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vsメイドさん その2

「殺し合いって・・・。そんな物騒な・・・。」


突然とんでもなく過激な事を言い出した


「あ、いや、まぁ別に本気で殺しあうっていう話じゃなくてですね。それくらいのつもりで。というか、8割くらい本気で。という感じで。」


これまでも何回も特訓した事があるけど、それよりも厳しくいくという事だろうか。


「だから、まさよしさんは木剣じゃなくて真剣を使ってください。難しいかもしれないけど、私の事も殺すくらいのつもりできてください。」


「いや・・・。そんな急には・・・。」


「じゃあそれはそれで別にいいですよ。でも、まさよしさんがどう思っていても私は殺す気でいきますよ?」


ニッコリ笑顔でとんでもない事を言うマキノさん。


「ちょ・・・!よしえさんも、ほら、何か言ってくださいよ。危ないですよね?」


「まぁ、回復要員が2人もおるし、そもそもマー君の腕でマキノちゃんがどうこう出来るとも思えんし、いいんちゃう?」


「よしえさんまで・・・。」


「それに、どっちにしても実戦に近いような訓練も必要やと思うで?今後もしかしたらマー君1人で戦う事があるかもしれんわけやし。」


それは確かにそうなんだけど。よく考えたらドラゴンを除けば今のところゴブリン1匹倒しただけなので、このままではかなり不安ではある。


「・・・わかりました。でも、なんかあったらすぐ助けてくださいよ?お互いに。」


「そんなつもりでやるんやったら意味無いような気もするけども・・・。まぁ、ほなはじめよか。」


そんなわけで、僕とメイドさんとの命がけの戦闘訓練が始まった。



いくら回復魔法があると言っても、可愛らしいメイドさんを切って捨てるつもりで戦うとか、異世界基準は正気の沙汰とは思えない。


しかし、そんな風に思うのはどうやら僕だけのようで、相手のメイドさんはやる気満々のようだ。


「はーい!じゃあいきますよ~♪」


なんてニコニコしながら手なんか振って。あれが今から僕を殺しにくるのかと思うと大変胸が熱くなりますよね。



まずはやっぱり靴で加速しながら正面からやってくるマキノさん。


素手で戦うのでリーチが短いマキノさんは、戦うつもりならとにかく突っ込んでくるしかない。これはもうお決まりの流れなので、木剣なら先読みで攻撃も出来るけど今の武器は真剣。


どうしてもやっぱりためらってしまう。もし、もしも一刀両断で即死させてしまったら・・・。そんな思いが、攻めるでもなく退くでもないふわっとした中途半端な攻撃となった。


突っ込んでくるマキノさんに対して、煮え切らない感じで水平に切りつけようとした僕の攻撃をジャンプで飛び越え空中で前転しながら回避。そのままの勢いで、僕の頭にかかと落としが降ってきた。


「ぐわぁぁ!」


なんとか盾でガードしたものの、重い衝撃が僕を襲った。足腰に響く。


着地と同時に僕の顔面目掛けて左ストレートが飛んできた。とっさに剣でガードしようと体が動き、マキノさんの拳に剣の刃が当たる。


スブリ。と嫌な感触があったけど、ただそれだけだった。少し勢いは落ちたもののザックリ剣が刺さったままの拳が僕の顔面を直撃する。


バキッ!という大きな音と共に、鼻にツンとくる独特の匂いと口の中に広がる血の味。


とっさに剣を引き抜くと、マキノさんもやや距離を取る。



痛い。凄い今さらなんだけど、もしもダメージが数字化出来たらこの世界に来てモンスターにやられたダメージよりたぶん味方にやられたダメージの方が大きい。


今までの人生で喧嘩なんてほとんどしたことなかったのに、どうしてこんな目に合わないといけないのだろうか。


そして一方。僕の剣が拳にザックリ刺さったというかめりこんだマキノさんの方はと言うと、綺麗に割れた拳から淡い光を放っている。よく見えないが間違いなくもうそこに傷は無い。



なんだこれ。ズルくないか?



そもそも、殺し合いとか言ってるけど僕に向こうを殺す力は無い。それこそ問答無用で銃をぶっ放せば跡形も無く消し飛ばす事は出来るかもしれないけど、それはやりすぎだろう。


殴られて切れた口の中の味が気になってしょうがないなと思っていると、またメイドさんが凄い勢いでこちらに向かってやってきた。



あぁダメだ。またやられる。



そこからはまた、一方的だった。



守る事避ける事に専念すればいくらかダメージが減らせるものの、向こうは手数が多すぎる。上に後ろに正面から。足やら手やらが飛んでくる。


どうしても1歩踏み込めないまでもたまにこちらの攻撃が当たる事はあるんだけど、どれもこれも偶発的な事故レベルのダメージ。ちょっと当たって切れただけ。


しかも、切ったそばから回復するのだ。



そうこうしている間に積もり積もる僕の体のダメージ。アゴがおかしくなったのか、どうも動きがガコガコする。口の中に逆流してくる鼻血の量は、おかわり自由のドリンクバーだ。


腕にも脚にもアザが出来て、頭がガンガンして集中できない。



なんだこれ。どうしてこうなった。



なんとなく、ボタンを押しただけなのだ。漫画やアニメやラノベの世界をイメージして、ただなんとなく異世界に行ってみたかった。チートでハーレムで無双がしたかった。


なのに。現実はどうだ。魔王を倒す勇者どころか、僕の事をなぜか本気で殺すつもりのメイドさんにボコボコにされるばかりだ。


普段ならあと5段階は手前でよしえさんが止めてくれるのに、今回は目的が目的だけにストップがかからない。



もう何度目かになる蹴りを頭にくらった瞬間、僕の中で何かが壊れた。



もういいや。どうにでもなれよ。



きっとこれは悪い夢に違いない。あの僕を殺そうとしているメイドは、たぶん死神か何かに違いない。


これはきっと夢なのだから、何も遠慮する事はない。生きるも死ぬも、活かすも殺すも僕次第のはずだ。



少し距離が離れたところから、またメイド姿の死神がこちらに向かってくる。


僕はもう、守る事を考えるのをやめた。ただワンパターンにこちらに向かってくる敵に向かって、両手でしっかりグリップを握り水平に剣を振った。


ただ、その剣もむなしく空を切る。そして最初の時と同じように、僕の剣をよけた勢いでかかと落としが降ってきた。


「くらえぇぇえぇ!」


最初の攻撃は当たると思っていない。僕の狙いはこのかかと落としにあった。


僕の頭目掛けて勢いよく降ってくる足に目掛けて、全力で剣を振るう。


スパンっ!という気持ちいい感触が手に伝わり、僕の体に血が降り注いだ。


目の前には、右の足首から下を失った死神が、呆然と立つばかり。そして、僕の頭の上には主を失った元・足が落ちてきた。


僕のような素人が、固い骨を綺麗に切断出来るはずがない。こうなったのは、それだけかかと落としに速度があったからだろう。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


僕は吼えた。死神に、一矢報いてやったのだ!


そんな僕を見てなぜかほくそ笑んだ死神は、片足のままで少し距離をとった。


そう。奴は回復するのだ。完全に息の根を絶たねばまた新品になってしまう。


死神の足が淡い光に包まれ、そう時間のかからない間にニュルニュルと足が再生した。それを見ながら、RPGのモンスターってこんな気分だったのかなと考えた。



ただ、足は確かに再生するが身に着けた物まで再生はしない。そう。死神は今片足が裸足だ。奴の切り札である魔法の靴の片方は、元・足の残骸と共に僕の手の中にある。


奴はこの靴が欲しいはずだ。だから、僕は元・足の残骸を、靴をはかせたままの状態で僕と奴の真ん中辺りの位置に向かって放り投げた。



死神が走る。靴を拾うために。



僕は、そこに向かって今は0であるメモリを3に合わせて盾を構えた。


一瞬、僕の方を見て死神がギョっとした。僕は、かまわず右手で左手の手首を握った。



シュン!という、全力で飛ばした時よりかはいくらか小さな音で盾が飛ぶ。これが直撃すれば死なないまでも重症だ。いよいよこの戦いも終わるだろう。


飛んだ盾の勢いは速く、全力で走っていた死神にとても回避出来るタイミングではない。僕は自身の勝ちを信じて疑わなかった。



しかし。死神はその手を盾に向かってかざす。すると、なにやら緑の気流が手と盾の間に生まれ、盾は気流に流され勢いを失い下に落ちた。風の魔法か何かだろうか。


さらに、死神はその落ちた盾を拾い魔力を込めて僕に向かって投げてきた。僕が飛ばす勢いよりははるかに遅かったが、完全に勝ったと思っていた僕にそれを回避するだけの力はもう無かった。



なんとか剣でガードするが、思ったより威力は強く剣が折れてしまった。



あぁ。もうダメだ。僕はここで殺されるんだ。



盾を飛ばされ怒ったのだろうか。死神が、僕の元へとゆっくり進んでくる。


怖い。しかし、なぜかそれとは別に不思議な達成感があった。


僕は自分のやれるだけの事をした。結局たいして何も出来たような気もしないけど。



ゆっくり、僕に近付いてきた死神は、僕にとどめを・・・。



さす事はなく、僕を優しく抱きしめてきた。

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