ご飯時
はっとした。はっと起き上がった。実際に上体を起こしたわけではないがそれくらいの勢いよく、はっとする勢いで、はっとした。上体全体に力が入り、特に呼吸や発声に関わるセクターは極度の緊張状態にあった。悪夢を見ていた感じでもなければ、何かに叩き起こされたわけでもなく、恐ろしいほど自然にはっとした。
一瞬遅れてやってくるのが菌類の活動の跡。愛着のある腐敗、分解、滅び、汚物、あらあらのお茶目な臭い。いつも読み散らかしている本の臭い、紙の臭い、インクの臭い。壁の臭い、黄ばみの臭い、生温かい臭い。臭いと言うのは生々しく素朴な欲求を正常に起動させる。一応言っておくと、決して匂いではない。
腹減ったな。
食欲。本能三大欲求の一角たるそれは多様な欲求を牛蒡抜きにして独走する。睡眠欲と性欲さえも、今回ばかりはと、道を譲る。そこそこに満たされている状態ではさまざまな欲求が複雑に鬩ぎ合いながら系だか社会だか宇宙だかが混沌と化してしまうのだが、ひとたび飢えてしまえば考えることをやめるのは簡単だ。あらゆる機関が、あらゆる部分が、あらゆる視点が、あらゆる単位が、それを第一に優先することを肯定する。生き抜くためにキャッチアンドイートの生存戦争の真っ只中にリスクを犯してでも飛び込めと。誤差の範囲内で。臭いの中に漂う匂いが、本当は臭いなのかも知れないが今この瞬間の僕にとっての匂いと言えるものが、僕をおっきさせ、むしゃぶりつきたい衝動を引き起こし、捕食願望を弄り惑わす。
パン、牛乳、バナナ。
はっとした時からそれは目の前にあったのだろうが、しかし、匂いや味や手触りや食感や噛みごたえや喉越しやらを認識したのはその半分以上が胃に納まった後であった。それほどまでに空腹であったようだ。喉に詰め込むのは少々苦しかったが、それを躊躇無く無視して貪り食っていた。ありったけの力を振り絞って、ここぞとばかりに、全神経を集中して、少しでも早く少しでも多く口に運んだ。
「おいしい?」
付き合いたての彼女、あるいは、もうすぐ付き合うことになるであろうけど今はまだ恋人ではない彼女であるかのような口ぶりで、賄いに対して愛情で返してほしいと言わんばかりの口ぶりで、何か人によってはとても面倒くさいと思うであろうことを期待するような口ぶりで、アンジェラはそう言った。エロから爽やかな可愛らしさに路線変更したのだろうか。どちらにしろ、僕好みに特化した偶像的魅力の塊であることに変わりは無いのであるが。
「うまいよ」
と、辛うじて言えていたと思う。口の中が一杯であったために、うまくは発音できなかった。しかし、それでもアンジェラは嬉しそうだった。むしろ、その食べっぷりに満足満足のホクホク顔であった。その笑顔にちょっと子供っぽい食べっぷりを茶化すような目を足したような何となくにやけた感じで、顔を覗き込んでくる。注ぐだけの牛乳、千切るだけのバナナ、焼くだけのトースト。およそ女の子の手料理として期待されるようなものでもないし、手の込んだ頑張って作らなければならないものでも無いだろうが、ぱーっとキラキラな満面の笑みを見せられては、そのようなことを口走るどころか考えることも憚られる。本来あるべきいろいろな疑問と一緒に、食べることに夢中になっているだけと言う説もあるが、心の狭い指摘は忘れ去られた。
「そうでしょ、そうでしょ」
満足そうだ。とってもとっても満足そうだ。
「おう。ありがとな」
美味いのも感謝してるのも本当だ。食べながら喋っているのは許して欲しい。
「じゃあ、私も食べる?」
それは結構。と、言うための口が満杯なので、脱ごうとするアンジェラを手で止めた。
「それくらいのことで偉そうにしないの」
台所からサキがやってきた。
「ごめんなさい。
いろいろ散らかしてしまった。一応かたずけておいたけど、冷蔵の野菜と肉の残りを駄目にしてしまった。
アンジェラがここまで不器用とは思っていなかった。私の責任。
ごめんなさい」
そうか、一生懸命手の込んだことをしようとして失敗した結果がこれと言うことか。僕としてはこれくらいの軽食で良かったんだけどね。サキが居ながらこんなことになるとは、アンジェラがよっぽどだったのだろう。それだけに、湧き上がってくるのは当然怒りとは程遠い感情であったことは言うまでも無い。
「いいよ、それくらい。
サキ、ありがとな」
頼りにしています。
おっと、アンジェラが若干しゅんとなってしまったので、ここは透かさず、
「アンジェラも。ありがとな」
二回目だけれど、まあ、失敗しててもそれでもやっぱりと言う意味で。
「うん。ありがと」
しかし、調子に乗るといけないので、
「脱ぐなよ」
「着たままが好きなの?」
効果はいまひとつのようだ。
「違う。好きだけど、違う」
着エロはアレコレ想像させるのが良いよね。
そんなやり取りをしているうちに、いつの間にやら完食していた。小さなパンくずや、しずくのようなミルクも、バナナの皮はさすがに無理ではあるが残さず頂きました。作ってくれた人やら食べ物そのものやら頂いた命やらに感謝をするのを忘れていたので、遅ればせながら、頂きました、そして、ご馳走様でした。
それなりに空腹が満たされ、落ち着きを取り戻したところで、雑多なことを考える余裕が出てきた。主には妄想と現実の話なのではあるが、ほったらかしにしていたり未解決の問題が多すぎてどれから手をつけていいのやら。そもそも、それが問題で無い可能性や、僕の立場では、一人称の視点ではそもそも解決できない非可解系であるかもしれない。理由が分からないことを、これも自然なことではあるが、過敏に嫌っていているだけで、それは気にする必要の無い些細なことであることも考えられる。事実今まで詰まらないこととして扱うことで、積極的に無視することで、スルーすることで、何とかやってきたとも言えよう。
そもそも問題とするべきか。
何てことを考えることは、良くも悪くも、不健康。
癖にならないように気をつけたい。
こういう時は基本に戻ろう。例えば、妄想の大前提である、現実と区別し現実に存在する他者に迷惑をかけない、と言うことに抵触する可能性はないか。妄想が食事を準備してくる位だ、その危険が潜在していることは確かであろう。ただ、それでもここまでほったらかしにしておけたのは、妄想は基本的には僕の味方であって、それぞれの主張や価値観は自由にしておいたとしても、悪質なことはしてこないことをほとんど信じきっているからである。ただ、悪質にならないことを認めたとしても、問題が起こらないと言い切ることはできない。悪意の有無とは無関係になにやら深刻なことに巻き込んだり巻き込まれたりすることなど珍しくとも何とも無い。ただ、悪意があるときよりもとらぶる確率が比較的小さいだけだ。つまり、それが十分小さければ、短いタイムスケールでは、ギャンブルではあるものの、無視することも悪く無いかもしれないが、長いタイムスケールでは、大域的な時空領域では、考慮することが望ましい。
将来的なことを考えると、ちょっぴり危ない。
現実に影響を与える妄想、制御できない妄想、区別できない妄想。最近シッカリしなければならないのに調子を崩している気もするし、何とかしないと。焦ってはいけないところではあるが、焦る方が自然な状況であるかもしれない。何せ、エリさんのこともある。これから現実で新たに関係を築いていきたい人が居るときに、これでは流石に良くない。意中の人と上手くいくように、下手に迷惑をかけないように、できれば妄想も理解してもらえるように。これまでお世話になってきた妄想を無下に消し去るようなこともしたくは無い。
原理的な説明はひとまずおいておこう。候補となる仮説はいくらかあるのではあるが、それが自分の観測を捻じ曲げる妄想を含むものである限り、確かめるすべが無いものが極めて多い。解決の糸口になるような特徴的な性質があって、なおかつ、それが尤もらしいことを説明するために必要な実験が可能であるようなものが思いつかない。SFやミステリ小説のような程度のアイデアであれば、全く思いつかないわけではないし、無批判に否定する気も無いのではあるが、自分で確かめるのが困難なものであったり、特殊な仮定を要求するものでいちいち考えていたら切が無かったりするものである。今の段階では一つ、または、少数有限個の仮説に絞って考えるには情報が不足している。また、他人に迷惑をかけない、という目的意識を考えると、原理的な説明は、できるに越したことではないが、置いておくのも悪くない。
とにかく、現実の人と普通にコミュニケーションできれば問題ない。つまり、妄想側が悪質でなければ、現実に影響を与えようが制御できなかろうが、僕が妄想と現実を区別して対応さえできれば何とかなる、ということだ。説明のつかないビックリなことを妄想がやってのけたとしても、それを妄想だと認識できれば良い。では、妄想と現実の差とは何か。物理的に影響を与えるかどうかが区別できないのではあるが、全てが妄想、すなわち、現実も妄想も無いこと、とは違いは何か。否、原理的説明は二の次であるから、どうやって区別をするか。突き詰めれば、方法が特徴づけることとなり定義と同等の性格と考えると変わらないかもしれないが、突き詰めなければ、利便性・有効性を考えれば、手段さえ分かれば良い。
突き詰めないって素晴らしい。
今のところ、実はというと、これも何故だか分からないが、それはある程度上手くいっている。理屈を詰めると自明でないにもかかわらず、少なくとも直感の方はあまり迷っていない。根拠無く分かってしまうのが、直感の良いところであり悪いところでもある。選択を支える頼りになる奴であり、疑いだすと無に帰してしまう残念な奴である。例えば、今食べたパンと牛乳とバナナは本物である。直感はそう告げる。意識の論理計算よりも演算能力が高く、経験をもとにした判断であれば、その経験が十分豊富かつ偏りが無い場合、信頼するに足る直感の判断である。妄想暦がほぼ年齢と変わらない僕の直感の主張であるから説得力がある。恐らくは、コンパの前のシャワーとか諸々も本物だ。妄想が現実と相互作用する頭の悪い仮説を真面目に考慮させるほどに確信に近いものである。そこのところのカラクリを丸投げしてして直感を信用すると、ひとまずは、直感が何を基準に区別しているかだけでも分かると嬉しい。理由無く大体は正しい直感の方が意識のロジックよりも今は信用できる。あえて言えば、理詰めでは分からないというのが意識が示す、僕が考えて出した、結論である。
では、その判断基準とは何か。意識が得意とする、近似的でも特徴的で便利な性質を抽出し、概念を構築し、構造を解析して理解すると言った方法が有効である保証は無いものの、どういう経験を比較的大きな比重で参考にしているかくらいの事は分からないものか。例えば今食べた食事はどうか。
すでに食べちゃってたね。
「飲み物が欲しいな。お茶残ってる?」
「そこ」
サキが指差す。ペットボトルに入ったお茶とコップが用意されていた。流石に準備が良い。
「こんななところに。さんきゅ」
コップにお茶を注ぐ。確かに分かる。これは本物であり、現実であり、実在する。サキが用意したものであるにもかかわらず、かなりの自信がある。その機構の詳細は分からない、分かることが有益かどうかも分からない、そもそも分かろうとすることが間違いかもしれない。ただ、その機構そのものではなく、ぜだか理解している自分を改めて見つめなおすことで、何か特徴付けることはできないかと言うことに集中しよう。
透き通った黒色、冷たい手触り、滴る水滴。どれも、このお茶が美味しそうと思える根拠になるのだが、しかし、それはやはり現実のものだ。やはりと言っているのは、リアルなものに対して実際にそこにあって水分補給もできると言うポジティブなイメージだけでなく、何かネガティブなもの、どうせ現実はこんなもんだよ、と思わせるような感覚がある。
現実が退屈だから? 最近は退屈していない気もするが、恐らくこれは稀なケースなので、確かにそれも理由の一部にはなっていそうだ。僕は期待を裏切られるような出来事に出会うことを楽しみにしている。しかし、だからと言って、現実を嫌っているわけではない。退屈させない、ドキドキさせるような、あるいは、デンジャラスな、スリリングな、はっはっはーな出来事などが起きる確率はゼロではないし、また、退屈も実を言うとそこまで嫌いでない。退屈だからこそ妄想も楽しめるし、現実の退屈に対してはどこか『あ〜つまんねー日常だな(笑)』と、のほほんとした気持ちにさせてくれる親しみのようなものを感じている。行き過ぎると苦痛であるが、僕はそれなりに現実に対して理解のあるほうだと思う。直感の示す否定的なイメージとは少し質が異なるようだ。
「何マジマジと見てんのよ」
お茶と真顔でにらめっこしている光景は、さも、滑稽だっただろうに。
「いや、別に」
何でもないんですよ。とりあえず、お茶を一口。
美味しい・・・・・・けど、ちょっと冷たい。
そういえば、なぜ現実のものを観察することから始めようと思ったのか。現実があって、現実に起こっていない妄想があるのだから、妄想の方を観察してその特徴を考えても良い気がするが、どうして、現実のものであるお茶を調べることから始めたのか。意識である僕にとっては謎が多いものではあるが、無意識や経験や心や体や神経系やどっかそこらへんに記憶され理解されている情報からすると妄想と言うものは、十分良く見知って、理解して、安全安心で、ほっこりするものだというのだろうか。
安心感、ほっこり感、引きこもり感。
そう、こんな感じだ。こんな感じと言っているのは、逆に、現実にはこの感じが無くて、危険なイメージがある。退屈と反対の刺激的なイメージではあるが、しかし、しっくりくる。先ほどのネガティブなものは現実にあるさまざまな危険のことだろう。完全に納得しているわけではないが、あまりに正しすぎて抵抗できない。現実は何が起こるか分からない。例えば、このお茶も何か得体の知れない新種の病原菌らしきものが入っていて僕の命を脅かすかもしれない。安全な日常であっても、常に、恐らくは低い確率であろうが、危険が多く潜んでいる。ただ、そのことを理解しているがゆえに実際に確率的にレアなイベントに遭遇したとしても驚くようなものではない。このお茶が原因で死んだとしても、現実的に回避できるような手段は無く、ただ運が悪かっただけである。そんな死に方では笑も取れやしない。新種の病原菌であれば、新たな発見のあるビックイベントであるかもしれないが、残念ながらそこまで菌に興味は無い。つまり、退屈であるが、安全安心でもない。
では、妄想のもつ安全安心とはどういったものか? 付き合いが長すぎてぼんやりしたものではあるが、それだけの信頼や親しみを伴う優しい安心感。小さいころから想像力を働かせることは僕の大切な遊び相手だった。家庭環境が悪かったわけでも、虐めを受けていたりしていたわけでもないけど、どことなく孤独で、人からあまり理解されないことも多かった僕にとって妄想は大事なものだった。そう、これは、そうだな・・・・・・、子供にとっての不安を鎮め、新たなエネルギーを供給する自分の居場所のような場所。確かsecurity base(安全基地)とか言うものだったと思う。
一般的には、母親の側などがsecurity baseになるのであろう。子供が犬に吼えられたときに、母親の背中にしがみついて隠れるあれだ。ワンちゃん仲良くしたいって言ってるよ、ほら、勇気を出して、なんて言われて左手を母に握ってもらいながら、愛情と安心感の後押しもあって、ありったけの勇気を振り絞って犬の頭を右手でなでるあれだ。
子供にとっては世界は未知のものであふれていて、危険かどうか分からない未知のものに進んで近づこうとしないため、こういった人やら場所やらが必要なのであろう。人見知りをしたり、注射を嫌がったり、犬を嫌がったり、それ以外にも見慣れないものや初めてのものに対しては警戒を強めるのである。生き延びるために必要な能力であるが、警戒して逃げてばかりはいられない。そんな時、慣れ親しんでいて、信用していて、自分を守ってくれて、愛着のある人の側、すなわち、security baseにいることで安心して勇気を出せるのである。それは成長しても、内化して心の中で支えてくれる場合が多いとは思うが、持ち続けている人も少なく無いだろう。人によって異なるであろうが、憧れの人や、恩師、テレビのヒーローや、神といったものもそういう性質を持ち合わせているかもしれない。そして、それが僕の場合は妄想だったのだ。あるいは、きわめて強力なsecurity baseの内化の結果と考えることもできるかもしれない。
妄想は危険な現実から実際に僕を守っていてくれたのである。否、今でも守ってもらっている。危険な状況に、緊急時に、勝負どころに、ここぞと言う時に、直接的に何かしてくれるわけではないが、どこかで精神的に安心の上での勝負や冒険のようなことができたのは彼らのお陰と言えるだろう。現に、アンジェラやサキには何度も力になってもらっているではないか。経験と知識を重ねても、どの程度未知なものがあるのか、どの程度危険なものがあるのか、と言ったことが相対的により良く理解できるだけで、未知や危険などのストレスが無くなるわけではない。だから、やはり、今でも居てくれないと不安なのである。
これを方法と呼んで良いのか分からないが、この独特の安心感を感じるもの、と言うのが妄想の特徴だろうか。今まで、僕の期待を裏切り続けてくれた妄想は、退屈しないように騒ぎ立ててくれただけでなく、ずっと一緒に居てくれる家族のような、ホームのような存在であったのだ。こう思うと妄想が愛おしく思えてくる。期待を裏切り続けたと言うことは、裏切られることに慣れて退屈していても不思議ではないはなく、考えようによっては、驚かされることではなく単純に長く一緒に居たいと思っているだけ、強い愛着があるだけ、と言えるかもしれない。
後付のこじつけの作り話的理解に過ぎないかもしれないけれども、今になってとってつけた事ではあるけれども、人の認識とはこうやって作られていくものなのでもあるし、悪質ではないと思う。そうやって認識を深めたり個性を作っていくことは、注意は必要だが、健康的に感じられる。そして、嘘でも作り物でも愛してやれるほどの気持ちが僕の中にはあり、また、半分くらいは間違ってないんじゃないかと根拠も無く思ってみたりしている。
ありがとう。
「何だよ、気持ち悪い」
そんな気持ちになっていたら、どうやらアンジェラをデレデレした顔で見つめてしまっていたようだ。これは意外と恥ずかしい。
「な、何でも無いよ」
「ふ〜ん」
そういって、迫ってくるアンジェラがやたらとエロい。これが安心感と呼べるのか? これに慣れるのはさすがに無理です。
「アンジェラってさ」
ちょっと思ったんだ。
「な〜に?」
これぞ誘う女。
「可愛いな」
一気に顔が真っ赤になり、口元に力が入る。ぶるっと体を震わし、ずるい、と言わんばかりの目線を一瞬見せるがすぐに視線をそらす。そっぽを向いた次の瞬間、せーの、
「とりゃっ!!」
と、殴られた。
「いってー」
僕はかなり痛い子のようです。
「さすがにそれは無いと思う」
ごめんなさい、サキ。
アンジェラはsecurity baseであるサキに非難している。背中越しに、なに言ってんだよ手前この野郎、と言う目線を送ってくるが、口は開きたくない様子である。
「ごめん、魔が差した」
出来心だったんです。
床に寝転び天井を見上げる。
僕はかなり痛い子になってしまったが、ここにサキやアンジェラといられることが幸せだった。
サキの後ろに隠れるアンジェラが再びやってきます。
可愛い奴です。
「デート失敗しろ! そして、ふられろ!!」
・・・・・・。
「えっ?」
何のことでしょう。
「エリさんとのデート」
説明ありがとう、サキ。
「って、えっ、はっ、どういうこと?」
しょうゆーこと。
「嬉しそうにメールしてたくせに」
アンジェラはプンプンしています。
机の上の携帯を手に取り、メールの受信ボックスを開く。確かに、エリさんからメールが来ている。結構な回数のやり取りをしていたようだ。凄いな、どうやったんだ! いつの間に! いやいや、僕がしたことではないか。そうそう、コンパでアドレス交換したからね。それから、なんだかんだでやり取りがあって、一緒に遊びにいく約束ができたわけだ。そういえば、そんな気がしてきた。そう、そうなんだよ、そうに違いない。エリさんとはこれからが重要だ。初デートだよ初デート。向うはデートとは思ってないかもしれないけど、僕にとっては立派なデートだね、むしろデートじゃないかな、デートと言わずしてなんと呼ぼうかってなくらいデートだね。
おっしゃー、初デートきたー!!
良く分からないのではあるが。
来たよ、来たよ、初デート来たよー!!
で、いつでしたっけ。日時の確認は大事だね。こういうところはキッチリしておかないと。最後の方のメールでたぶん確認しているから、それを読めばいい。何々、『じゃあ、金曜日で、よろしくねー』だそうだ。
「サキ、今日って何曜だっけ」
「木曜日」
何ですと!?
明日!?
聞いてないよ!!
全くもって、聞いていませんよ!!
やべぇ。
急に緊張してきた・・・・・・。