まさよしの剣
セタさんが超ドヤ顔で取り出した僕のための剣。
「これが、この世で唯一!1本しか無いまさよしのためだけの剣!その名も『まさよしの剣』だ!」
「ま、まさよしの剣っ・・・!そこはかとなくダサイ名前の剣やなっ・・・!」
なんでだよ。かっこいいじゃんまさよしの剣。王者の剣。勇者の剣。ロトの剣。六三四の剣。まさよしの剣。なんの問題も無くない?
「ま、まぁ名前はともかくだ。見て欲しいのはその性能だ。まずはその鞘から剣を抜いてみてくれないか。」
セタさんに剣を手渡され、まずは言うとおりに剣を鞘から抜いてみる。スラっとした白い両刃の剣。長さは以前のショートソードよりも少し長い。
「その刃の部分には一級品のマナストーンが使われていて、普通の剣としても申し分ない。」
「『普通の剣としても』というのは?何か他に普通ではない機能でもあるんですか?」
「まぁそう急くな。その剣の柄の部分にある小さなスイッチを押してみてほしい。」
セタさんに言われて剣の柄を見ると、なるほどなにやら小さなボタンがある。さっそく押してみた。
ブーンという小さな低い音と共に、剣の刃が光り輝いた。
「う、うおおぉぉ!なんか剣が光りましたよ!見た目凄いかっこいいんですけどなんですかこれは!」
シャイニングさんが使うシャイニング・ソードと似た感じの見た目になった。
「それは、使用者の魔力を攻撃力に変換する機能だ。圧縮された魔力を刃にまとわせる事により、切れ味や耐久性が普通の剣と比べて飛躍的に向上されている。」
魔力を攻撃力に変換する剣。なるほどそれは、かの大魔王も愛用したと言われる伝説級の能力ではないか。
「ちなみに、刃の部分に使われているのはマナストーンなので、その気になれば刃の形を自由に変える事も出来る。が、それにはなかなか熟練の魔力操作を要求されるので現状では難しいな。」
という事は、僕の実力次第ではムチのようにグニャグニャにする事も出来るわけか。その場合、元の形に戻せるか非常に不安が残るとことだけど。
「そして、他の道具でも言える事だが、この剣もやはりまさよしの魔力制御の不安のために、出力をかなり抑えてある。これから先まさよしの成長の度合いに応じて改造すれば、さらに強くなるだろう。」
どこまで行っても結局課題は僕自身の実力不足。まぁ伸び代の塊だと思えば悪くない・・・んだろうか。
一生懸命頑張って、最終的には凄まじい破壊力の塀状の何かを発生させるくらいのレベルになりたいもんだ。
「とまぁ、今回作った物はこれで全部だ。」
満足そうな顔なセタさん。
「ありがとうございました。本当に助かります。」
「いやなに。こちらこそとても勉強になった。そもそも、ここでは普段はまさよしのような魔法を使えない人向けの物を作ったりはしないので、新しい発見ばかりだったよ。」
そう言って笑ってみせるセタさん。この人は本当に研究とか開発が好きなんだろうなぁと思えた。
「ところで、その『魔法を使えない人向けに物は作らない』という話なんですが、どうしてなんですか?こんな便利な物が作れるのに・・・。」
「せっかくこうして色々な物を作って渡しておいてこんな事を言うのもなんだが、まさよしに渡したような『雷の魔法が発生する装置』やら『光る球』は、決して便利な物ではないのだ。」
便利ではない・・・?僕には凄い道具にしか思えないんだけど。
「それらの道具の効果は、魔法が使える者からすれば威力の大小はあれど出来て当たり前の事だ。そもそも道具を必要としない。魔法が使えれば、身一つで出来る事なのだ。」
あぁなるほど。確かに、こんな道具が無くてもよしえさんなら魔法で同じような事が出来るかもしれない。
「だから、魔法を使える者から見れば『雷の魔法が出る』のではなく『雷の魔法しか出ない』という事になる。さらに、もし無くしたり壊したりすればもうそれでおしまいだ。道具に頼るという事自体がすでに不便という事になるな。」
「でも、だったらなおさら魔法を使えない人向けにこそ色々作れば役に立ちそうなのに・・・。」
「その辺りに悲しいジレンマがある。魔法を使えない者は貧しい者が多い。なので、魔法を使えない者に向けて道具を開発しても、そもそも買えないのだ。本当に道具を必要とする層こそが道具を買えない層。という事だ。」
なるほど。道具開発も販売も決してボランティアでは無いので、売れない物をわざわざ開発する人もいない。という事になるんだろう。
「そうですか・・・。あの、実は、こんな事があって・・・。」
僕は、革袋をスったスラムの子との出来事を話した。
「・・・なるほどな。まぁ、そういう小さな窃盗の類はそんなに珍しい話でもない。よくある話ではあるがな。」
「でも、だからと言ってそのままでいいという事でもないと思うんですよ。なにより、僕と同じように魔法が使えない人達が社会に出る手助けをしてあげられたらな。と思うんですけど・・・。」
「この街では特にそうなのだが、少し言い方はヒドイが『魔法を使えない者には価値が無い』という考え方があって、恥ずかしながらまさよしに出会うまでは私自身もそちら側の考え方だった。でも、まさよしと出会って、例え魔法が使えなくとも資質のある者がいるという事がわかった。だから、何かしら前向きに検討してみよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
特にあの少年と深い縁があるわけでもない。今後二度と出会わない可能性の方がはるかに高いけど、同じ魔法を使えない者同士、何かしてあげたいと思ったのだ。
「ただまぁ、やはりなんでも無償で。というわけにもいかない。お金が惜しいという話ではなくて、対価を無しに何かを得るというのはよくない習慣になるからな。」
「ほな、給料の前借みたいな事にしたらいいんちゃう?先に道具を開発して、それを貸してあげて、それを使って働いて稼いだ給料の一部を返済してもらう。とかいう形にしたらええやんか。」
「なるほどな・・・。よし。では何か考えてみるよ。」
「ありがとうございます!」
これであの少年が少しでも幸せになれればいいんだけど。
「さ、とりあえずこれで渡す物は全て渡したし、解散という事にしようか。なかなか楽しい時間を過ごさせてもらった。もしまた何か困った事があればいつでも言いにくるといい。力になろう。」
こうして僕達は研究所を後にした。
「あ~なんか長い事おったな!ちょっと話聞くだけのはずやったのにな。なんや色々もらってしもたし。」
「でも楽しかったですよね。宿の暮らしは快適だったし!新しくもらった靴も早く試してみたいなぁ~。」
「僕も、この剣がどんな物なのか試してみたいですよ。まぁ、何切るんだよって話なんですけどね。岩とかでもいけるのかなぁ?」
「ま、ともかく、まずはヒコーネに帰ろうか!」
「そうですね。行ったっきり長い事戻らなかったわけで、王様心配してるかもしれませんねぇ。」
長かったクサッツでの生活を終え、新しい装備を手に入れた僕達は、久しぶりにヒコーネに帰る事になった。