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謎を解決しよう 1

 それは、天気の良いある日に起きた。



「……………またやられてる……」





 目の前の穴ぼこを見下ろして、わたしはムムムと唇を引き結ぶ。

 庭の一角。薬草を試しに植えて育成状況を観察しようとしている場所だ。

 以前、シュタネイルの薬草を植え替えたけれど、何者かに引っこ抜かれてしまったので、手頃に近くの森で見つけた薬草を植えておいた。それが消えている。


 金にも食べるものにも困らなくなったからといって見過ごすわけにはいかない。

 小さな出費が重ねれば大金を失うのと同じく、小さな面倒事が後に大きな災いとなることだってある。

 平穏は甘受するが、警戒を怠ってはいけないのだ。


「二度目ともなれば確信犯。いったい誰が何の目的でこんなことを……?」


 魔蜂だらけの庭で泥棒とは大胆過ぎる。ライリーやドナは割と出入り自由だが、例え二人が薬草を引っこ抜いたとしても魔蜂の目には留まる。

 難しい顔で考え込んでいたら、ぽすんと肩にいつもの重みが。


「ルイン、ここは我に任せよ」


 厳かな声で、ヴェヒターはそう言った。













 庭にずらりと並んだ魔蟲たち。

 ざわざわと落ち着きのない様子だが、それでも大人しく整列している。ぷりぷりした尻が並ぶと壮観である。

 彼らの前で、フンと胸を張ったヴェヒターは実に偉そうに宣言した。


「我らがテリトリーで盗難事件など言語道断! しかぁし! この名探偵ヴェヒターにかかれば、かような事件は即・解・決!!」


 いちいちポーズをとったヴェヒターに、喝采のつもりなのか小さな魔蜂たちが一生懸命羽を動かし音を出したため、「名探偵って何」というわたしの呟きは羽音に飲み込まれた。

 気を良くしたらしいヴェヒターがゆっくりと魔蟲たちの前を飛び始める。


「真実に至る道を開くには、疑問を解消していく必要がある―――――まず最初に、我らがテリトリーの警護態勢についてだが」


 ヴェヒターが小さな魔蜂たちから何やら聞き取り、頷いている。


「ふむ。その証言に偽りはないであろう」


 コクコクと頷く小さな魔蜂たちを一瞥すると、ヴェヒターは再びゆっくりと飛び始める。


「テリトリーに踏み入れれば、昼夜問わずとも即座に感知し、吊る。この仕組みは完璧。それでなくとも地上には常に飛び交う羽虫共が存在し、その監視を掻い潜って薬草を盗み出すなどできぬ――――――外部の者にはな」


 ピタリとヴェヒターが動きを止める。

 

「犯人は―――――お主だ!」


 片方の脚を目の上に当て、反対側の脚でビシッと相手――――土から頭を出すレーゲンを指した。

 レーゲンは驚いたらしく、指摘された表紙に思い切り仰け反った。


「薬草が生えていた穴を調査させたところ、大きな空洞に行き当たった。それはレーゲン、其の方の通り道!」


 ブンブンと頭を横に振るレーゲン。

 小さな魔蜂たちはざわめき、身体を寄せ合って恐々とヴェヒターとレーゲンの様子を窺っている。


「通り道の近くまで根を伸ばした薬草をその巨大な口で引っかけ、そのまま飲み込んだ…………真相はそんなところであろう! 素直に認めるが良い!!」


 尚も認めないレーゲンに詰め寄るヴェヒター。

 

「さぁルインよ! これからどうする!」

「…………あの、レーゲンめちゃくちゃ否定してませんか?」

「何を言うか。犯人は言い逃れすると相場は決まっておる!! だがな、ルイン」


 キリっと背と羽を伸ばし、ヴェヒターは格好つけた。


「我が複眼から逃れられる謎は無い! ……くくく……ふぁーっはははははははは!!」


 高笑いするヴェヒター。頭を振るレーゲン。我関せずなコルトゥラとクフェーナ。オロオロするイルメルダと小さな魔蜂たち。


 …………うん、どうしようかな。


 ちょっと遠い目をしていたら、レーゲンが勢いよく土の中に潜った。


「愚かな……、逃走するなど、己が怪しいといっているも同然。罪を重ねるとはな…………」


 哀愁漂わせたヴェヒターは、しばらく魔蜂たちに背中を向けていたが、やがてくるりとこちらを振り向いた。


「仕方あるまい。ここに、レーゲン捕縛隊を編成する!」


 ヴェヒターの宣言と、轟音とともに庭が破裂したのはほぼ同時だった。

 

 目を見開くわたしの前で、一度空に吹き飛ばされた黒い土の塊がバラバラと降ってくる。

 ――――ズゥゥン、と重苦しい音が響き、もうもうと土煙が上がった。


「…………いったいなにが…………?」

「これは…………」


 ヴェヒターが見つめる先に、蠢く何かがいた。土煙が風にさらわれ、その何かが姿を現した。


 そこには、大きな蟻がひっくり返っていた。

 


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