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街の名は

「・・・知ってる天井だ」


僕が目を覚ますと、目に入ってきたのは何度もよく見た我が家の天井だった。


「・・・どうやってここに?」


1人つぶやき、ベッドから起き上がろうとすると猛烈な頭痛に襲われた。


そうだ。昨日は町長さん主催の宴に呼ばれて・・・。たくさん飲んで・・・。


途中から記憶が無い。覚えていない。どうやって家に帰ってきてここで寝たのか記憶にない。


漫画やドラマなら、ここで隣を見れば見覚えの無い、もしくはいつも一緒にいる人なんかが裸で寝てたりするんだけど、幸いそんな事は無かった。



「あ~~~気持ち悪い。頭痛い」


1人寝室で昨日の事を悔やむ。これからはもうちょっとほどほどにしよう。


ノドが干からびてるんじゃないかと思うくらいに乾いていたので、とりあえず水を飲みに1階に降りた。



「おはよう!マー君!」


「おはようございますまさよしさん!って言ってももうお昼近いんですけどね」


すでに目覚めていた女性陣の元気な挨拶。なんでもない日なら気にならないんだけど、二日酔いの朝にはちょっと堪える。



「あぁ・・・。おはようございます。ちょっと、水でも飲みにと思って・・・。」


ガサガサの声で返事をする。もうダメだ。頭痛過ぎてこの世の全てが敵に見える。今日は部屋でおとなしく寝てるかな・・・。


「それにしても、よしえさんはまだしも爆睡してたマキノさんまでそんなに爽やかなのはどうしてなんですか?」


たしか宴会が始まって割りと早い段階でテーブルに突っ伏して寝てたような気がする。その辺はまだ覚えている。



「なんかお酒って苦手なんですよねぇ~。絶対ジュースの方が美味しいですよ。よしえさんもそう思いません?」


「私はまぁ、ほら。結構いけるクチやからな。出来る女は酒も強いのよ」


ドヤ顔のよしえさん。女神とは?飲んでもいいの?でもまぁ祭り好きの神様とかいっぱいいるしそんなもんかな。


「で、どうしてそんなに元気なのか?って話でしたよね?簡単ですよ。ほ~ら。いたいのいたいのとんでいけ~~~♪」


そう言ってマキノさんが僕の頭に手を当てる。もうすっかり見慣れた感じの回復の光がパーーっと。



「・・・治った」


なんとまぁ便利な世の中になったもんでしょう。異世界では薬局って概念はあるんだろうか。便利な反面、どこまでいっても体調不良が認められなさそうで怖い。労働環境とかどうなってるのかな。


「ね?」


「ありがとうございます」


腕を失くしても生えてくるし、二日酔いの朝でもシャッキリする。回復魔法恐るべし。



「ところで、ちょっと気になったんですけど、回復魔法って不思議じゃないですか?」


この異世界で生きてきて気になった点をよしえさん達に聞いてみる事にした。


「魔法とやらで回復する。ってのは、まぁわからないけどわかりました。納得しましょう。でも、回復ってなんなんですかね?」


「回復は回復やろ?」


「こう、要は、傷ついたりとか二日酔いだとかで『通常じゃ無い状態』を『通常にする』のが回復魔法ですよね?」


「まぁそうやわな。だいぶ範囲は広いけど」


「で、僕が言いたいのはその『通常』ってどうやって決まってるんですかね?ここまで回復したら終わりですよ。って基準てあるんでしょうか?」


僕の知るゲームの世界ではその『通常』というのはHPなどで表現され、それが満タンになればそこで回復は打ち止めになる。それ以上できない。という仕様だからだ。


でも。この異世界においては少なくとも見た感じではそういうパっと見てわかるような基準は存在しない。腕が生えたら。怪我が治ったら。そこが回復の止め時で、術者のカンでしかない。



「そうやなぁ・・・。そら、異常が無さそうな感じにまで回復したら。って感じやね。だいたいの人が魔法を使えるわけやから、もし不具合があってもそこからは自分でなんとかするわけやし」


「その『なんとなくこれくらいで大丈夫』のところからまだまだず~っと回復を続けたら、最終的にはどうなるんでしょう?」


「ん~~。考えた事も無かったな。ケガでもなんでも、魔法が必要な時ってのは緊急な事が多いからな。ずっとかけ続けるってのは状況的にもなかなか無いで」


「例えば『腕が無くなった』として、魔法で生えるってのは、元々あった状態に巻き戻してるのか、それとも体の復元のパワーみたいなのを強力にしてるのか、どっちなんですかね?」


回復魔法が『巻き戻し』なら、ずっと使えばそのうちどんどん戻っていって子供になったりするかもしれない。逆に、細胞を活性化するような作用があるなら、どんどん老いていくかもしれない。


「マー君なかなか難しい事言うな。そんなん考えた事無かったなぁ」


腕を組みながら難しそうな顔をするよしえさん。魔法があって当たり前の世界だと疑問に思わないのかなぁ。



「その話と関係あるかどうかわかりませんけど、回復魔法でもなんでも治るってわけじゃないですよ?ハゲと老い。あと重度の病気は治りません」


「ハゲ治らないの!?」


結構な衝撃だった。


「治りません。切れた腕と抜けた毛で何が違うのか私にはわかりませんけどね。なんでしょう。毛の心が折れたとかそんな事なんですかね?」


毛根もっと頑張れよ。諦めるなよ。


「軽い病気なら治るんですかね?」


「そうですね~。それも基準があいまいではありますけどね。二日酔いなら治ったでしょう?でも死ぬ程の病気ならダメです。死ぬんですから」


二日酔いが病気かどうかは判断に迷うところだけど、異世界の人でもどうやら病気で死ぬらしい。


「これまでも、何人かそういう場面に立ち会った経験がありますけど、なんとなく私の中では『どう頑張っても無理な状態になったらどう頑張っても無理』って感じなのかなぁと勝手に納得してました。たぶん、みんなそんな感じだと思いますよ」


なるほど。でもどう頑張っても切れた腕は自然には再生しないような気がするんだけどなぁ。



「なんでマー君はそんな事を?」


「魔王は不死身って話を聞いてから気になってて。不死身ってなんだろう?って。この辺の謎を解き明かさないと、討伐どころの話じゃないでしょう?」


そしてそれは、僕にとっても大きなテーマであるかもしれないのだから。



「不死身っていうくらいだから死なないんだと思うんですけど、体と頭を完全に切り離して、遠い場所で保管した状態で同時に回復したら、どっちが回復するんですかね?両方魔王になるんでしょうか?」


「なかなかグロイ事考えるな。でも・・・。どうなんやろな?ちょっと気になるわ。面白い話やな」


「それで、もし頭から体が生えたなら、次は右半分と左半分を。体なら上半身と下半身を。細かく細かく分解していって、最終的に『魔王とはなんぞや?』くらいの・・・」



ドンドンドン!!



そんな、他愛もない?話をしていた僕達をさえぎるかのように、ドアのノックの音が大きく響いた。


「はぁい。なんでしょう?」


よしえさんがドアを開けると、そこに居たのは町長さんだった。



「おはようございます!さっそくですが、昨日の件でうかがいました!」


昨日の件?宴会の話だろうか。もしかして、自分達で飲み食いした分は自分達で払え!という話だろうか。いいんだけども。


「昨日の件?というと、宴会の時の話でしょうか?」


よしえさんにも心当たりが無いのか、不思議そうな顔で町長さんにたずねる。


「いやだなぁ!何言ってるんですか。昨日まさよしさんにお話したでしょう?この街の名前を変えようと思ってる。っていう話ですよ!」


なんだそれ初耳。というか、それを僕達に話にくる理由がわからない。好きにすればいいのに。


「で、新しい街の名前の案をまさよしさんにお話したら、大層乗り気だったので、さっそく改名して手続きもしてきたところなんですよ!その結果の報告にと思いまして!」


とても嬉しそうな顔で話す町長。しかし。依然として話が見えてこない。それと僕とどんな関係が?


「さっそく新しい街に掲げる看板を持ってきたので、まずはまさよしさんに見てもらおうと思いましてね!持ってきました!」


そう言って、町長さんが僕達の前に出してきた看板に書かれた文字。



それを見て、衝撃が走った。



「・・・なんですかこれ?」


その看板にはこう書かれていた。




『まさよシティー』と。




「ドラゴンを倒した英雄の名前をいただきましてね!まさよしとシティーがかかってるわけですわ!」


そんなの見ればわかるよ。というか、異世界なのにシティーってなんだよ。まさかの英語とのコラボだよ。


「あっはっはっはっは!ええやんか!最高やでマー君!ええやんかええやんか!」


お腹を抱えて笑い転げるチリパー。


「最高にダサかっこいいですね!これから街の人達は『まさよシティー出身です!』って言うんですか!最高ですね!」


能天気に煽るメイドさん。



「ちょっと待ってくださいよ!なんですかこれ嫌がらせですか!?恥ずかしいですよ勘弁してくださいよ!」


「いやいやいやいや!昨日あんなにノリノリだったじゃないですか!」


どうやら僕は、酒に酔ってどんでもない事を約束してしまったらしい。


「ダメですよこんなの!だって、よく考えてみてくださいよ?まさよシティーですよ?これじゃまるで『まさよ』さんの町みたいじゃないですか!」


言いたい事はそこではないが、もうとにかく押さなければならない。


「昨日も説明しましたけど、事後報告になりましたけどこれはちゃんと住民投票で決まった名前なんですよ?費用もたくさんかかってますので、今さら無しとか無理ですよ~」


あくまでニコニコしたまま話を続ける町長さん。



「町長さんはそれでいいんですか!?どこの馬の骨ともわからないような人の名前入れても!まさよシティーですよ?おかしいと思いません?」


「何をおっしゃる。ドラゴンスレイヤー様の名前を頂けるなんてこんなに名誉な事はありません。おそらく、どこの国、どこの街に行っても、みな名誉な事だと答えるでしょう」


ぐおぉぉぉぉ異世界め!


「もっとこの事を広めれば、この街にはたくさんの観光客が押し寄せる事でしょう!町おこしの一環なのです!協力してくださいよ!それに、もう他にも色々作ったんですからね!」


そう言って、また別の箱から何か取り出してきた。


「まさよし饅頭です」


ひよこっぽい形の饅頭に、ちょっと可愛い形のドラゴンの絵が描かれた饅頭を出してきた。


「どっちかって言うとドラゴン饅頭ですよねこれ!まさよし感0じゃないですか!」


「まぁまぁ。まさよしさんを食べるのは失礼でしょう?だから、ドラゴンを食べるんですよ。まさよしさんは、ほら。このパッケージの方に」



そこには、僕を結構美化した感じの絵と共に『私がドラゴンを退治しました!』の文字が。



「なあぁんですかこれ!超恥ずかしいですよ!こんなの売れませんて!勘弁してくださいよ!」


「いやいや。もう口コミですでに結構評判なんですよ?」


「絶対ウソだ!どう思いますよしえさん!」


バっとよしえさんの方を振り向くと、もはや呼吸困難になりそうなほど爆笑していた。


「はぁ・・・!はっ・・・!アカン。お腹痛い。もう涙出てきたわ。マー君最高やな!でもあれやな。マー君ばっかりずるいわ。私もなんか作ってほしいわ」


「そう言われると思いまして、なんと!もうひとつ饅頭を用意しました!」


さらになんか新しい饅頭を取り出した。


「よしマキ饅頭です!」


よしえさんっぽい顔とマキノさんっぽい顔の描かれた饅頭が8個ずつ計16個入った饅頭。


「あら!なかなかええやないの!名前がなんかもうちょっとやけど、いいと思うで!」


「お~!なんか可愛いですねこれ!いいじゃないですか!」


大喜びのマキノさん。


「あれやで。ほら。こうやって家貸してくれたりしてるんやから、なんか恩返しせんとな。もし町長さんと出会ってなかったら、今の生活も無いわけやし。せやろ?」


下手くそなウィンクをして僕の顔を見るよしえさん。


「・・・わかりましたよ。わかりました!もう好きにしてくださいよ」


「では!改めまして、今日からこの街は『まさよシティー』という事になりました!」



この日から、僕はまさよシティーのまさよしになった。


絶対まさよさんの街だと思われるよ。誰だよまさよ。

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