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依頼受注!



 蜜飴の上前を撥ねることで、現在のわたしは小金持ち。魔蟲たちのおかげで食生活も充実しているし、精神的にも余裕がある。しかし当然永遠にそれが続くわけではないことを理解している。蜜飴がいつまで売れるかもそうだが、いつまでここで生活できるのかもわからない。人生とは先など読めないもの。

 だからこそ、できれば薬師としての腕と評判を上げたいと、毎日のようにギルドに行って程よい依頼がないか確認している。

 ただの散歩、あるいは世間話をしに来ているわけではないのだ!


「地道な努力が実を結ぶのよ…!」

「よかったのぅ!」


 朝食を食べてギルドに行ったら、依頼を受けた。依頼主は定期的にやってきているという冒険者パーティ、を雇っている商隊かな。王都から商隊を護衛しながら移動しているという彼らは、結構な人数がいる。道中で傷薬を使ったらしく、その補充の依頼をダリウスが回してくれた。


 そういうわけで、素材採集だ!と意気込んだのまでは良かったのだが……。


「ここも摘まれている…」


 前回と同じく近所の森。魔素入り朝露は手に入ったのだが、めぼしい薬草が摘まれていた。


「盗人か!!」


 ヴェヒターは憤慨しているが、この森は別にわたしの所有地でもなんでもない。小さな森の薬草群生地なんて限られている。ましてや、ここは子供でも入れる森。よくあることだ。

 摘まれているのは葉だけで茎や根は問題ない。10日程経てば新しい葉が出てくるだろうけれど、それでは遅い。

 








「あの森、ガキどもが小遣い稼ぎに入るからなー。運が悪いと摘み取られた後に入っちまうらしいなー」

「笑い事じゃありませんよ…」


 ははは、とダリウスは笑うが、こちとら信用に関わる事案である。運が悪いなどという程度で片づけられては困る。そういうわけで、急ぎこの辺で薬草が採取できそうな場所を教えてもらいに来た。


「確実に薬草が手に入り、そんなに日数がかからなそう……か、嬢ちゃん、護衛を雇う気はあるか?」

「そんなに危険な場所なんですか?」

「シュタネイルって山の麓だ。ライヒェンから近いんだが…」


 この転移門がある町の名がライヒェン。そしてシュタネイルは、その昔魔石を発掘していた鉱山の名前だ。廃坑となって久しいが、その手前にある広大な森では採集や狩りが行われているらしい。


「深くまで入らなければ大丈夫だが、採集する人間は採るのに夢中で気づけば迷っているってことが多いからな。嬢ちゃんは初めて行くんだし、護衛兼案内役ってのは必要だろう」

「そうですかー…」


 狩りを生業にする人間に依頼するか、その辺りを知っている冒険者に依頼するかの二択を示された。さてどうしようかと悩んでいたら、蠢くものが視界に入る。

 こちらを見上げ、革袋から出した前脚の一本を高く挙げるヴェヒターは、必死に何かを訴えようとしているようにも見えなくもない。気づかないふりをしていたら、革袋の中から出ようとしたのか無視できないほどに暴れ出したので、ちょっと失礼と笑いながらギルドを出た。


「ヴェヒター!静かにしてくれないと…」

「我、我が役に立つぞ!!」


 建物の裏手で小さく声を上げればそれを遮るようにヴェヒターがぴょんと宙へ飛び出た。


「安心召されよ!我がルインを案内しよう!」

「案内って…シュタネイルの森ですか?」

「うむ!」

「……近くの森さえ初めて来たって言っていませんでした?あ、もしかして、シュタネイルの森に棲んでいたんですか?」

 

 生態などよくわからないので、思いついたまま口にしたが、ヴェヒターは違うと首を振る。


「行ったことはない!」

「……」

「あ、待つのだ。無言でおいて行かないでくれ」


 ギルドに戻って話の続きをしようと踵を返したが、目の前に蜂が飛んできたので仕方なく足を止める。


「我は行ったことはないが、コルトゥラとクフェーナの配下である羽虫どもならば知っておろう。奴らは元々この辺りに棲みついておったのだからな!それらから聞きだして我がルインを案内しよう」


 割と建設的(マトモ)なことを言っているような気がして、思わず凝視してしまった。……なんだ、どうしたんだこの蜂。

 

「イルメルダがいれば危険は少なかろう。たぶん。ちょっとの物音で攻撃しないようにとか指示しておけば、きっと」

「そこで視線を逸らされると不安しかないんですけど」


 だがまぁ、悪くない提案だ。未だに威力確認できていない毒草袋もあるし、ヴェヒターとイルメルダが案内役と護衛役を担ってくれるのであれば依頼料も発生しない。節約、大事。だけど。


「何が狙いですか」


 シュタネイルの森に何かあるのか。そして何故そこに第三者を連れて行きたくないのか。

 忘れてはならない。これは、ずる賢いと評される高知能の魔蟲なのだ。


「だって……できぬではないか……」

「は?」

 

 こっちが真剣な問いを向けたというのに、蜂は黒く細い脚を身体の前でもじもじすり合わせていやがった。


「誰かいたらルインと話せぬではないか!」

「ちょ、声」

「我、ずっと大人しくしておった!ギルドでも町の中でもルインの迷惑にならぬよう人目を忍び口を噤んできた!……だが、まだ見ぬ森へ行ってまでルインと話せぬなど我慢ならぬ!!おそらくは我が好奇心を存分に刺激するであろうその場所で、思いの丈をルインと共有できずに口を噤むなどできようか!!答えは否!でき―――ぅぶっ!」


 どんどん声がデカくなるヴェヒターの頭上から革袋を被せて身体ごとすっぽり覆った。


 誰かに見られたらどうするんだコイツ。危機管理能力が欠如しているのか。いや、そうなったらそうなったで開き直りそうだ。面倒事とかイルメルダやコルトゥラたちで実力行使に出そうで怖い。それらにもれなく付随するであろう面倒事が怖い……!

 もぞもぞ蠢く革袋を時折抱えなおし、焦りながらその場を後にしたのだった。





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