


これならうまくいく。最後のチェックにと私はメモ帳を見て復唱する。

「商店街の右、左、右、左・・・・・・そして今回は右。よし!」

私がこんなことを確認するのは、この時間移動によってさまざまな変化が起きてしまっているからだ。

シュウくんが自転車をこいでくる方角、ぶつかるトラックの走行車線、商店街の人通り。それらは決まったパターンを繰り返していることが分かった。私はその繰り返しのパターンをメモ帳に書き綴ってある。今回はすべて把握したうえでの挑戦だ。

この通りは丁字路になっており、見通しもそこまで悪い場所ではなかった。


私はメモ帳の最後に挟まっている一通の手紙を取り出す。あの日渡し忘れたラブレターだ。

本来、あの時私はラブレターを渡すつもりだった。しかし、寝ぼけた勢いで忘れてしまい渡そうと取りに戻った時にはすでに走って行ってしまったのだ。ちゃんと持っていけばよかったのではと思うが、なぜかあの時見つけるのに時間がかかった気がする。置き場所はわかりやすいところにするべきだった。


「シュウくん、これ見たらどう思うかな。びっくりしちゃったりして。」

幼馴染でどこに行くにも一緒だったこともあり、周りからはカップルじゃないかという疑惑も持たれた。でも、私たちからしてみればただの幼馴染でしかなかったのでどうでもよかった。それでも、その疑惑は日に日に私の気持ちを一つに固めることになった。


そこで私は自分の思いを伝えるためにこのラブレターを書いた。そんなものを渡せなかった上にそれが原因で亡くなったなんて本当に嫌になるくらい私のせいだろう。


スマホの時間は27分と出ている。そろそろだ。

私は商店街を出て右の通りを頭だけ出して見る。遠くから自転車を漕いできた少年が見える。背中にはテニスラケットが入っているようなケースを背負っていた。

「くっそ!あいつのせいで遅れるじゃねーか!」


なんども聞いたシュウくんの愚痴。申し訳ないけどそれも今日で最後。

今回も止められる位置に私が立っている。後は止められる時間次第だ。

頭を引っ込めるとラブレターを片手に深呼吸する。そして飛び出そうとしたその瞬間だった。



ブロロロロ

「えっ!」


目の前の通りから車が走ってきていた。一般的な赤い薄型の自動車。今までにないパターンだ。

「(どうして!トラックじゃない上にこの通りに出てくるのは初めてよ!)」

距離からすると自転車と衝突する可能性は非常に高い。シュウくんも自転車を全力で漕いでいるため、自分から止まったとしてもブレーキが間に合う保証もない。

「こうなったらシュウくんとぶつかってでも!」


私は決死の覚悟でラブレターを片手に飛び出す。

「シュウくん!」

「うわっ!飛び出してくんなぁ!!!」


キキーッとブレーキ音が耳に響く。ぶつかる覚悟はできている。少しくらいの怪我など気にしてられない。

もしここで避けたら車とぶつかる。死ぬことは確実だしそれだけは避けたい。それにシュウくんとぶつかるくらい少しはいいかななんて思ってしまう自分がいた。


ガシャアン!


私の予想通り自転車と衝突し自転車の下敷きになる。シュウくんは投げ出されたが車道とは反対側に飛んでいった。車も急ブレーキで止まる。丁字路の角に差し掛かる前で車が止まり、私が巻き込まれることもなかった。


「(やった!やっと!やっとできた!)」

私は自転車の下で泣きながら喜んでいた。ひと目見れば自転車の下敷きになって苦しんでいる人に見えるだろう。私は自転車をどかすと、シュウくんに歩み寄り手を差し伸べる。


「シュウくん、大丈夫だった?」

私は期待のまなざしで手を差し伸べる。

シュウくんは唖然とした表情で私を見る。最後に見たのは私の家だから当然のことだ。ここに来るにしても自転車で20分もかかる。そんな私が何故かここにいるから――


「・・・・・・あ、ありがとう・・・・・・ございます。」

「あ、そうだ。これ、実は渡したかったものなんだけど。後で読んでね。」

「へ?」

先ほどからシュウくんの様子がおかしい。私の顔なんて何度も見慣れているはずなのに変である。


「シュウくん?」

「あ、はい。」

「さっきからよそよそしくない?もしかして、今の気にしちゃった?」

「え・・・・・・。」

「大丈夫だよ。ほら、私どこもケガしてないし。あ、この白衣はちょっと趣味で着てるだけだから。」

「そ、そうですか。」


シュウくんが私の手を取って立ち上がると土埃を払う。

車の運転手も出てきて私たちの所へ来る。着崩した緑のジャケットを整えた男の人だ。

「おい、大丈夫か?」

「あ、大丈夫です。シュウくんも大丈夫なので安心してください。ごめんなさい。」

「そ、そうか。俺も急いでるからこのへんで。」


運転手は安心した表情で車に戻り角を右に曲がる。やっぱりとめてよかった。とめなければそのまままがってシュウくんとぶつかるところだった。何も間違っていなかった。


「あ、あの。」

「ん?どうしたの?」

「どうして、俺の名前知ってるんですか?」


・・・・・・え?


「いや、俺の名前知ってるんですか。」

「え?だってシュウくんでしょ?知ってるよ。」

そしてシュウくんが私に尋ねてきた。



「いや、おばさん。俺知らないんだけど。」

「お、おば。」


私は急いでスマホのカメラを起動させると内カメラに切り替えて顔を見る。


そこには老けた私の顔がそこにあった。

「んじゃ。」


呆然とする私を横切ってシュウくんが自転車を漕いで学校へ向かう。私はスマホを落としたがそれに気づかなかった。


私はただシュウくんを助けてやり直したかっただけなのだ。それに時間をかけすぎただけのはずだった。

時間を。時間を。・・・・・・時間を?


この時、私は初めて気が付いたのだ。

私がタイムマシンを使ってやり直しても3年という時間だけは覆ることはない。更に、私が時間を行き来する間にも私の時間だけが進んでいたのだ。その結果、私は知らない間に普通の人以上の時間を"過ごしてしまっていた"のだ。


シュウくんは救われた。私は3年前の過ちを自分の手で直すことができた。そんなはずなのに、私の心の中では救われなかったという答えだけが残り続けていた。


――――――――――


私はあの後重い足取りでタイムマシンのある部屋まで戻ってきた。そこには依然新品同様のタイムマシンがあった。

「そうだ、帰ろう。やることはやったんだ。」


私はボタンを操作する。


203801190314080000

表示が切り替わる。しかしこれは私が来た時間ではない。

私は時間を確認することもなく、虚ろな目でレバーを見る。


「これを引けば・・・・・・」


レバーに手をかけ、手前に引く。


それが、私の最後に見た景色である。


こんばんわ。電波式廃墟少年です。


1話完結の超小話です。

シュタゲに触発されて作ってしまいました。タイムマシンネタです。

なんか濃いの期待していた人には申し訳ないのですが小話なので許してください。


ここでこの話がつかめなかった人向けに話すと、

タイムマシンって移動した人の時間は変わるの?

という疑問があって、私の中で考えた結果時間は変わらないということになったのですが

これ未来に戻るたびに年を取り続けているなんてことも・・・・・・なんて考えてしまったので

こういった結末になりました。


さて、最後にあった2038から始まる数字列ですがタグに書いたものがヒントです。

行き先はいつの時間でしょうかね。

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