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探索 ゴブリンの穴

僕の住む街の名前がまさよシティーとかいう狂気の名前になって1ヶ月が過ぎた。


1ヶ月の間にわかった事がある。



人間、なんにでも慣れる。という事だ。



最初に聞いた時はレベルの高い異世界イジメかと思ったけど、どうやら本当にドラゴンスレイヤーは名誉な事らしく、僕の名前の入った街の名前になる事に関して街の人達はほとんど反対しなかったそうだ。


事前の住民投票での賛成率はなんと脅威の95%。これはもはや止めろというのが無理な話だろう。


ロクな通信手段の無さそうなこの世界で、街という狭い範囲で悪いウワサが広まれば社会的な死を意味するので、変な部分でケチな奴だと思われたくない。


それに、悪い事ばかりでもない。ちょっとフラっと街を散歩すれば、すれ違う人達がみんな挨拶をしてくれる。


最初の頃こそそれはもう大変な騒ぎで、僕が道を歩くだけでどこでも人だかりが出来たけど、1ヶ月ほどしてだいぶ落ち着いてきた。



なんと言うか、まったくなんの下地も無い世界でこうして社会の一員になっていると思うと、なんだか不思議な感じがする。



漫画やゲームのおかげで異世界という場所が中途半端な海外より身近に感じていたけど、そもそも異世界だからね。異なる世界と書いて異世界だからね。


初めて見る新参はとりあえず殺して身包み剥いで耳をそぎ落とすような習慣だったり、人型の生き物なんか一切存在しなくて肉食のバカでかいミミズみたいな生物しか居ない世界だったとしてもおかしくないわけで。


そう思うと、こうして異世界生活に一応は馴染めている事を幸せに思うべきなのかもしれない。



こんな平和がいつまでも続けばいいのにな。そんな風に思うけど、そもそもの目標は魔王討伐なので、それもなかなか難しい事なのかもしれない。



そんな、とある日。僕達の平和は、いとも簡単に脅かされる事になる。



「た、大変ですみなさん!お願いです助けてください!」


あまりにやる事が無いので暇つぶしに僕が作った『異世界人生ゲーム~ナイトメアモード編~』というすごろくに夢中になっている僕達の家に、町長さんが血相を変えてやってきた。


「どうしたんですか?落ち着いて話してください」


「は、はい!えっと、あのですね、まさよシティーのウワサを聞いて、ぜひ1度まさよしさんにお会いしたいと言う貴族の娘さんが、馬車でこちらに向かう途中でモンスターに襲われて拉致されたとの情報が入りまして!!」


「なんやて!大変やないの!えらいこっちゃ!遊んでる場合やないな!助けに行かなアカンで!」


『死に戻りゾーン』にハマリ続け現在23周目に突入して不機嫌だったよしえさんが、我先にと食いついた。


「ほら!あんたらも早く用意しといで!さっさと行くで!」


『異世界最強スマホ』というアイテムを手に入れ、まさに絶好調だった僕としては少し惜しい感じがしたが、人命には代えられない。


「ありがとうございます!外に馬車を用意してありますので、準備が出来次第すぐに出発します!」


手早くセタさんに作ってもらった道具達をカバンに詰め、僕達は慌てて馬車に乗り込んだ。



「場所は?」


「以前にゴブリンの襲撃があった森林地帯の辺りです!」


僕にとって嫌な思い出のある場所だ。今度はもっと頑張らないといけない。



馬車に乗ってしばらくすると、なるほど以前の場所にまたしても横倒しになった馬車と、すでに犠牲になった数名の遺体が転がっていた。


「なんかあれやな。こういう言い方はアレかもしれんけど、前にも見た事あるような光景やな」


「どうやら、この辺りに奴らの根城があるようなのです。ただまぁ見ての通りどこまでも森林地帯ではあるので、詳しく調べるのもなかなか難しく・・・」


まぁ確かに、一応通行用の道はあるもののそこから外れれば見渡す限りどこまでも木。伐採の道具がどんな物があるのかはわからないけど、本当にあるのかどうかもわからないような場所を、モンスターに殺されるかもしれないリスクを背負いながら調べるのは想像以上に苦労するだろうなと思った。


無駄な開拓はしない。という異世界エコロジーが裏目に出た形だと言えるかもしれない。


「どれくらい時間がたってるんですか?モンスターの種類とか数は?」


「時間は、1時間ほど前ですかね。襲われた中の1人が街まで辿り着いて教えてくれました。その1人以外は・・・。あと、モンスターの種類ですがゴブリンとオーク、それにハイオークもいたそうです」


1時間か・・・。モンスターが連れ去った人をどうするつもりか知らないけど、もうそんなに猶予は無いような気がする。


それに、ハイオーク。確か僕とよしえさんが初めて出会った時にこの町を襲っていた、あの灰色のオーク。



ゴブリンに殺られた場所で最初のモンスターと戦う事になるかもしれないとか、なかなか因縁大集合。



「よし!わかった。ほな、グズグズしてる時間は無いし早速この辺りを探すで!」


「よ~し!早く探してモンスターなんかぶっ殺しちゃいましょう!乙女をさらうなんて許せませんよ!」


腕まくりしながら足早に森の中へと向かうよしえさん。そこにマキノさんも続く。


「あ、あの!」


「どうした?マー君。場所が場所やし怖くなったんか?無理せんでええよ?」


優しい目をして語りかけてくるよしえさん。しかし、僕が言いたいのは怖くなったという話ではない。


「い、いや!そうではなくて、あの、逆ですよ逆!もうあんまり時間無いかもしれないし、これだけ広大な森なので、手分けして探しませんか?」


「手分け・・・?バラバラに探すんか?・・・大丈夫か?」


今度は心配そうな顔になるよしえさん。きっと、以前の光景を思い出しているに違いなかった。


「大丈夫です!前より装備も充実してるし、僕もそこそこ特訓しましたから!」


もっとも、僕の場合欠けているのは装備や実力よりも心構えというか、異世界標準の倫理観。悪・即・斬。とても難しい事だけど、今回は時間も無さそうだしなにより他の人の命がかかった話なので躊躇している余裕も無い。迷えば人が死ぬ。



「・・・わかった。ほな、各自バラバラで探索しよか。まぁマキノちゃんは大丈夫やろうけど、マー君も絶対に無理はしたらアカンで?無理やと思ったら逃げて大声で叫ぶんやで?」


「はい。わかりました。前と同じヘマはもうしません」


「・・・ふふっ。なんや。ちょっとは男らしい顔するようになったやんか。よし!ほなみんなで頑張って生きて帰ってゲームの続きやな!」


「そうですね!私もせっかく『トゲトゲモーニングスター』手に入れたところだったから、早く帰って続きがしたいです!頑張りましょう!」


そういう言い方をすると生きて帰ってこれなくなるような気がする。



こうして、各自バラバラに森林地帯の探索をする事になった。



一応綺麗っぽい感じで整備された街道を横にそれ、生い茂った森の中へと踏み入っていく。


20mも進んだところでもう方向感覚が怪しくなってきた。森の中で迷子になってしまわないように、事前に町長さんから渡された魔法の技術で作られた『消えないチョーク』で目立った木に印を付けながら慎重に進む。


発見した場合の合図用に信号弾も渡された。空に向かって打ち上げる花火の用な物のようだ。こういう時にスマホの無い生活の不便さを感じる。



まったくよくわからない似たような景色ばかりの森の中を、なんの手がかりも無しにモンスターを警戒しながら進むというのはやはり思った以上にストレスと疲労が凄い。


30分ほど歩いただけでもかなりの疲労感だ。突然モンスターに襲われて走って逃げたら道に迷わない自信も無い。



ふいに不安になり、腰にぶら下げた剣の柄を握る。



この街に帰ってきてしばらくしてから、よしえさん達とこの剣の威力を試すために木や岩を切ってみた。それはそれは恐ろしいくらいスパスパ切れたので、とんでもなく恐ろしい物を渡されたのだと気がついた。


魔力を剣の切れ味に変換する方法についてはさっぱり想像もつかないが、とにもかくにも魔法。元居た世界だって、大半の家電がどうしてそうなるのかの原理など知らないのだから。



探索を続け1時間ほど過ぎた頃。



森の中に、遠目でポツンと拓けた場所を見つけた。そこに立って見張りをしているらしいゴブリンが2匹。


どうやら当たりを引いたかもしれない。


気付かれないように慎重に近付く。信号弾を使う事も一瞬考えたが、あまり派手にやって見つかってもマズイ。ここに駆けつける間に間に合わなくなってしまうかもしれない。


ゆっくりと。だがなるべく急いで近付いていく。



ゴブリン達はなにやら会話に夢中のようで、僕に気付く様子は無い。近付いてみると、どうやらゴブリン達のすぐ近くの地面に大きめの穴のような物が空いていて、そこが奴らの根城かもしれない。


もうすぐそこにいる。距離は5mほど。緊張が走る。



なるべく音を立てないように、カバンの中から光る球とサングラスを取り出す。正面から戦っては不覚を取りかねないし、戦闘になって長引けば事態は恐らく悪化する。


悪・即・斬。およそ勇者らしからぬ行動かもしれないけど、不意打ちで暗殺。これしかない。


手にかいた汗で球を投げる方向をミスらないように、1度服で手をふいてから球を握る。



これを投げれば、もはや後戻り出来ないレベルの発光が始まり、そこからは時間との勝負だ。


よしえさん達に言わせればたいした事無い相手だろうけど、僕にとっては1度は殺られた相手であり、しかも複数だ。



大丈夫。大丈夫。僕はいける。僕はいける。


いくらモンスターと言えども命を奪う事に抵抗はあるものの、グズグズしていては大変な事になる。考えたくは無いが、もうすでに手遅れである可能性だって充分にあるのだ。


ためらっている余裕などない。



1度大きく深呼吸し、僕はゴブリンに向かって光る球を投げた。


幸い球は上手くゴブリン達の足元へと転がった。ゴブリンズが不思議そうに球を拾おうとした瞬間、強烈な光を放った。


「グァっ!!」


声にならないうめき声を上げうろたえるゴブリンズ。


そこに、サングラスをかけた僕参上。


剣を鞘から抜きボタンを押す。ブーンという低い音と共に剣が光る。


ゴクリ。と1度生唾を飲み込み、全力でゴブリンズの胴体を横に払う。


特にこれと言った抵抗も感じないままに、ゴブリンズの上半身と下半身が分かれ、彼らは動かぬ肉の塊と化した。



おびただしい量の血液が噴出し、中の具が散乱する。



自分で作り出したその光景のおぞましさに一瞬吐き気を覚えたが、なんとかこらえた。ここでグズグズしている暇は無いのだ。


またしても、モンスターを殺した。しかも、完全なる不意打ちで。もしこれでこの穴の中に何も無かったとしたら・・・。僕の犯した罪は誰が裁くのだろうか。


この凄惨な現場を見て、テレレレッテッテー♪と陽気な音楽でレベルアップする気分にはなれなかった。


鼓動は早く動揺も凄いが、この気持ちこそが僕が僕として生きてきた証であり、大切な感情だと思いたい。だからと言ってよしえさんやマキノさんが異常者だとも思わないんだけど。


この辺の折り合いは今後もなかなか付きそうになかった。



穴のふちの部分にハシゴのような物がかかっており、降りて中に入れるようになっていた。ここでも信号弾で仲間を呼ぶ事を考えたが、全員の位置関係がわからずいつ増援がくるかも不明な今の状況ではあまり得策と思えなかった。



僕が、中に入って調べるしかない。



元・ゴブリンズの足元に落ちている球を回収し、僕は意を決してハシゴを伝って穴の中に入っていった。

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