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vsメイドさん その3


「だ、だいじょうぶでしたかぁ~~?」


ほんのついさっきまで、僕を本気で殺そうとしていたとしか思えない仕打ちをしてきたメイドさんは、僕を抱きしめながら謝ってきた。


「だ、大丈夫なわけないじゃ・・・。」


抱きしめられながら、僕の全身が淡く発光していく。すると、あっという間にキズが癒えた。


僕の全身を癒してまだなお僕を抱きしめて離さないメイドさん。汗をかいたからだろうか。なんかいい匂いがする。肌に伝わる感触は、とてもあのパワフルな攻撃を仕掛けてくるとは思えないほどに柔らかい。


これはもう実は天使ではなかろうか。仮にとはいえ死に直面しかけた僕の本能が、おかしな方向に切り替わり始めた。


「あの、あの、私は、本当はこんな事反対だったんですよ?でも・・・。よしえさんが、どうしてもやれって・・・。」


まだそんな関係ではないんだし、まずは肩辺りを抱きしめ返そうか悩んでいた僕の耳に、なかなか衝撃的なニュースが入ってきた。どうやら今回のマジ訓練の黒幕はあのチリチリパーマらしい。


「もしかしたらこの先強いモンスターと戦うかもしれないし、その時にまさよしさんがブルって戦力にならなかったら困るからって・・・。」


言ってる事は正しいように思う。思うけど、せめて事前にそう言ってくれれば・・・。


「ちょ・・・!本当ですか?よしえさん!」


今すぐ駆け寄って問い詰めたいところだけど、僕を抱きしめる天使の柔らかな触感が僕を誘惑してやまない。あんまりアレだと僕のジョーがファイティング。



「そうやで。事前に話してしまうと真剣にならんかもしれんと思ったから・・・。ごめんな。」


そう言うなり頭を下げるよしえさん。


「いや・・・。まぁ・・・。相当ビックリはしましたけど、大丈夫・・・って事もないですけどね。」


殺されかけたのだ。いくら回復魔法で治るとは言っても、やはり痛いものは痛い。


「これまでマー君はコブリンと戦ったりしたわけなんやけど、これからもしかしたらもっと強いモンスターと戦う事もあるかもしれん。明らかに自分より格上かもしれん相手に対してでも、心を強く持てるようにと思って・・・。」


一応これでもドラゴンスレイヤーなんだけどなぁと思ったけど、あの時はそもそも自分が前線で戦うつもりはまったくなかった。今後、オークとタイマンで戦うような状況になった時にビビらず戦えるかどうか?という事はかなり大事な事だろう。


「それにしてもいきなり身内でなくても・・・。いくら訓練とはいえマキノさんと殺し合いはさすがに・・・。」


「気持ちの通じないモンスター相手やとさすがに危ないやろ?」


「そりゃまぁ・・・。」


「で?どうやった?」


どうやった?とか言われても・・・。


「最後なんか良かったと思いますよ!足切られてちょっとビックリしましたから!盾を飛ばされた時なんて、ちょっとだけ怖いと思っちゃいましたよ!」


足を切られた相手が切った相手を褒める。異世界基準はとんでもない。しかもあれだけ必死で反撃したのに『ちょっとだけ怖かった』とかどんな感想だよ。


「そ、そうですか・・・。ありがとうございます。」


会話の流れで自然と僕を抱きしめるのをやめて離れてしまったマキノさん。残念。


「マー君は、そもそもこういう戦いとは無縁の世界でこれまで生きてきたみたいやし、あんまり無茶もさせたくないんやけど、ある程度はどうしても・・・。な。」


「そうですね。正直、これから先もこんな真剣持って簡単に人間切り飛ばせるようになるとは思えないんですけど、でも心構えというか、準備は必要ですよね。」


これまでにもモンスターを倒した経験がまったくないわけではないけど、あらためて命のやり取りについて考えていかないといけないような気がする。


「私みたいに自己回復出来るモンスターが相手だった場合、トドメを刺さないと意味無いですからね。足を切っても魔法で生やして襲ってきますから。」


確かに、もし相手がマキノさんでなくモンスターだったら、盾を投げ返されて心折れた時点で僕は殺されていただろう。


「まぁ、とりあえず言いたい事はよくわかりました。そんな急にパッと強くはなれませんけど、出来る限り頑張りたいと思います。でも出来たら、今後は先に言ってもらえると嬉しいです。」


突然無茶な特訓に付き合わされたけど、考える事は多い。


これまで戦ってきたゴブリンやオークのようなTHE モンスターといった見た目の敵なら、まだ気持ち的な抵抗はあるものの戦える気がする。


それでも殺すという事にはやっぱりいくらか躊躇するんだけど、殺らなきゃ殺られるんだから。


でも、これがもっと人間よりの人型となるともうかなり難しい。それもマキノさんのような女性となると、これはもう実力というより心理的にかなりハードルが高い。


向かってくるマキノさんを、躊躇無く首を切り落とし一撃でトドメをさす。それが異世界的に理想なのだ。と言われても、とても出来る気がしない。



でも・・・。



人間型の、もっと言えば思想の違う他の人間との戦いになったりしないように、祈っていくしかない。


「そう言えば、今さらですけど足は大丈夫ですか?思いっきり切り飛ばしたんですけど。」


「足?あぁ!全然大丈夫ですよ!なんの問題もありません!」


そう言って僕が切り飛ばしたはずの足を見せてくるマキノさん。そこにはもう傷1つ無かった。


足を切り飛ばされてなんの遺恨も残さない関係とか、異世界基準は本当に怖い。


回復魔法って便利だなと思ったけど、僕が元居た世界にこんなものが無くて良かったなと心底思った。もしこんなものが存在したら、人間が減らない消耗品扱いされたに違いないからだ。



「ほな、マー君も疲れたやろうし今日はとりあえず解散にしよか。」


こうして、命がけの特訓は終わったのだった。

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