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「ええ、本日はお忙しい中お集まり頂いてありがとうございます・・・・・・」

 乾杯の音頭をなぜ僕が取っているかというと、面倒な諸々のことをやっていたら自然と幹事的なポジションになってしまったからであります。

「固っ」

 すいません。

「そういわれても、こういうこと僕はじめてなもので、宴会や飲み会の挨拶だとこういうフォーマルなのしか知らないんですよ」

 何、真面目に説明してるんだよ、僕は!!

「くすくすっ」

 あー、また、エリさん(仮名)に笑われた!! まあ、表情は明るく、駄目な男の子を可愛らしく思う女の子みたいな笑いだから大丈夫!! ・・・・・・だよね!?

「あー、じゃあ、それでいいんじゃない」

 ナイスパス、名前も知らないお姉さん。ここは間髪入れずに、

「かんぱ〜い!!」

 よし、何とかまとまった。


 素敵な一時を演出するこじゃれた雰囲気のインテリア、勝負の一時を静かに見守る落ち着いた暖色系の間接照明、ちょっぴり贅沢な一時を彩る華やかで上品な料理。こういうセッティングというか、場を作ることについては、久保に頼んで良かったと思う。まあ、会計処理や予約、人数確認と日程調整なんかは危なっかしいので僕がしたのであるが、それでも、久保がいてくれて非常に助かった。集まった人は全員久保の知り合いで、合コンというよりは久保の知り合いが集まったちょっとした飲み会みたいなことになっている。まあ、友達の友達は友達的な感じでちょっと飲みに行きましょうってくらいだ。集まった子達も良い人で、こういう場に不慣れな僕でも比較的自然に話ができた・・・・・・・。


 のは最初のうちだけでした。


 最初の飲み物が揃うと、そこから生まれる炭酸の泡が激しい勢いであふれだし個室を泡風呂にしてしまう。泡は次第に顔を形作り『うまいこと演出してやったぜ頑張れよ』的な表情をしている。妄想のくせに余計なことをするなと言いたいところであるが、緊張していたのと以前にアンジェラを傷つけてしまったことを思い出してしまい、無下に消し去ることはできない。今こそ妄想を割り切って排除しても良い状況だというのにどうしてこのタイミングでコントロールできなくなってしまうのか。今の場合、妄想と現実の区別がつきやすいので悪質ではないが、それでもやはり大きな問題である。


 現実に他者がいる。

 特に、エリさん(仮名)がいる。

 しかも、初対面。


 つまり、現実と妄想をしっかり区別した上で、それが原因で現実にいる他の人に迷惑をかけないようにしなければならない。単純には妄想を無視して現実に起こっていることに対してだけリアクションをとれば良いことになる。久保と二人の時と違って今回はエリさん(仮名)がいる大事な場面、失敗は許されない。少なくとも僕が妄想家であることを理解してもらえるまではそう立ち振舞うべきだろう。


 理解してもらえる日なんて来るのかな。


 ああ、どうでも良いぞ、そう、どうでも良い。そんなことは、どうでも良い。あるかどうかも分からない未来を先取りして心配をしている場合ではない。今取り立てて大事なことだけを考えるべきだ。普通に振舞えるだけでは意味がない、エリさん(仮名)と仲良くならなければ意味がない。楽しい時間を過ごしつつもエリさん(仮名)のことをもっと良く知りたい。相手を騙すようなことをする気はないのだが、それなりに好印象を持ってもらえると言うか、少なくとも僕に何かしら魅力があるとしたら、その分だけでも過不足なく伝わって欲しい。とりあえず、最低限、人としてのお付き合いができる程度には仲良くなって、これからの為になる出会いにしたい。

 気持ちの高ぶりと共に光が僕に集中し、暗闇の中輝く唯一の存在。己の決意と共に空間が揺れ動き、無数の泡が空間一杯に舞い上がる。強い光は泡の中を駆け回り、七色に分散しながら華やかに盛り上がる。イケイケなムードの中くるくる回って踊りだすグラスは、調子にのりながら歌いだす。


 おい、何一人で盛り上がっているんだ。

 自分の中だけでハッスルしている場合ではない。

 みんなで楽しい時間を過ごすべき時にあまりに自分の中に引きこもりすぎだ。


 気が付くと、久保に促されて自己紹介が始まっていた。大人っぽいけど僕より年下の浜野朱美さん、声が大きめでノリの良い大野喜美恵さん、そして、ビックリどっきりチョーウルトラ大本命エリさん(まだ仮名)です! これで仮名生活もおしまいだと思うと感無量です。涙がチョチョ切れます。

 みんなが涙しています。泡が泣き顔を形作ります。光が最後の時を演出します。グラスが何か小さく光るものを目に浮かべています。中には体が震えて飲み物の液面を大きく波立たせている者もいます。テーブルが大きく口を開けてわんわん泣き出し、その上の料理たちがパニックになっています。でも、その料理たちも目元をウルウルさせながら笑っています。おしゃれなインテリアが拍手で見送ってくれます。椅子の背もたれが背中越しに顔をのぞかせニヤニヤしています。隅っこに立てかけられているメニューが腕を組んで云々と頷いています。みんなみんな、ここまで来れたことを祝福し、喜んでくれています。

「さはし・・・・・・」

 ついに、この時がやってきました。エリさん(まだ仮名)の本名が明かされる時がやってきました!! 騒がしかった会場が静まり返り、聞き逃さないように聞き耳を立てて注目しています。


 さあ、ついに、この時が!!


「エリ・・・・・・」

 なんと、まさか、そんな!! 声は立てないもののこの衝撃に会場がざわつく。腕組をしてクールな表情だったメニューも驚きを隠せません。テーブルが余りの驚きに固まってしまいました。泡が緊張してカチコチになっています。余りの衝撃に全てのものが言葉を失い、動きを失い、心を失い、立ち尽くしています。

 これこそ奇跡、これこそ運命、これこそ感動。これこそ・・・・・・。

「コ」

 こ!? 


 あ〜。


 会場全体がため息に包まれます。ここまで来てニアピンかよってな感じの雰囲気になってしまいました。が、ニアピンでも凄いことで、運命的です。一瞬間をおいて、みんなが暖かい拍手で迎えてくれます。


 ありがとう、さはしえりこさん、素敵なお名前です!!


 終わらない温かい拍手、キラキラした涙、優しさのこもった歓声。惜しい結果ではありましたが、これも皆さんのお陰です。ありがとう、今日と言う日を一緒に祝ってくれた皆さん。ありがとう、久保暁。ありがとう、僕。ありがとう、エリさん。ありがとう。

 そんな余韻に浸っていたところですが、ここで更なるサプライズが!!

「エリって呼んで下さい」


 キターーーー!!


 穏やかな感動が一転して激しくマキシマムな感激へと姿を変え、轟く熱狂は狂気と化して乱舞する

 何と、会う前から僕は貴方のことを・・・・・・感動です。

 ああ、無駄に盛り上がっていることこの上ない。しかし、憧れの人の名前をやっと知ることができたのだから、しかも、その名前がとても素晴らしいものだったから、セレモニー的ドンちゃん騒ぎはしないにしても、男の子なら誰でも嬉しいものだろう。あくまで頭の中での話であるが、名前を呼びあったりすることを想像したり、頭の中で勝手にニックネームで親しげに声をかけて見たり、こう、二人きりの良い雰囲気の中で下の名前で呼び捨てに・・・・・・なんてことを思い描くのは青少年にはデフォルトで備わっているはずだ。その青少年にぎりぎり間に合う、あるいは、その延長線上にいる、あるいは、心の青少年真っ只中である僕は当然そういう事を・・・・・・。


 するのは終わってからにしましょうね。


 嬉しいのは分かる。だが、まだ、始まったばかりだ。とりあえず、落ち着こう。泡が親しげに纏わりついて、肩をもみながらリラックスさせてくれると、GOOD LUCK!! と言わんばかりに親指を立てて応援してくれる。そう、今からが大事だ。女性陣の自己紹介が終わったところで、次は男性の皆さんです。久保暁は・・・・・・まあ、いいや、今更特に言うこともない。まあ、ロミオでプリンスでルーズでグータラなとっても良い人だと思いますよ、はい。そして、その久保の友人の紀和久さん。体を鍛えているようで肩幅が広く男らしい好青年です。


 そして、ついに、僕の番です!!


 とりあえず名前であろう。問題は次の一言だ。久保と同じ研究室にいるんですよ、くらいの紹介で良いだろうか。いや、それでは、プレイボーイと体育会系のキャラクターに負けてしまう。ここは、自分の一番得意とする妄想話!! は、いきなりはキツイからやめておこう。椅子が後ろから僕の肩をポンポンとした後にニヤニヤしながら見つめてくる。ちょっぴりズレてる残念な人と言う微妙な第一印象を払拭し、ポイントを取り返すチャンスなのだ。頼むから、弄ばないで欲しい。箸がうっしっし〜と笑っています。どうせ僕は不器用だよ。その横で、箸置きが箸の態度を注意しつつ、頑張れ私は応援してるよ、と優しい眼差しを浴びせてきます。意外とそっちの方がプレッシャーです。

「何か言えよ」

 久保に突っ込まれた。ボケとツッコミが逆転した時の僕はとことん駄目な奴なんだと思う。

「あ、久保と同じ大学、同じ研究室です。まあ、普段はこいつの世話しています」

 何だそれ。がっかりだよ。箸はつまんねえのと言わんばかりに目線をそらし、椅子はまあ、そう、ガッカリするなよと肩をもみ、箸置きはそんなことないよ、良かったよと励ましてくれる。何て痛々しいのでしょう。みんなリアクションの大きさの差はあるがガッカリな表情をしている。メニューだけがポーカーフェイスだった。

 まあ、でも、そこまで印象が悪いわけでもないのでこれから沢山お話しして仲を深めて行きましょう。一応男性陣には僕がエリさん(もう仮名じゃありません!!)目当てであることは伝えてあるので、めでたく真正面の席に座ることが出来たのである。頑張れ僕。

「パソコンとかいじくってるんですよね」

 一応敬語は使っているがラフで親しみやすい感じが何とも魅力的です。それに、向こうの方から興味を持ってくれるのは嬉しいことだ。とても嬉しいことだ。理系の専門的な話は家族や友人であっても、何やら自分とは別の次元に済んでいる人のような扱いをされてしまう。これは理系男子としてはギュッと心をつかまれる瞬間であります。とにかくカラッと爽やかでキュートで素敵です。

 おい、こら、みんな揃ってニヤニヤするな!! 特に椅子と箸はイラッとする。いい加減にして欲しい。そんな中で箸置きはいつでも一生懸命応援してくれて、メニューは表情を変えずに見守ってくれています。ちょっとだけありがとう。テーブルはとにかくリアクションが大きく波風を立て、本人はニヤニヤしているつもりなのだろうが、モンスターか化物がギロッと目を見開き、大きく口を引き裂き、不気味に微笑んでいる様だった。

「暁君から話聞いたことあるけど、アタシには分かんないや〜。難しいことやってるんですね」

 そうですよね、分かんないですよね。僕にも分かりませんよ。否、分かることしかできないってだけだから、分からなくも難しくもないんだけれど、そもそもこんな事を大真面目にやっていることが、分からないと言う感じでしょうか。みんなもそう思って・・・・・・と、自分の中に引きこもっている場合ではない、僕も話さないと。

「そんな難しいことなんてやってませんよ。エリさんは何をやっていらっしゃるんですか」

 初めて名前を呼ぶことができました!

「はは、アタシの方が年下なんだから敬語使わなくていいですよ。アタシは体大でスポーツコーチング専攻してます」

「それは興味深い。何か競技をやっているのか?」

 紀和君が食いついた。何と言うか、そんな遠距離からビックリするくらい素早い反応。僕だって興味あったんですよ。もう、ありありですよ。テーブルの端から端まで一気に越えて来ちゃいますか。まあ、スポーツと聴いてすぐさま反応してしまうくらい好きなんでしょうが、そっちはそっちで話しててくれませんかね。


 クソッたれが!!


 はっ、駄目だ。紀和君は普通に反応しただけではないか。何と心の狭いことか。どちらかと言うとこういう感情とは縁のない人間だとは思っていたが、どうやら少なくとも恋愛の勝負どころでアップアップしている時には黒いことも考えるらしい。まあ、生き物として当然の反応とも言えるので、悪いことではないし、むしろ健康な方ではあると思うが、それでも、できればお引取りいただきたい気持ちである。別に必ずしも押し殺さねばならない悪質なものとみなす必要はないのであるが、僕はそう言う心の持ちようを好んでいるのだ。

 黒くてふわふわ小さく可愛らしいマスコット的なもの、多分黒い感情の化身か妖精、もしくは、その具現化的なもの、がどこからともなく現れて、悲しそうな目で僕を見つめてくる。そんな目で僕を見ないで欲しい。いや、そう言う目線を送る自由は黒ちゃん(即席命名)にあると思うのだが、それをやめてくださいと言う権利くらいは僕にあると信じてのお願いだ。リアクションが取れないから、すまないが君の価値観には同意できない的な哀しくも決意に満ちた目線を懸命に送って見た。どうやら、上手く伝わっていないらしく首をかしげている。世の中色々な考え方があって当然であるが、全てを肯定してしまうと、その色々から多くの貴重な考え方が外れてしまう。だから、敵を作ることも否定する事も悪い事ではないはずだ。僕は余り得意ではないが、適切に、正しく、フェアに、敵を作ったり否定したりするべきなんだと思う。お前は素敵で、見方によっては正しい主張をしているが、僕は別の視点を好んだのだ。


 だから僕の敵になって下さいね。


 と、言うことはアイコンタクトでは伝わらず、ちょっとイライラしてしまったが、必死になっている自分がバカらしくなり、また、余りに黒ちゃんが可愛らしかったので、苛立ちはすぐに治まった。

「アルティメットです。知ってますかね、ちょっとマイナーなんですけど」

 えっと、フリスビー使うラグビーみたいな奴だったかな。

「フライングディスクを使うアメフトのような競技のことか? ワールドゲームズの公式種目でもあるし、マイナーでもないとは認識しているが」

 フリスビーは商標だったな。それにしても紀和よ、切り替えしが早すぎだよ。僕にも喋らせて下さい。

「ああ、それそれ。知ってるんだ、結構嬉しい」

 もしかすると語尾にハートマークが付いていたかも知れない『結構嬉しい』。本来は僕に向けられるべきだったのに何てことだ。何てことをするんだ紀和久。

 いつの間にか黒ちゃんが分裂を繰り返し指数関数的に増大、大量の暗黒毛むくじゃらであふれかえった。ああ、あまり相手にしたくはなかったのだがどうやら無視することはできないようだ。黒いそれはとってもキュートで愛らしいが、一杯いるとそれなりに不気味である。ああ、そうだ、敵になると言った時点でそれとの関わりはより強固なものになったと言うことだ。敵対することを意識した時点で、相手の主張とその逆の主張を比較し、意識的に後者を選択せねばならない。敵でも何でもなかったときに比べてより相手と関わり、意識的に否定せねばならない。だからこそ、仲良くなるとは言わないが、良い喧嘩仲間と言うか好敵手的な関係を気付いていかなければなりますまい。


 敵意を示してくれて、相対してくれて、ありがとう。

 僕は君と全力で戦います。


 よろしくお願いします!!


 無数の漆黒の刃が僕に襲いかかる。体中を切り刻み、肉を切り裂き骨を断つ。つぶれた血管から血が舞い上がり、神経は糸くずのようにぐちゃぐちゃに、僕の意識はそれらの少し上のあたりでのほほんとしている。真空のミキサーで細かく砕かれた僕は鈍い黒色でひどく臭いメレンゲのようなものになってしまった。


 やるね、黒ちゃん。

 だが、しかし、それでも、僕は!!

 いくよ、みんな!!


 照明の光が黒いそれの膨張を押さえ込み、炭酸ガスの泡がドロドロの中から僕の成分を分離する。再び僕を取り込もうとするブラックな化学反応をテーブルが体を震わし鈍らせる。グラスが皿が料理がメニューが、若干鬱陶しかった箸や箸置きや椅子までもが、摩り下ろし状態の僕を掻き集めて再構築しようとしてくれる。何となくホモ・サピエンス・サピエンスのような形を取り戻すと、僕は全身に力を入れて必死に姿と機能を取り戻そうともがき、抗う。

 しかし、黒の侵食もこちらが抵抗するほど勢いを増して、まるで、闘いを楽しむように生き生きとしている。これが、心地よい、適切な、相応しい対立関係なのだろうか。しかし、その仕合の健全性とは裏腹に徐々に劣勢になるに連れて僕は病に犯されていく。ここまでみんなに協力してもらったと言うのに、何と情けない。

 

 手を抜いているわけではない。

 ただ、何かが足りない。


 いつも何かがあったんだ。

 いつも誰かがいてくれたんだ。

 

 ああ、そうか・・・・・・。


 サキ。

 アンジェラ。


 僕はいつも二人に。


 辛いときいつも一緒にいてくれて、助けてくれて、怒ってくれて、邪魔してくれて、弄ってくれて、驚かしてくれて、励ましてくれて。それだけじゃない、楽しいときも嬉しいときも、いろんな時間を共有してきたんじゃないか。

 

 なら、何故、今は?

 ここに居てくれない?

 助けてくれない?

 構ってくれない?

 

 くだらない質問だ。


 好きな女の子を口説くのにどうして二人のの手を借りることができようか。


 僕はサキとアンジェラから独り立ちしなければならない。

 僕はサキとアンジェラを都合の良い道具にしてはならない。

 

 大体、そんなことしてる僕なんてめちゃくちゃ格好悪い!!


 さあ、耳を澄ませ、愛しい人の声が聞こえる。

 それ、胸を晴れ、恋しい人がお前を見ている。

 いけ、目を見開け、大好きな人が目の前に居る。

 そりゃ、手をのばせ、お触りはさすがにまだ早い。

 どりゃ、声を張れ、そして気持ちを伝えたい。


 何やら人の形をした醜い混沌は急速に秩序を回復し、構造を作り、人となす。


 はは、とんだ茶番だ。

 でも、一度は経験しておくべき茶番だったのかもしれない。

 

 行ってくるよ、サキ、アンジェラ。

 

 何やら、アルティメットの話で盛り上がる紀和君とエリさん。相変わらずオーディエンスは沢山居るが、みんな静かに黙って見ている。黒ちゃんも大人しくなっていた。ごめんね黒ちゃん、次はちゃんと勝負しよう。まあ、とりあえず、話に入っていこう。

「しかし、あれで良くパスつなげるよな。フリスビーで遊んだことくらいはあるけど、あんなの絶対取れねえよ」

 久保が二人の会話に参戦です。これに続いて切り込むべし。

「ああ、確かに。僕も無理だ。凄い」

 ああ、詰まらないコメント。少しだけ誉めてみました。

「そんなことないよ〜。最初はアレだけど、チョット練習すればできるようになるから」

 『そんなことないよ〜』の表情が抜群に可愛い。

「否、俺も少しだけ遊んだことがあるが上手く行かなかった。まあ、俺は球技苦手だからな。ディスクはボールとは扱いが違うが、上手く行かないのは同じだった」

 マッチョ紀和君でも苦手らしい。

「へぇ、お前も苦手なものあるんだな」

 と、言うことは、

「やっぱり凄いじゃん」

 じゃん!? 僕ってそんな言葉遣いしてたっけ。まあ、とりあえず、エリさんは凄いんだよ。凄いよ、エリさん、凄いよ!

「そう!? やっぱり!? 凄い凄い!?」

 テンション高めで、嫌味な感じの全くない、少しおちゃらけた感じの、一周まわって堂々自慢して見ました的アピールは、破壊力絶大。恋のキューピットっぽい奴がが持っていそうラブリーな矢がズッキューンと胸に突き刺さり、効果は抜群だ。特に『凄い凄い!?』が凄く良い。

「紀和さんは何をしてはるんですか?」

 浜野さんが紀和君に興味を持ったようです。

「俺は競泳をやっている」

「種目は? 肩幅凄いし、バタフライとかですか?」

「ブレストストロークだ。肩まわりの筋肉はバタフライでなくても必要だ」

「ふ〜ん」

 どうやら、向こうの方は二人で盛り上がって居るようだ。そのまま二人で話して手欲しい。頑張れ浜野さん!!

「私も一寸は運動せなあかんわー。ほら見てみ、二の腕ぷるっぷるやで」

 大野さんはプルプルをみんなに見せてくれます。恐らくいつもより多めにプルプルしております。

「いや、普通だろ。女の子なんてそんなもんやって。こいつら筋肉バカが異常なだけだろ」

 それはエリさんのことを言っているのか! いくら久保でも許さんぞ!

「それってアタシも入ってるの?」

 そこんところ聞かせてもらおうか。

「他に誰が居るんだよ」

 紀和君とか。

「ひどい」

 そうだひどいぞ! とは思ったけれども・・・・・・。

「まあ、確かに、バカかどうかは別として、凄い筋肉ですね」

 面白そうなのでちょっとだけ乗っかってみよう。

「も〜、二人してアタシをいじめて」

 そんな虐める気なんてないですよ。ただ、弄られているエリさんが超常的にチャーミングだっただけです。

「いやいや、良いと思いますよ。僕鍛えている女の人好きですから」

 好きとか言ってしまいました。好きとか言ってしまいました。好きとか言ってしまいました。

「はっはー、やった」

 と、言いながら力瘤を見せるエリさん。


 やったね!!


 まあ、これが本日最高のファインプレイだったと思う。その後も、まあ、それなりに、楽しくお話ができたし、地味に食事も美味しかった。エリさんとは、長々と話した割に、大学での講義やアルティメットの話くらいしかできなかった。が、逆に、それだけの話で盛り上がれたということは、いい時間が過ごせたんだと思う。とりあえず筋肉ネタでのエリさんの弄り方は習得したつもりだ。それに、スポーツ、特に、アルティメットが好きなことや、大学で競技スポーツについて勉強していること、ノリが良くポジティブで優れたバランス感覚を持った魅力がてんこ盛りであることなどが分かったとは大きな収穫だ。最後に連絡先を交換することが出来たし、これからこんな時間を重ねていけたらと願うばかりだ。


 多分、良くあるの普通の飲み会だったのだろうが、僕にとっては特別なものだった。そんなものだから、家についても、エリさんのことが頭から離れずに興奮が治まらなかったり、妄想祭りが再び開催されたり、黒ちゃんと第二ラウンドを正々堂々と繰り広げたり、まあ、とりあえず、眠れない夜になると思っていた。連絡先を聞けたのでメールの一つでも送っておいた方が良かったと思う。それに・・・・・・。


 サキ。

 アンジェラ。


 二人には話しておきたいことが沢山あった。あったはずなんだが・・・・・・。


 良くは覚えていない。

 ただ、僕の意識はいつの間にやらサッパリ失われていた。

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