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 充実感。達成感。やりきった感。そんな言葉で表せそうな、何だか今にも全力で走り出して大声で叫びたいけれども体に力が入らずほわっとしているような、恥ずかしくて優しい熱っぽさと共に目を覚ます。はっとするような目覚めであったような気がするのに、何故だかほわっとしている。瞬間的かつ衝撃的な刹那にdelayが掛かって仮初の緩やかなひとときを演出しているようだった。

 これがゴールと言うわけではないが、一先ずとりあえず僕は満たされていた。正直なところ、想定していたよりも遥かに事は上手く運んでいる。楽観は出来ないが、それなりに良い雰囲気で、着飾りすぎることなく、程よく緊張し、アタフタし、はっちゃけつつ、楽しい時間をすごせた事は大きな前進だ。気持ちを確かめ合ったりしてはいないので、安心は出来ない。仮に付き合えたとしてもある程度緊張感を持っていたほうが上手く行くとか行かないとか言われるくらいだから、気を抜いて良い訳ではない。ただ、全身全霊、余すとこなく、細胞一つ一つまで・・・・・・かどうかは分からないけれども、後半の記憶が綺麗サッパリなくなるほどに、集中して、緊張して、気を使って、それから、とにかく、とりあえず、男としてありとあらゆるものを出し尽くした夜の次の日の朝くらいは一時的にほっとしていても良いのではないだろうか。

 

 ほっほっほー。


 ほっとするには少々浮かれすぎの嫌いがあるが、一応は穏やかで優しい安心感をそこそこに感じていた。興奮と脱力の間でどっちつかずの僕の体はキュンとなって動かないため、心身共に辛うじて安らかな静寂を保っている。

 静寂は良い。いちいちゴチャゴチャあらあら面倒くさい僕の頭は無駄遣いが非常に多いため、偶には真っ白に洗われるべきなんだと思う。こう、横になり、目を瞑って、何も考えずに、力を抜いて、心を落ち着かせて、ふわふわな感じで、天にも昇ってしまいそうな心持で、ゆっくりと呼吸する。我ながら何とも気持ちのよさそうな鼻息で、忙しなく生き急ぐ現代人が健全なバランスとリズムを取り戻すように、のんびりしたテンポで時間を贅沢に使っている。

 このまま眠ってしまいそうな心地良い脱力感ではあるが、寝起きだからであろうか、睡眠欲は完全にお休み中であるようだ。徐々に何もしないでじっとしていることが我慢出来なくなってきて、体のあちこちが持て余しつつあるエネルギーをぶつける対象を探し始める。もじもじバタバタくるりんパッっと悶えだす。ゴソゴソすることが何かこっそり悪巧みをしているような気がして、勿論ただのイメージではあるが、珍妙な興奮を引き起こす。

 例えば、これも当然イメージではあるが、眠っているエリさんにこっそり悪戯をする感じだ。最初は無視されるのではあるが、諦めずに続けるうちに、何事も諦めないことがそこそこに大事だね、彼女は『やめて!』と他の誰かには見せられないような酷い寝起きの顔で、しかし、僕の目には超絶キュートに映えるスウィートなお顔で、可愛らしく乱暴に拒否反応を示す。しかし、非情にも彼女の言葉とは裏腹に僕の悪ふざけはエスカレートして行く。ツンツンからコチョコチョへとパワーアップだ! 効果は絶大であるようで、彼女は妙に艶かしい声で『ちょっと、もう』、と言う顔が異様に、取分け女の子的かつ性的な意味で、魅力的だぜべいべー。こんな可愛らしいったりゃありゃしないトキメキチャンスに恵まれるような事があれば、男としては、そりゃもう、


 抱きしめるしかないね!!


 とか言う事を妄想している自分が愛くるしいほど残念だね。中学生のカップルじゃあるまいし、もう少し大人の恋愛は想像できないものだろうか。でも、『中学生かお前ら!』って言われるようなカップルになってみたい願望はちょっぴりある。実際に中学生がそんな事をしているかは自明では無いので、あくまでイメージ、特に当時中学生の僕のイメージ、ではあるが、この子供っぽいと言うか『はいはい、良かったね』とあしらわれてしまいそうな微笑ましいバカップルに対する憧れが未だにある。決して、これまたあくまでイメージではあるが、自転車の二人乗りがしたかったり、女子高生コスプレをして欲しかったり、進展が異常に遅かったり、とても言えない秘密の場所でセックスがしたかったりする訳ではない。あくまで僕の中で理想化されたイメージとしての、甘酸っぱくて、こっ恥ずかしくて、些細な事でいちいちドキドキする、空想上の中学生カップルを目指したいと言うわけだ。


 来たぜ、青春真っ只中!!


 でも、まあ、どういうカップルでありたいかは二人で決めていくものであろうから、それが僕の理想と一致する必要は無い。自分の希望や願望を隠したり押し付けたりすることも無く、いつでもスポーツマンシップに則ったフェアプレー精神を貫きたいものだ。あくまで高々僕の期待する理想と言うだけであり、そして、期待と言うものは裏切られたかったりするもの、僕はそう言う考え方を好んでいた。だから、この若干子供っぽい願望をエリさんに押し付けつもりはさらさら無い。それに、僕の恥ずかしい性癖が馬鹿にされるようなことになっても、それはそれで楽しいから問題ない。出来れば面白く弄られたいとは思っているけれども。

 おっと、しかし、今の僕とエリさんの関係ではどちらかと言うとエリさんが弄られるポジションになっている。個性的で魅力たっぷりのエリさんなら弄られる対象としては優秀であるが、弄る技術はあるのだろうか。弄るポイントが上手くはまれば面白可笑しく転がしてくれるかもしれないが、モノによっては極自然に普通に平然と対処されそうな気もする。それはそれで、エリさんの魅力ではあるけれども。それに、正直なところ世の中の笑の大半は、適当な解釈を行えば、真剣に考慮することが可能であると僕は考えている。笑を取りに言っていることが分かりやすいことも、弄られる側にとっては重要なのかもしれない。

 

 何と素敵な弄り弄られカップルライフ。


 そうだ、カップルだ。僕とエリさんはカップルになっていない。しかし、少なくとも僕はカップルになりたい。忘れていた訳では無いが、ずっと先の事、あるいは、訪れない空想上の御伽噺のように思っていたと言うのはチョット有る。しかし、コンパをして、二人でカラオケに行って、しかも、それなりに良い雰囲気で楽しく過ごせたとあっては、真剣に考慮しても良いのではないのか。すなわち、愛の告白をすることを本気で考えねばなりますまい。考えたからと言ってその通りに事が運ぶとは思っていないが、思いを巡らすと言う行為自体は、少なくとも僕の心には、必要であると感じている。物思いに耽る一時は、内容が些細な事であったとしてもその行為そのもは、なるべく省略したくないものだ。エリさんを思い、告白シーンを妄想したりすることそのものが、情感やら欲情やら男気やら恋心やらエリさん愛みたいなものを育んでくれそうな気がするからだ。

 どんな告白が良いだろうか。あくまで僕の希望ではあるが、あまり凝ったシュチュエーションと言うか、バッチリ用意したような状況ではしたくない。高級レストランを予約したり、告白スポットで何かの記念日の時間キッカリとか、いかにも準備してきましたなタイプのものは、取分け僕がやった場合、十中八九スベると思われるし、好みではない。もっと自然に、さり気なく、それでいてハートを鷲摑みするようなのが理想だ。こう、素直にそのまんまな感じが良いね。思いの丈をそのまんま。


 全力全開で大好きだーー!!!


 なんか恥ずかしいね。チョット違う気もするね。今時絶叫告白ってのは大丈夫なのかね。でも、その、実を言うと、結構こういうのが好きで、機会があれば有りかと思ったりしている自分がいたりもする。カラッと爽やかなエリさんならイケるかもしれない、と言うより、あの人なら何でも素直に受け取ってくれるかもしれない。

 いやいや、それとこれとは話が別だ。相手の良心的解釈に甘えて、気持ちを伝えたり表現することをサボりたくない。いや、でも、僕が身勝手にアレコレ考えたとしても、エリさんに伝わるものが同じであれば、相手に伝わるものを基準にものを見れば、同じものと言える。まてまて、そもそも告白方法を考えているのは、エリさんを思う僕の心のためにやっている行為であって、それをそのまま実行しようとしたり、募った思いを暴力的にエリさんに押し付けるためのものではない。このあたりの節度と言うかバランスと言うかは妄想家が比較的良く理解していることであるはずだ、一度落ち着こう。

 そうだ、そもそも告白出来る環境を自分で選べることに違和感が有るのかもしれない。勿論、チャンスが向こうからやってくるとは限らないので準備しておくべきではあるけれども、予定通りにことが運ばなかったり、急にチャンスが訪れたりすることもあるのではなかろうか。例え、予期していないタイミングであっても、お約束のようにチャンスを逃すことが僕には似合っているのだろうけれども、勇気を出せる自分でありたいのだ。

 例えば、二人で歩いていると、何故だかカップルだらけの所に迷い込んだりする奴だ。『だいすっき』とか歌っている奴は当然いない。ラブでエロティックでアダルトな雰囲気で、二人は顔を赤らめ走り抜ける。そして、これまた偶然たどり着いたのは、やはりムーディーで告白してくださいと言わんばかりのおしゃれスポット。変に気分の高まった所で、当たり障りの無い話をしようとする彼女を、男らしく思い切って・・・・・・。


 やっぱりこれじゃ中学生だな。


 子供っぽいのも悪くは無いが、何と言うか、もっとお洒落に告白してみたい。もう少し、意表をつくタイミングで、何故だか思わず零れ落ちちゃいました的に、しかしながら妙にドンピシャで説得的な奴が良いね。僕には似合いそうに無いけれども、妄想の中でくらいカッコつけてみたいね。

 例えば、ほろ酔い気分の帰り道で二人きりとかが良いね。楽しい時間をすごして、いい気分になって、キャッキャ言ってて、ラブなオーラなど一切感じられない状況。テンションが上がった彼女はスッテプを踏みながらテンポ良く進んでいく。僕はその超絶キュートお姿を後ろから見ているわけだ。彼女は振り返って軽く微笑んだ後に再び機嫌よく歩き出す・・・・・・丁度これくらいのタイミング。その時急激に僕の酔いが冷めると同時に、驚くほど冷静に『今しかない!』と思い至ってしまうわけだ。


 あ、そうだ。

 何?

 好き。


 彼女は振り返ってすらいない。いつかは言われるかもしれないと何となく理解していたのかもしれないが、それが今だとは思いもよらなかったことであろう。冗談なのか本気なのか微妙な差ではあるが、その妙に落ち着いた語調が本気の本気である事を物語っているはずだ。ただ、彼女のリアクションに依存するくらいの不安定さはあって、茶化されてしまえば冗談になってしまう程度のものだ。誤魔化されそうになった時にもう一押しできるかどうかは、正直なところ分からない。沈黙の中『なーんてね』と言ってしまいたい衝動が押し寄せる。

 

 さあ、どうする?

 さあ、どうなる?


 ・・・・・・さあ、どうだか。

 

 薄々は感じてたのだけれども、似合っていないと言うか、格好良くないと言うか、少なくともお洒落では無い。悲しい事に、僕がやると色々な準備やら工夫やらが全て小細工に見えてしまう。自分の残念さ加減にそこそこの苛立ちを感じはじめ、自己嫌悪とまでは行かないまでもストレッサーが縦横無尽に掛け回り、何だかとってもベロベロバーだ。


 それでも、僕は告白したい!!

 

 こういった刺激やら緊張やらに対抗するべく、次に取るべき行動はただ一つ・・・・・・かどうかは分からないが、代表的なものの一つが開き直りだ。こうなりゃどうにでもなれってな勢いで、シュチュエーションなんて糞くらえなテンションで、格好悪くなる覚悟を決めて、行くぞ、せいやっ!!


 全力全開で大好きだーー!!!


 あらあら、うっかりチャッカリきっかり絶叫告白に戻ってきてしまった。まあ、僕の経験値では想像できるものなんてこの程度なのであろう。そんな事は、まあまあ認めたくないことではあるけれども、分かっていたことだ。それでも、何が良かったと聞かれれば答えづらいものではあるが、思いを巡らしておいて良かったのだろう。恋する男の子の儀式のようなもので、サボらず省略せずにこなしておいた方が健康で健全なのではないかと思う。


 よし、次に会ったとき!!

 ・・・・・・は流石に急だと思うけれども、

 きちんとお付き合いをして、

 近いうちに、

 必ず、

 絶対、


 告白しよう。

 



 


 

 








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