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落とし穴はどこだ



 コルトゥラたちがつくっていた分の蜜飴をティオーヌに納めるととても喜ばれた。

 前金としてなんと小金貨5枚もくれた。金貨なんてお目にかかったことがない。太っ腹すぎて震えていたら、その後もう5枚追加された。帰宅してから堪えきれずに声を出して笑ったら、異常を察知したとか言う魔蟲に取り囲まれた。ええい、なんでもない。散れ散れ!

 半分を貯金、半分で蜂ご所望の魔道具を買い、残りは生活費にしたいと申し出れば、ヴェヒターは快諾。


 ……ふっ。


 考えてほしい。生活費が必要なのは人であるわたしだ。そして貯金を使うのもきっとわたしだけ。

 要するに、魔道具以外はほぼわたしの(もの)という寸法だ。

 ふふふ。わたしに金を巻き上げられていると知らず、蜂は呑気にブンブン躍っている。くくく…。


 ……………。

 ………。

 …どうしよう。順調すぎてどこかに落とし穴がある気がして不安でならない。

 





「よう、魔蟲のルイン」

「………」


 少しの間じっと見つめた。


「こんにちは、ダリウスさん。……今、おかしな呼び方しませんでした?」


 ダリウスが面と向かって馬鹿にしてくるのは初めてなので、少し睨みつけてしまう。


「あー、俺が言い出したんじゃなくて、嬢ちゃんがそう呼ばれてんだよ。あの蜜飴なぁ、誰がつくったのかと問われて、説明がてらに『新たな我が領地の民、魔蟲を操るルインの手によるものです』ってティオーヌが口にしたんだ。そしたらなんかそう呼び出され始めたみたいだな。かなり広まってんぞ」


 驚愕に口を開いたままのわたしに、ダリウスは依頼書を見せつけてきた。


「畑の害虫どうにかしてほしいって依頼あるんだけど、嬢ちゃん他の魔蟲もイケんのか?」

「他のなんか知りませんっ……!」

「そうか、蜂だけな。登録しとくわ」


 軽く受け答えするダリウスなど目に入らない。わたしは衝撃を受けていた。

 魔蟲のルイン?何それ、すっごい格好悪い!

 ティオーヌの発言が元だとはいうけれど、それがなんで二つ名的な感じになっているんだ?二つ名って、もっとこう……功績を称えるとか、逆にヤバいヤツだからつけられるみたいな……。

 わたし相手じゃ色んな意味で嫌がらせでしかないよ!?

 他の魔蟲って何?畑の害虫?知るかーっ!!


 ……撤回したくとも、元々知り合いのいない土地で勝手に広まる噂をどうにかする力はなかった。現実に、わたしはヴェヒターを連れ歩いている姿を晒しまくっている。

 

 がっくりと項垂れるわたしに、後でティオーヌがひたすら謝ってくれた。責任を感じてあちらこちらで呼び名の撤回をしようとしてくれたけれど、無駄だった。


 以来、魔蟲のルインが定着した。



「なんと善き呼び名であろうか!」


 喜んだのは蜂くらいだ。ちくしょう。





 ――――――だが、わたしは完全に諦めていない。遠巻きに「あれが魔蟲のルイン…」とか言われるとわざわざ近づいて行ってまで否定しないが、直接尋ねられたら必ず全力で否定する。



「魔蟲のルインだな」

「違います」


 だからこのときも、その他大勢と同じように速攻で否定しただけのことだ。

 夕刻、もう少しで家に辿り着くという人気のない地点だった。

 




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