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商品を開発しよう 2



 ガキン

 ガリゴリガリゴリ

 ガキン

 ガリゴリガリゴリ


 規則的な音が響く。

 最初のは魔蜂たちが大きな鉱石を割る音。

 次はその破片を磨り潰す音だ。

 小さな魔蜂たちが矢じりの先を石に当て、物置から引っ張り出したというハンマーで矢じりの尻を打ち、絶妙な大きさに石を割る。

 零れ落ちた破片を別の魔蜂が石臼に運び、また別の魔蜂たちが石臼を動かして粉砕する。


 初めはわたしがちまちま作業していたのだが、やり方を見て覚えたのかすぐに魔蜂に取って代わられた。


 そのすべてに無駄がなく、実に統率がとれている。


「当たり前であろう。羽虫どもは脆弱なるも元々連携して動くに長けておるからな。まぁ、率いるのが我らでなければこうはいかんがな!」


 無駄に自信あふれているが、指示を出したりしているのはコルトゥラやクフェーナであって、ヴェヒターでは決してない。




 花蜜を使った石鹸を開発するにあたり、まずヴェヒターは花蜜をお湯に溶かしたものを提案してきた。

 しかし、それでは大量の花蜜が必要になってしまう。


 「我がいる限り花蜜を絶やすことなどあり得ぬから安心せよ!」とか言っていたが、小さな魔蜂たちに世界中の花蜜を集めてこいとか超絶頭悪いことを言い出しそうなので即不採用とした。


 では代わりに、と提案されたのが、鉱石と花蜜を調合する方法だ。

 差し出されたのは見慣れない鉱石。灰白色で、透明感がある部分はつるつるしている。


「これはロナという。これ自体にも洗浄力があり、花蜜と相性も良いものだ」

「それ、どうしたんですか?」


 どこからともなく差し出されたそれに不安を覚えて問えば、ヴェヒターはふわふわの毛を有する胸を張った。


「拾ってきた!」

「え、どこから?」

「羽虫どもの羽で2日ほどかかる場所かのぅ」

「…それ、詳しく距離を説明しているつもりですか?」


 黒い目がきょとんとわたしを見返す。


「わかりにくかったか?ほれ、羽虫どもがあのように尻を振る回数と触覚の角度と踊りの長さで―――――」

「羽での説明の方がまだ耳に馴染みますかねぇ……」


 拾ってきた場所を言及するなど、実に些末事だった。

 わたしはヴェヒターに近寄るとそっと声を潜める。


「―――ところで、拾った場所がどなたかの所有地とかで、石の所有権を求められるなんてことになりませんか?」


 ヴェヒターの黒い目と目があった。


「ルイン…、我は何ぞ?」

「魔蟲ですね」

「うむ。その通り。だからして、人の決め事など無に等しい。そうは思わぬか?」

「そうですよね。好きなところにどこへでも行けちゃいますもんね。領地の境界とかわかんないですよね」

「然り然り。人の決めた境など知らん。空から見てもわからんし」

「散歩している魔蟲がちょっと気に入った石を拾うくらい普通ですよね」

「うむ!」


 わたしたちはにっこり微笑み合い、固く握手を交わした。

 悪手と言っても、ヴェヒターの細い脚にわたしの指を絡めただけだが。



「くくく、ルインも(わる)よのぉ」



 人聞きの悪いことを言うんじゃない。



 わたしはただ、魔蟲と人の認識の差異について確認しただけである。


 ロナの入手について当面の問題ないようだ。


 


「それにしても、ヴェヒターは物知りですよね」

「知識の宝庫!それが我!」


 コルトゥラやクフェーナのつくる料理も見慣れないものが出てくるもんなぁ。

 胃袋掴まれている身としては多少見慣れなくとも気にせず口に入れちゃっている。美味しいし。


 ビシッとポーズを決めているヴェヒターを含め、本当に魔蟲の知識って侮れないとしみじみ思う。


 彼らは国も領地の境も何も関係ない。どこへでも飛んで行って、興味の向くまま知識を得ているのかもしれない。


 少しばかり羨ましかった。




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