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洞窟 7


 こいつら身動き取れないようにできないかなぁと呟いたら、二匹が素早く動いた。

 男たちが持っていた縄を見つけるとそれを適度な長さに切って両手両足首を縛り上げ、更に身体を折り曲げるようにさせて手と足の縄を繋ぐ。


「…ちょっとやりすぎじゃ…」

「関節を外して縄抜けをする猛者がおるかもしれんからの!」

「んな馬鹿な」


 そんなやり取りをしている間にも二匹は働く。

 どんどん窮屈な姿にさせられていく男たちを眺めながら、ぽつりと零した。



「……わたし、てっきりヴェヒターが敵を倒したのかと思ったんですよね」


 暗闇の中で高笑いしながらだったし、なんかそんな雰囲気だったよね?


「我はかわゆい蜂であるからのぅ。戦闘力を期待されても困る」

「そうですかぁ……。魔素の泉に浸かって特殊能力に開花とか一瞬考えたんですが、上昇したの体重だけですかぁ……」

「はぅっ!ルインが追い打ちをっ…!」


 胸のあたりに脚を当てているが、なんかわざとらしい。

 


「ルイン、我だからこそその程度で済んだのだぞ!」

「そうなんですか?」

「いかにも。我はちょっと特殊だからのぅ!」

「あー……。それはなんとなくわかります。ヴェヒターはちょっと他と違いますよねぇ」

「やはりわかるか……。…そう、隠そうとしても隠し切れぬであろうこの気配(オーラ)…!」


 自分が唯一無二だとか説明する魔生物を生温い目で見やる。

 


 ………ごめん、ヴェヒター。正直、気配とか他の魔蜂と違いわかんない。


 適当に返事をしただけなので、あまりにも嬉しそうだと若干の罪悪感が沸くなぁ……。



 そうこうしているとツォークとオストが戻ってきたので、とっとと洞窟から這い出ることにした。


 外に頭を出すと、周囲はもう薄暗くなりかけていたが、それでも洞窟内よりは明るい。


 さて、これからどうするか……。


 ちらりと命の恩人(蜂)たちを見やる。





「……すみませんが、そちらの方々にはお帰りいただけますかねぇ…」

「なにっ!?」


 ヴェヒターが叫んだ。


「イルメルダが良くてこ奴らがダメな理由は何だ!」

「えーと」

「……はっ!見た目か!?見た目だな!?」

「えー…」

「確かにこ奴らの顔は怖い!特にツォークが怖い!とって喰われそうだと良く言われておる!だがな、中身は繊細なのだ!下位種にも優しいのだぞ!その顔と能力から忌み嫌われ最前線にて敵味方から地獄へと誘う魔物と呼ばれ恐れられては、こっそり酒樽の陰でしくしく泣いてしまうような奴なのだ!泣き顔も怖いと言われるから陰でコッソリな!!!」


 ヴェヒターの背後で、こちらに尻を向けシクシクしているツォークと、その周りでうろうろするオストを視界に入った。


「……いえ、怖いとは思いませんけれど……、中身の残念さの方が際立つんで……」

「ツォーク!泣くでない!」




 ぽてぽてツォークの方へ近づくヴェヒターを眺め、はは、と力なく笑いながらずるずると寄りかかっていた壁に沿ってへたり込む。

 

 岩壁はヒヤリと冷たかった。

 それに少し昂っていた気持ちが抑えられたのか、代わりといわんばかりに先ほどまでの暗澹たる気持ちが湧いて出てきた。

 




 どうしようもないとき。


 助けてもらえるなんてことはあり得ない。

 そんな都合の良いことは起きない。

 期待なんてしない。


 そういうときは、諦める準備をする。

 悪い想像をする。

 覚悟するために。

 どんな現実でも受け入れられるように。

 


 あのときもそうした。

 わたしもヴェヒターも死ぬ可能性の方が高かったから。



 ――――でも、そうはならなかった。


 



「…どんな状況だって、ヴェヒターは仲間が助けに来てくれるんですねぇ…」


 ぽろりと零れたそれは、しっかりヴェヒターに届いていたようだ。


「当然であろう?」


 きょとりとした様子に、思わず苦笑する。

 ぽてぽて近づいてきたヴェヒターがわたしを見上げた。


「ルインのことも助けるぞ?」


 それには答えず、緩く頭を振る。


 助けてほしいとか、そういうことじゃない。

 そんなこと言われたって、信用できないし。


 ただ、そう、ヴェヒターたちは仲間同士助け合うんだと思ったら……。



「…少し、安心したかもしれません」

「安心?」


 不思議そうな丸っこいヴェヒターがなんだかおかしくて、笑みが浮かんだ。

 


「そうです。ヴェヒターたちが殺されたりする可能性が低いってことでしょう?」

「むむ?我らを害するものには徹底抗戦する腹積もりであるがの?」

「そうですよねぇ」

「無論だ!!」


 

 胸を張る魔蜂。

 短い付き合いだが、こいつらが理不尽な状況に甘んじるとは思えない。

 徹底抗戦はきっと嘘じゃない。

 そして、実際にそれができるだけの能力がある。仲間もいる。

 

 それは、不測の事態でおサラバする可能性が低いということだ。

 …余計な覚悟をしなくても良いということだ。



「ヴェヒターの心配は、要らないということですね」

「何故そうなった!?」

 


 驚愕の声をあげ、我も心配されたい!と訴えるヴェヒターを他所に、わたしはいつになく穏やかな心持ちだった。 

 


   

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