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まさよしを囲む会

町長さんに促され、言われるがままに街の酒場へと移動する事になった。


町長さんが切り開いた人ごみの道。街の道を歩く僕達を中心に、左右に続く長蛇の列。


いつかテレビで見た事ある、野球チームのパレードが丁度今の感じだった。


それにしても気恥ずかしい。ドラゴン討伐が命を賭けた死闘の末のギリギリの勝利だったなら、もっと気持ちも盛り上がっただろう。


でも、実際は僕のやった事は銃の引き金を引いただけ。しかも、帰ってくるまでほとんど忘れていたのだ。


それを、こう、急にワッショイワッショイと盛り上げられても・・・。歴代の本当の勇者達の力がどれほどの物かわからないけど、申し訳ない事このうえない。



どうにも気持ちが盛り上がらないまま、トボトボとパレードの道を行く。すると、後ろからお気楽女神が声をかけてきた。


「ほら!何を辛気臭い顔してるんや!せっかくなんやから、サービスやでサービス!」


よしえさんにそう言われ、しょうがないので右に向かって引きつった笑顔で手を振った。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


さらに、左に向かって手を振った。


「キャァァァァァァァァ!!」


今までの人生で聞いた事の無いような黄色い声。僕達に熱狂する街の人々。



・・・な、なかなか悪くないんじゃないかな?せっかく盛り上がってくれてるんだし、ちょっとくらい乗っかってもいいんじゃないかなぁ?


そんな事を思いながら後ろを振り向くと、もうすでにニコニコ最高の笑顔で沿道の人々に手を振る女神とメイド。


「さっきまで嫌がってませんでした?切り替え早すぎません?」


「何を言うてるんや。人生は一回しかないんやで?楽しまな損やで。そうやってなんでもウジウジウジウジしてるから、マー君はいつまでも童貞やねん。男なら、ガっといったらんかい!」


「そうですよ!たぶん、これから先の人生でまさよしさんにこんなに注目が集まる日はもう無いですよ?いいんですか?ここが人生のハイライトですよ?」


なぜか微妙にディスられた。そんな事ないよ。もっと輝く日があるよ。たぶん。




「さぁ!こちらが酒場になります!」


ドヤ顔で酒場へ案内する町長。それに続く僕達。そう言えばこういうお店に入った事無かった。




「それではあちらの一番奥の席へどうぞ!」


町長さんが指差すその一番奥の席とやらは、おそらく今日のために特別に用意したのであろう、大変豪華な椅子とテーブル。


さらに、テーブルの上にはなにやら豪華なお食事達が大量に並んでいた。


「ではおかけください!」


わざわざ椅子を引いていただき、座らせていただく。なんというジェントルメン。



「え~それでは、我が町が誇る英雄!ドラゴンスレイヤーのまさよしさんに、一言挨拶をいただきたいと思います!」


突然、町長さんからの無茶ぶりが。よくよく酒場の中を見回してみれば、僕達のテーブルを遠巻きに囲んでの人。人。人。


店の外にも、僕達を一目見ようと人。人。人。



ここまで注目されていては、もはや遠慮する方が失礼というものだ。そう。僕達は英雄なのだ。勇者なのだ。なら、らしくあらねばならない。


今日僕達を見た事で、将来の夢を決める子供もいるかもしれないのだから。覚悟を決め、僕はおもむろに立ち上がった。



「え、えっと、今日はみなさんお集まりいただきありがとうございます!・・・はい。あの、ありがとうございます。」



ダメだ。何も考えて無かったから頭が真っ白だ。悲しいくらいにアドリブ力が無い。本番×の能力の持ち主だ。


周りのきょとんとした顔。何も思いつかずに固まる僕。



「はい!そんなわけでね!ちょっとこう、こちらのまさよし君は真面目過ぎるもんであんまり注目されるのになれてないのでアレですけど、悪い子やないからみなさんよろしくお願いします!」


突然立ち上がり、僕を上手にフォローしてくれたよしえさん。これが女神か。



一瞬変な空気になりかけた酒場が、ドっと盛り上がった。よかった。


寒い開幕の挨拶から始まり、勇者まさよしを囲う会は無事始まった。


とりあえずせっかくなので目の前の料理を食べようと思うんだけど、とにかく注目されててしょうがない。


ドラゴンスレイヤー様は一体何から食べるんだろうか?くらいの勢いでグイグイ見てくる。食べにくいわ。



まず目の前にある美味しそうなお肉を食べた。


「お~!肉からだ肉!」


・・・許してください。勘弁してください。


異世界食材に詳しくないので、どれがなんという料理かよくわからないけど、どれもなかなか美味しい。つい最近まで住んでいた高級な宿にも負けないくらいに。町長さんが奮発したのだろうか。



「ところで、まさよしさん達はどのようにしてドラゴンを討伐なさったのですか?」


まるで少年のような瞳で町長さんが聞いてきた。


さぁどうしたもんか。一番困った質問だ。銃でドーーンと一撃でした。とか答えていいものだろうか?というか、そもそも事実と違う風に伝わってるっぽいんだよなぁ。


少し考え込んで、チラっとよしえさんの方を見てみると、お酒を飲んだのだろうか。真っ赤な顔で上機嫌なよしえさんが僕の目線に気付いた。



「いやぁ~!それはそれはもう凄かったで!次々と現れるドラゴンの群れを、ちぎっては投げちぎっては投げ!」


もう今さらしょうがないんだけど、どうなってしまうんだろう僕は。


「特に、伝説のまさよしの剣を使った剣の技はもう凄いの一言やで!こう、とにかく凄い!見た事ない!」


それだと順番が前後しますよね?と言いたいところだったけど、もはや流れが止まりそうになかった。


「お~!!まさよしの剣!そんな武器があるんですか!ぜひ見せていただきたい!」


町長さんのボルテージはMAXに。周囲の人々の期待も最高潮だ。



「え、えっと、こちらになります。」


腰に付けたまさよしの剣を抜いてみんなに見せた。


「お~~~!なんと美しい剣だ!ドラゴンの群れを倒した割には刃こぼれ1つ無い!やはり腕がいいと違いますね!」


それは新品だからです。まだ何も切った事無いからです。



「さらになんと、この剣!ここのボタンを押すと光るんやで!」


酔って絶好調になってきた女神様がみんなの勢いを後押ししてきた。もの凄い期待の目で見られるので、披露しないわけにいかない。


「そ、そうです。ここのボタンを押すとですね・・・。」


ブーンと音がなり、剣が光る。


「おぉぉぉぉ~~~~~!」


どよめく酒場。光っただけなのに。これがどれくらいの威力なのか、僕自身もまだ知らないのに。なんか凄く申し訳なくなった。



あまりに注目を集めるのでなんだか気恥ずかしくなり、キョロキョロ周りを見渡すと、テーブルに突っ伏して爆睡するマキノさんが見えた。お酒弱いのか。


「さぁさぁ!まさよしさんもぜひ飲んでくださいよ!今日は楽しんでいってください!」


そう言われ、グラスにお酒を注がれる。僕はそんなにお酒が強くないんだけど・・・。まさかいらないとも言えないので飲んでみる。初の異世界飲酒体験。


チビチビ飲むのもかっこ悪いかと思い、まずグッと飲んでみた。


ここは異世界なので、成分がアルコールなのかどうかはわからないけど、とにかくなかなか強いお酒のようでグっといった事を後悔した。



あぁ。ちょっと世界がふわふわしてきた。なんだか楽しくなってきた。



「おぉ!いい飲みっぷりじゃないですか!本当はもっとゆっくり飲むやつなんですけどね!さすが勇者様!男らしい!」


お酒を注いでくる町長さんも結構酔っているのか上機嫌だ。


「や~もうそんな!全然たいしたことなぁぃですよ!全然たいした事ないですよ!楽勝っすわ!」


「おぉぉぉぉぉ!」


僕が何か言うたびに、いちいち周りから歓声が上がる。なんだかとっても楽しくなってきた。悪くないじゃないか!


「今日はとことんまでいくぞ~~~!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」



それから数時間後。



すっかり酔っ払い気分が悪くなった僕は少し席を外して外へ出た。


酒場の外へ出ると、外にいた人たちはいつの間にかいなくなっていた。ふらつく足取りで酒場の裏にあったちょっとした広場で横になる。


「うえっへっへ~~。なかなか楽しい夜ですねぇ~~~。」


目の前に広がるのは、満天の星空。僕が元居た世界では考えられないくらいに綺麗だった。


元居た世界では、背の高い建物がたくさんあってこんなに空が広くなかった。


元居た世界では、空気が汚れてこんなに空が綺麗じゃなかった。


元居た世界では、もっと周りに騒音があってこんなに静かじゃなかった。


元居た世界では、もっと周りにたくさん人がいて、1人になんてなれなかった。



元居た世界では・・・。



静かな暗い夜。酔った頭で1人広い夜空を見ていると、なぜだか急に胸が苦しくなった。


自分でもよくわからないけど、ポロポロと、涙が溢れてきた。



きっと、酔っているからだ。この広い星空の下、なぜだか世界に自分1人だけのような気がした。


このまま人前に戻るのも恥ずかしいので、しばらくそのまま横になっていると、よしえさんがやってきた。


「どうしたんや?大丈夫かマー君。」


寝転がっている僕の横に座るよしえさん。


「なんやの。マー君あんた・・・。いや。なんでもないわ。」


そう言って、なぜか優しく微笑む。


「あ、あぁ。すいません。ちょっと気分が悪くて。すぐに戻りますよ。」


いかにも平静を装って立とうとしたけど、足がもつれて尻もちをついてしまった。


「ふふっ。ええんやで。もうちょっと横になってたら。・・・そうや。ヒザ枕したろヒザ枕。」


僕の横。正座をしてヒザをポンっ。と叩くよしえさん。


きっと、酔っ払っているからだ。僕は、素直によしえさんの言う事に従った。



火照った頭に、少し冷えた足の感触が気持ちよかった。



「マー君もな。突然1人でこんな目にあって、色々大変やろうと思う。身寄りも無いしな。でも、私らは仲間なんやから、困った事とか辛い事があったらなんでもすぐ言いや。」


そう言って、僕の頭を優しくなでた。


「・・・はい。」


よしえさんの顔を見る事は出来なかった。



それから、特にお互い何を喋るでもなく10分ほどが過ぎた。


「・・・ありがとうございます。もう大丈夫です。」


本当はまだ気分が悪かったけど、なんとか自分の足で立ち上がった。


「・・・そうか。マー君もやっぱり男の子なんやなぁ。」


嬉しそうな顔で笑うよしえさん。


なんだか恥ずかしくなったので、無理矢理話題をそらした。


「そう言えば、回復魔法で酔い覚ましとか出来ないんですか?」


「ん?あぁ。出来るよ。すぐにでもシャンとするように出来る。でも・・・。そういうのは野暮や。お店の中見てみ?そんな事してる人誰もおらんやろ?」



酒場の中を見ると、大盛り上がりの店内。みんな本当に楽しそうだった。



「そうですね。確かに、それは野暮かもしれません。」



そんな事を話していると、店内から町長さんに声をかけられた。


「まさよしさぁぁぁん!そんな所で何してるんですかぁぁ!こっちに来てくださいよぉぉぉ!」


もはや完全に出来あがっている。


「はい!今行きますよ!」



この世界で。自分は1人だなんて思わないように、生きていけたらいいなと思った。

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