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ヒコーネにて

「よしえさんは海に行った事あるんですか?」


「ん?そりゃあるよ。色々なところ旅してるからな。水着になった私は凄いんやで?」


そんな事を言いながら腰をクネクネさせるパーマネントミセス。凄いのベクトルが何か違う気がする。僕の脳内フィルターでシャイニングさんに変換しておいた。


「じゃあやっぱり今度みんなで海に行きましょうよ!私泳ぐの好きなんですよね!」


「・・・ん?あぁ。まぁ、それはほら。また、そのうちな。」


マキノさんの誘いに対して、なぜか目をそらしてモジモジするよしえさん。どうにも様子がおかしい。


「あの、もしかしてなんですけど・・・。よしえさん、泳げなかったりします?」


「えあ!?あ、いや、あの・・・。ちゃうねん。ちゃうねんで?あの、なんか、女神は水に浮かへん体質みたいでやな・・・。」


明らかな動揺を見せるよしえさん。普段どちらかと言えば根拠の無い余裕に満ち溢れているので、なかなか珍しい光景だ。


「女神が水に浮かないとか、そんな事あるんですか?」


もしかして、何か呪われる実でも食べて女神の力を手に入れたのだろうか。そもそも比較対象が他にいないので、ウソなのかどうか知る方法は無いんだけど。


「なんていうんかな。こう、言葉で上手く説明できひんのやけど、浮こうとする動きよりも速く沈むんよ。」


浮くより速く沈む・・・?そんな事があるんだろうか。でも、出来ない人が出来ない理由を正確に説明するって結構難しいような気もする。何がダメなのかわからないから出来ないんだし。どうしてもスキップが不細工な人とかいるよなとか思った。


「じゃあ、なおさら特訓ですね特訓!泳げないとかダメですよ!克服していきましょう頑張って!」


グっと握りこぶしを前に突き出し力説するマキノさん。結構アグレッシブな部分があるよね。こういうところは凄い尊敬できる。


「せ、せやね・・・。あ、あぁ!ほ、ほら!陸地が見えてきたで!」



よしえさんに言われて船の前方を見ると、なるほど陸地が見える。


「おぉ!・・・って、うわぁぁぁ!」


遠くにかすかに陸地が見えるなぁ。と思った瞬間、凄いスピードで陸地が近付いてきた。


これまで周りに海しか無かったから距離感やスピード感があやふやだったけど、もしかしてこれめちゃくちゃ速いんじゃないだろうか。


「なんか凄い勢いで景色が流れていきますけど、大丈夫なんですかねこれ?うっかり墜落とかしたら大惨事ですよねぇ?」


それでもやはり振動や風の流れを感じないので、感覚的には気持ち悪い事このうえない。凄い勢いで流れていく景色が、どうしてもどこか他人事に思えてしまう。



「そこはご安心ください。我らがヒコーネの技術の結晶ですので、大丈夫です!」


後方から僕達の会話に参加してきたのは、従者の人だった。なんか久しぶりに見るなぁ。相変わらずイケメン。そういえば、この人の名前を知らない事に気付いた。もう今さら改めて聞けないよなぁ。完全にタイミングを逃した。


「もし、突然モンスターに襲われたとしても、この船に搭載された様々な武装で見事撃退してみせます!」


「モンスター?そんな事があるんですか?」


「まぁ、めったに無い事ですけどね。一応、空を飛ぶモンスターが存在する以上可能性は0ではないですよ。でも大丈夫です!この船自慢の超高威力の砲台で消し飛ばしてやりますよ!」


なぜか微妙に興奮気味に語る従者の人。何か心にストレスでも抱えているんだろうか。そんな事無い方がいいのに。もしかしてちょっと打ちたいんじゃなかろうか。


「そ、そうですか・・・。今までに襲われたりした事ありますか?」


「ありません。というか、そもそも飛空艇をあんまり使わないですからね。」


そう言って少し残念そうな表情になる従者の人。なんだか、こんな話をしていると余計なフラグが立ちそうな気がしてきたので、この話題はあまり引っ張らない方がいいかもしれない。



「ヒコーネまではあとどのくらいなんですか?」


「そうですねぇ。あと1時間もあれば到着するかと思います。」


今僕達の下を流れる景色の速さから考えて、1時間は結構な距離のような気がする。とは言っても、この異世界の星?の大きさがわからないのでなんともいえないんだけど。今まで生活に特に支障がなかったから興味が無かったけど、いい加減この世界の地理を少しは覚えた方がいいのかもしれない。


「それにしても、なんか森ばっかりですねぇ。」


さっきまでは海ばっかりの景色で、今度は森ばっかりの景色になった。ところどころに村というか集落みたいな場所が見える。一瞬で見えなくなるけど。


「でもこんなもんちゃうやろか?森の中には動物やらモンスターがおるしな。別に必要が無いのに切り拓く事もないやろ?マー君のおったところはあんまり森は無かったんか?」


「あんまりというか、ほとんど無かったですよ。」


「じゃあ代わりに何があったんですか?もしかして、ほとんど砂漠とか?」


興味津々でマキノさんも乗ってくる。


「いや、そういうわけでもないですよ。家とかですかね。他には・・・。ちょっと説明が難しいですね。この世界には無いような物が多いので。」


アスファルトで出来た道路。そこを走るたくさんの車。並ぶ様々なお店・・・。考えて、少し胸にこみ上げるものがあった。今すぐどうにかなるもんではないんだけど。


「ふ~ん。なんか、あんまり想像がつかんなぁ。出来るなら、いつか行ってみたい気がするわ。」


そんな日が来るんだろうか。もし出来るなら、よしえさん達にも僕が生まれ育った世界を見てもらいたい。



「そろそろヒコーネに到着しますよ!」


従者の人にそう言われ、船を降りるために各々自室の荷物の整理などをするために船内に戻った。


そういえばお土産とか買ってこなかったなぁ。この世界にもそんな習慣があるんだろうか。王様に何か買ってきた方がよかったかなぁ。


そんな事を考えながら荷物の整理をしていると、ほどなくヒコーネに到着。空の旅は終わった。



「あ~!なんか、帰ってきた~!って感じがするな!やっぱり地元が一番や!」


そう言って大きく伸びをするよしえさん。地元とか言ってるけど、たぶんヒコーネが一番滞在期間が短い。


「みなさんお疲れでしょうが、申し訳ありませんが今日はこのまま王様のところに向かっていただけますでしょうか?」


「そうやね。たいぶご無沙汰やしね。」


そんなわけで、まずは王様に旅の成果の報告をする事になった。



「お~!待っていたぞ!どうだった?何かめぼしい情報は手に入ったか?」


王様は、部屋に入るなり笑顔で迎えてくれた。


「はい。どうやら魔王は不死身らしい。という事と、魔王には側近が何人かいるという事がわかりました。」


「ほう・・・。なるほど。不死身・・・。果たして、そんな事があるんだろうか。それに側近か・・・。」


渋い顔で考え込む王様。側近どうこうはまだいいとして、不死身ってなんだよ。という気がする。そんな事言われてもどうしたらいいんだよ。


「それと、色々な道具や装備を作ってもらいました。」


王様の前に作ってもらった色々な物を並べ、それぞれどういう物か説明する。


「なるほど。なかなか面白い物ばかりだな。どうやらよしえ達の役に立てたようで私も嬉しい。では、報告も聞いた事だし、長旅も疲れたであろう。家まで送らせるので今日はこれで解散としようか。」



王様への報告を終え、馬車の手配をしてくると言って従者の人がどこかへ行き、僕達は城の前で馬車待ちをする事になった。



「なぁマー君。」


「なんですか?」


「王様は、ホンマに知らんかったんやろか?」


「何をですか?」


「セタさんに教えてもらった魔王に関する話をよ。」


どういう事だろう?


「正直、どれも特に決め手になるような情報でも無かったわけで、その程度の事を王様が知らんもんやろか?と思ってな。」


王様は、魔王の事を知っていたのに僕達に教えなかったという事だろうか?


「でも、一応僕達は魔王討伐を目標にしてるんですよ?情報を隠してもメリットが無いと思うんですけど。」


「いや・・・。もっとこう・・・。なんというか、品定めされたんちゃうやろかと思ってな。」


「品定め?」


「いきなりポっと出でレッサーデーモンやらドラゴンを倒した私達の事を、魔法都市を使って調べたんちゃうやろか?と。」


「なんですか?私達、疑われてたって事ですか?」


鼻息も荒くマキノさんが言う。


「いやいや。別に悪者やと思ってたかどうかはわからんけどな。ただまぁ、素性の怪しい者の身辺調査を。ってのは王様としては当然かなと。」


確かに、全部信用するには僕達は少し実績が足りないかもしれない。


「たぶん、最初は私の事が知りたかったんやと思うんよ。でも、ドラゴンを一撃で倒したマー君の事も気になったんやと思うで?」


「でも、王様には一応苦戦したって伝えたんですけど・・・。」


「そんなもん従者が黙ってるわけないやんか。全部知ったうえで知らん顔してたんやと思うで。」


腹芸っていうやつだろうか。国を治める人間というのはそういう駆け引きの才能が無いとダメなんだろう。


「ま、別に知られて困るような事も特に無いんやけど、もしかしたら、マー君がこの世界の人間と違う。って事もバレたかもしれんね。」


こちらから言った話なら別にどうとも思わないけど、自分達の知らないところで肝になる情報を握られたかもしれないというのは、あまり気分のいい話ではない。


「何か、知られてマズイですかね?」


「別に大丈夫やろ。どっちみちホンマの事なんやし。仲良くしてたらどうもないやろ。」


王様とは、これからも末永くいい付き合いをしていこうと決めた。



「では、馬車の用意が出来ましたので、家にお送りいたします。」


従者の人が来たのでこの話はお開き。僕達は、久しぶりに家に帰る事になった。

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