謎を解決しよう 3
溜息を一つついて、出来る限り友好的な笑みを張り付けた顔を魔蟻に向けれたのに後ずさられた。随分と怯えている。さっきまでヴェヒターに脅かされていたせいだろう。気の毒に。
さて、ここは出来る限り穏便に事を納めたいところであるが――――――――――
「庭の薬草が必要なら、譲っても良いですよ」
「良いのか?」
蟻の代わりにヴェヒターがくりくりした目で尋ねてきた。
「ルインにとって何の得にもならぬであろう?」
「これでも一応薬師の端くれ。弱っている人……蟻が求めているというのなら、薬草くらい譲ることもあります」
「ルインなのに!?」
「どういう意味ですか」
革袋から出てるヴェヒターの頭をツンツンしてやった。
考えたのだが、このまま魔蟻たちが盗難もとい薬草の採取を続けていけば、確実に人の目に留まるだろう。
魔蟻の目撃情報があれば確実にギルドで話題に上り、魔蟻の調査、あるいは排除、駆除といった依頼にも繋がっていくだろう。
そして非常に残念なことに、その際にわたしへ話が回ってくる可能性がある!
いや、いま考え得る最も困るのは、魔蟲繋がりでわたしの関与が疑われる場合だ。それだけはどうしても避けたい。しかし言葉を尽くしても信じてもらえないことだってある。そうなったら終わりだ。
そういうわけで、憂いの種はできるだけ排除しておきたい。最初の対応って大事。
「できればこれまでどおり、地底とやらで静かに彼らだけで暮らしてほしいんです」
「ここにある薬草を分け与えるだけでは足りぬと思うぞ」
「そうなんですか? あ、それじゃあ皆で薬草を育てるというのはどうです? どこか人が入ることのできないような辺鄙な土地をレーゲンに豊かにしてもらって…………」
盗むのが問題なのだ。こっそりひっそり自分たちで自分たちの分を育てれば良い。
思い付きだが良い考えだと思ったら、何故か魔蟲たちがジッと注目してくる。
え、なに?
「ルインはまこと面白きことを申す」
「そんなオモシロ発言したつもりはありませんが……」
「闇の中、堅い岩盤をその身でもって削り続ける存在に、陽の下で緑を育むめと望む。それを面映ゆいと言わず何と言うのだ?」
……わたしの発言は魔蟲にとって非常識だったということだけはわかった。
また謎の魔蟲理論が出てきそうな不穏な雰囲気を感じ取ったので、さっさと話題を変えたい。
「どうするのが良いですかねぇ…………」
要は、その魔蟻の上位種とやらが回復すればよいということなんだけど。
「……傷薬でも持って行かせる……? いやでも相手は魔蟲。まったく効く気がしない…………」
効果が無いばかりか、何か異変が起きようものなら怒り狂った魔蟻に突撃されそうだ。
うーん、と悩んでいると、ヴェヒターがもぞもぞと革袋から這い出てきた。
「ならば魔蟻に効く薬を作れば良かろう!」
何言っちゃってんの、この蜂?
こっちはギョッとしているというのに、言い出した方はぴるぴる羽を動かして得意気だ。
「我がいれば魔蟻との意思疎通も可能。これはルインの名が後世に知れ渡る偉業となるに違いない!」
それは絶対にない。
心の底からそう思ったし、そう突っ込むつもりだった。
しかし、調子に乗るヴェヒターの周りでそわそわと尻をゆすりながら、キラキラした目を向けてくる魔蜂たちを前に、つい言葉を飲み込んでしまった。
『わぁ、すごーい』と言わんばかりの視線が突き刺さる。
その中で、不安そうな、けれどほのかな期待を込めたような視線を向けてくるのは魔蟻だ。
うぐぐ、と喉の奥を引きつらせながら、それでもなんとか言葉をひねり出す。
「…………ヴェヒターがやれば良いじゃないですか。前に薬を作っていたとか言ってましたよね?」
「えーやだーめんどいー」
悪びれることなく言い切った蜂に、ひくっとこめかみ辺りが引きつった。




