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得意な楽器はウクレレです

当初の目的は魔王についての色々な情報を手に入れるためだったけど、気がつけば盾だの剣だの色々な装備や道具まで作ってもらい、結構長居してしまっていた魔法都市。


その地ともついにお別れ。久しぶりにヒコーネに帰る事になった。


「飛空艇に乗るのも1ヶ月ぶりですね。」


「ホンマやなぁ。」


ちなみに、僕達が長期滞在している間の飛空艇チームの流れはというと。


セタさんが色々な道具を作ってくれる事が決定し、長期滞在になるという流れになった時にセタさん経由で通信でヒコーネ王に連絡。


そして、飛空艇乗り組み員チームは一旦ヒコーネに帰還。その後、色々片付いてから再度こちらに迎えに来てもらう。という流れで今ここ。



それにしても、僕の感覚で言えばやっぱりこの飛空艇とやらは違和感しかない。どう見ても見た目船なのに。なんで飛ぶんだよ。


魔法の力で。と言われたらもうそれで詰みなのであまり深く考える事はしないけど、なんなんだこれ。


じゃあどうして鉄の塊が空を飛ぶんですか?と聞かれても結局答えられないので、そういう意味では飛行機も魔法の類に近いんだけど。



「じゃあ、僕達は帰ります。色々ありがとうございました!」


わざわざ僕達を見送りにきてくれたセタさんに別れの挨拶。


「またいつでも頼ってくれるといい!出来る限り協力しよう。まさよし達との時間は楽しかったよ!」


そう言ってニッコリ笑う技術屋エルフ可愛い。


「ほなアレやな。マー君が超モテになる道具とか作ってもらったらいいやん。人の心を操る的な。」


「そんな便利な道具があるわけ・・・ない・・・ですよね?」


「だってほら。モンスターに幻覚を見せて混乱させたり、精神的に不安定にさせたりする魔法とかあるんやで?ほな、好感度上げる魔法もあるやろ。マー君の魔力ならそらえらい事なるで。」


まさか今からお別れしようとするこの時になって、とんでもない情報が舞い込んできた。


「はっはっは!よしえは面白い事を言うな!では、気をつけて帰るんだぞ!」


楽しそうに笑って僕達を送り出そうとするセタさん。


「いや!ちょっと待ってくださいよ!それ凄い大事な話なんですけど!僕超モテになるんですかね!?そんな道具作れるんですかね!?」


「もうわかったから。ほら。はよ乗るで。もうええやろ?童貞は最初の1回までなんやから、貴重な属性やないの。マー君のご先祖様をどこまでさかのぼっても、処女も童貞も1人もおらんのやから、凄いやないの。」


「え?そう言われてみれば・・・。って当たり前ですよそんな事!凄い事みたいに言わないでくださいよ!」


僕に繋がるご先祖様に、1人でも処女か童貞がいれば僕は神の子。



困惑する僕を無理やり引っ張る形で女性陣と船に乗る。全然納得出来ないままに、我らがミシガン号は空の中へと浮上していく。


「あぁ・・・。僕の超モテライフが・・・。」



こうして僕達は、再び空の上の人となった。



とりあえずまず、なんだかんだで増えた手荷物を置くために行きと同じ船内の自室へと向かう。


自室に荷物を置き、改めてそれらを眺めて思う。


なんだか、色々増えたな。と。


よくわからない異世界に来て、よくわからない生き物と命がけの戦いをしたり、仲間みたいな感じになってるけど実際は全然素性の不明な女神と冒険したり、可愛らしいけど超強いメイドさんと殺し合いしたり。



上手く説明出来ないけど、異世界との繋がりというか、この世界に少しずつ居場所が増えてきているようで嬉しい。


少し感慨にふけっていると、僕の部屋をノックする音が聞こえた。


「は~い!なんでしょう?」


「マー君!ほな、また王様ゲームとかいうのやろか!」


「もうしませんよ!勘弁してくださいよ!」



チリチリパーマのおばさんからの暴君ゲームの誘いを断り、しばらく1人でゴロゴロしていたがそれもすぐに飽きたので、今回は外を見てみようと思い1人甲板に出た。



「お~~~!」


外へ出て景色を見るなり、思わず声が出てしまった。


そこに見えたのは、一面の海。青く綺麗な一面の海。遠くを見れば水平線がやや丸い気がするので、この世界の星も丸いと考えてもいいのかもしれない。


元の世界の飛行機だと、高度は高いしそもそも飛行機の中なので景色はあまり見えないが、この世界の飛空艇なら甲板むき出しなうえにそんなに高度も高くない。最高の見晴らしだった。



むき出しの甲板で、かなりのスピードの乗り物に乗っているはずなのに魔法の障壁の効果なのか、一切風を感じない。まるで凄くリアルに出来た映像を見ているような、不思議な感じになる。



特になにをするでもなく、ただ甲板のへりにある柵に寄りかかって目の前を凄い速さで流れていく海を見ていると、ふいに後ろから声をかけられた。


「お~!凄い海ですねぇ!」


嬉しそうな声で、マキノさんがやってきた。


「凄いですよね。こんな綺麗な海が見れるなら、行きもアホみたいなゲームしてないでもっと景色見ればよかったですよ。」


「え~!私はあのゲームも面白かったと思いますけどねぇ?」


僕は一生忘れない。あの、しっぺのされすぎでサバの背中みたいになった僕の腕を。僕は、一生忘れないのだ。



「綺麗ですね。」


ふっと、小さくつぶやくでもない、かといって大きな声でもない、とても女性的なトーンで一言言って、甲板に立つ僕の隣に並んできた。


肩の触れ合うその距離感で横顔を見ると、その綺麗な可愛い顔にドキドキしてしまう。鼻の頭に変な汗をかいた。


「この景色を見て海だ!って思うって事は、まさよしさんの住んでた世界にも海があったって事ですよね?」


ぼーっと横顔に見とれていたら、ふいにこっちを向いて喋るので至近距離で目が合った。動揺してあわてて目をそらして喋る。


「そ、そうですね!う、海はありましたよ!こんな感じでした!こう、バーンと、でっかい海が、ありました!」


我ながら完全にアホの子の感想だけど、この辺が童貞の限界だ。童貞限界だ。限界突破する日がくるのかどうかは知らない。



「まさよしさんは海行った事あります?」


相変わらずじっと僕の方を見て喋るので、手汗とかが大変になってきた。いい匂いがする。異世界人は、毛穴からフェロモンの出る魔法でも使うのだろうか。とんでもないパッシブ。


「あ、ありますよ。でも、僕あんまり海好きじゃないんですよね。」


「なんでですか?泳ぐの楽しいじゃないですか。可愛い水着とか新しく買って、今度みんなで一緒に行きましょうよ!」


か、可愛い水着っ・・・!グンバツのスタイルのキュートなメイドさんの横に、なぜかどこかで見たような雷様の格好をしたおばさんが浮かんだ。嫉妬深い電撃鬼娘の方ではなく、長椅子に座ると端が崩れるタイプの方。



「行きます!ぜひ行きましょう!」


「でも、あんまり好きじゃないんでしょう?ざんねんだなぁ~。・・・で、どこが苦手なんです?もしかして、泳げないとかですか?」


「い、いや、そんな事ないです。泳げますよ?ただ・・・。その、味が苦手で・・・。子供みたいですけどね。」


泳ぐ事自体はどちらかと言えば好きなんだけど、海独特のあのしょっぱさがどうにも苦手なのだ。この世界にあるかどうかは知らないが、プールなら大歓迎。


「あ~!でもなんかそれわかる気がしますよ。最初はいいんですけど、長い時間泳いでると結構気になってきますよね。あの独特の甘み!」


そうそう!独特の甘み・・・。


「え!?甘いの!?」


「甘いですよ。何言ってるんですか?海の水は甘い。常識じゃないですか。」


衝撃の事実である。見た目同じ感じなのに。なんと異世界の海は甘い。


「い、いや・・・。結構というか、凄い衝撃なんですけど。なんなら異世界生活で1番になるくらい。」


「え~!じゃあ、まさよしさんの世界の海は甘くないんですか?」


「甘くないですよ!しょっぱいんです!塩水って言って、しょっぱいんですよ!」


「え~!ウソだぁ~!そんなのありえないですよ~~!」



海の水。甘いかしょっぱいか?そんなトークでキャッキャウフフと盛り上がる。気がつけば、自然と目を見て会話していた。


少し近付く2人の距離感。あぁ神様。どうか、こんな時間がいつまでも続きますように・・・。



「なんや楽しそうやないの。なんの話してるん?」


突如、2人の空気を切り裂く関西弁。オカン空気読んでくれよ。


「いや、海の水が・・・って、近いな!」


後ろからの声に反応して振り向いたら、かなり至近距離に立っててビックリした。至近距離で見るよしえさんの顔は、決して悪くはないが良くもなかった。胸がドキドキするのは、ビックリしたからだ。



「マキノさんが、海の水が甘いって言うから・・・。僕のいた世界の水はしょっぱかったから、凄い衝撃で!」


興奮気味によしえさんにそう言った。


「海が甘い・・・?なに言うてるんよ。海の水はしょっぱいよ。甘かったら気持ち悪いやんか。」


さらっと。よしえさんは、呆れた顔で僕にそう告げた。


「え!?いや、だって、マキノさんが・・・!」


バっ!と横にいたマキノさんの方を振り向くと、僕の方を指差しながらもはや声も出せない程に爆笑していた。


「・・・かはっ・・・!ふえぇっへへ・・・!海がっ・・・!甘いとか・・・!かはっ・・・!!」


あやうく、怒りで何か新しい力に目覚めそうになった。

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