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ある日

あ、どうもと申します

よろしくお願いいたします。


僕は小説はいったん読者の手に渡れば

それは読者のものであって作者のものではないと思っています。

必ずしも僕が意図したように読む必要はなく、

たとえそれが僕が意図しなかったことであっても

あなたにとってそれが真実ならばそれを否定する事はできません。

ただ、それでも、僕が何を思ってこの作品を書いたのか聞いてくれるありがたい方のために少しだけ。

作品そのものを純粋に読みたいと言う素晴らしい方は読み飛ばすか、作品を読み終わってから読んでくださいね。


まず、主人公の"僕"とあ、どうもとは全くの別人です。

多分これっぽっちも関係ありません。

僕は"僕"とは別人です。


"僕"は豊かな想像力で

おかしな妄想を加速させる特殊能力を持っています。

僕は彼の様にはなれないし、

なろうとも思いません。

でも、ちょっぴり魅力を感じる部分もあったので

主人公に大抜擢してしまいました。

そんな彼の彼なりの日常の過ごし方、

人との接し方、楽しみ方、悩み方

そんなところを描けたらなって思います。


まあ、あとは、

彼は変にものを考えるクセがあるので

多少表現がごちゃごちゃするかもしれません。

まあ、そのごちゃごちゃした部分を

優秀な声優さんに

興奮気味の少しあれた息遣いで

早口ぎみにすらすらと読んでもらうようなことを

想像してもらえれば良いかなって思います。

読みにくかったらごめんなさいね。

しかし、これもまた彼の個性を形作る要素であるので許してくださいな。


ではでは。。。

 なんだこの異常な疲労感は。苦しい。ただ椅子に座っている事がとてつもなく苦しい。視界がくもり、空間がゆがむ。呼吸をするたび胸の辺りがちくちくする。全身から力が抜け、感覚が麻痺している。まずいこのままでは。

 臨界点に達した僕の体はみるみる溶けていく。皮膚は燃え上がりたんぱく質の焦げる臭い匂いが僕の精神を犯していく。血管を伝う波が共鳴し、振幅を増した巨大な津波が僕のハートに押し寄せる。壊れた未来から押し寄せる不安と諦めと開き直りが神経を伝って僕をお花畑につれていってくれる。

 ああ・・・ちょっといいかも。見るも無残な僕の肢体は原形をとどめてはいなかったが、しかし全力で元気よくワルノリしている。そこそこに良く出来た現代科学でも解析できないような複雑な非線形現象を出し惜しむことなく次から次へと。自分が壊れていく様子が妙に気持ちよく、不思議で、興味深い。いつの間にか疲労感は無くなり、わが身が滅びゆくと同時に普段は意識しないが意外に耐えることができなくなっていた日常の苦痛から開放されていった。


 いかんいかん、ついついやってしまった。

 自分の体で遊んでいる場合ではない。


 徹夜の作業というのはこれだから困る。疲労と睡魔がピーク一歩手前くらいになると脳内麻薬が僕に優雅なティータイムを与えてくれる。それはとてもとてもありがたい事で、一杯一杯の僕の心を守ってくれる正義の味方なのだ。まあ、正義の味方とは心の味方であり現実世界で僕を守ってはくれないのであるが。


 しかたない、コーヒーでも買いに行くか。


 夜のお仕事を支えるのはいつの時代もカフェインである。追い詰められた僕を後押ししてくれる、頼りになる相棒である。実際のところどれくらい役に立っているのかは分からないが、コーヒーを飲んだという事実が仮想的な奇跡の力を引き出してくれるのだ。

 家の中では人にはあまり見られたくないちょっぴり恥ずかしい格好をしていたので、服を着替えると、財布一つをポケットに入れて玄関に向かった。


 扉を開けると、小さいころは立ちいる事の許されなかった夜の世界がまっている。

 寒い寒い冬の夜中に真っ暗な道を体をさすりながら小走りで駆け抜け、静まり返った夜の街、誰もいない沈黙の大通りで堂々と道路交通法を破る。白く曇った息が小さな電灯の明かりに吸い込まれる。人気のない暗闇の路地でぽつんと光を放つ自動販売機で本当はあまり好きではない甘ったるいいかにもな感じの缶コーヒー(あたたか〜い)を買う。そんな世界に憧れた頃があった。

 もっとも、今は夏である。体をさする必要は無く、息は全く曇らない。都会に住んでいたので街は夜も眠らず、信号を守らないと事故が起きる。自動販売機などを探すよりも最寄のコンビニの方が品揃えも多く便利だ。

 

 まあ、いい。

 それくらいは大目に見よう。

 僕はとてもとても心が広いのだ。


 扉を開けると生ぬるい風がラフな服をすり抜け体にしみこんでくる。若干気持ち悪い上にちょっといやらしい感じがする一方、心は妙に興奮してくる。暗く静かな世界の中で僕の足音だけが妙に響く。いつもより若干音が高く聞こえた。

 沈黙の世界で僕だけが奏でる音、モノトーンな世界の中でポツリと鮮やかな色彩をもつ存在、広い広い空間の中でおよそ大きさの無い点である僕にほとんどすべての質量が集中しているようだった。この極めて身勝手で、人畜無害で、平和な妄想の世界で僕はちょっと背伸びをしたくなる。大人に憧れる小さな男の子になっていた。


 ふっふっふぅ〜。


 世界に一人だけの存在は物語の主人公へと進化する。暗黒の世界は彼の精神世界に姿を変え、一歩一歩踏みしめる道のりが生きた証を与えてくれる。当時は嫌な思いをしたのだけれども今となってはそこそこ楽しいと思える出来事がまるで大切な思い出であるかのように次から次へと浮かんでは消える。今まで生きてきたただそれだけのことが何とも言えない息の詰まるような暖かい気持ちで胸を一杯にしてくれる。その気持ちは自然と全身に染み渡り、体の隅々に行き渡る。

 深い意味のありそうな、しかし実際には見せ掛けだけのそれっぽい雰囲気に酔いしれていた。見せかけだからこそ気兼ねなく酔いしれることができた。自分の人生を振り返り物思いにふける心豊かな人になったわけでも、精神世界で悟りを啓いた偉人になりたいわけでもない、演じたかったのだ。

 

 ぶ〜ん。


 大きな通りに出ると、真夜中にもかかわらず次から次へと車が走り抜ける。明るい24時間営業の店が立ち並び、そこそこに人も歩いている。僕は一瞬で主人公からモブキャラになってしまった。存在感を失い、せいぜい輪郭しか描かれない町の中のその他大勢である。


 ま、こんなもんか。


 夢からさめた僕は大通りの交差点にあるコンビニに立ち寄った。缶コーヒーではなくコジャレた心踊るあま〜いカフェラッテを購入した。酔いがさめたためか気分を盛り上げる小道具ではなくちょっとリッチな美味しい物を求めたのである。甘い幸せ、眠気と戦うカフェイン、脳の栄養である糖分をたっぷり含んだ若干高価なレアアイテムを村人Aは手に入れた。


 よし、帰るぞ。


 そこそこに外出を楽しんだ僕はそれなりに満足して、家路を急いだ。何せ家についたらまた山済みの仕事と向き合わねばならない。僕は無駄に広がる夢一杯の想像力を持った紙一重のおバカさんから極々普通のそこそこに真面目でまあまあ不真面目な社会人に戻ってしまったのだ。

 帰り道は、いつもの道。とりわけ特別なイベントが発生することもない。少し退屈でちょっぴり寂しい。


 もう少し楽しみたかったかな。

 

 ただ暗いだけのいつもの道をいつも通りに通り過ぎる。いつもの道がいつもと違って見えるなんてことは早々起こらない。見慣れた景色にいちいち感動していたら生きていけない。そう、何も、特別僕を楽しましてくれるような運命的でラッキー過ぎるハプニングは起こるはずが無い。ないと思った次の瞬間それが現実となるステレオタイプ的展開はあったらうれしい。非常に嬉しい。だが、実際のところは起こらないのだ。分かっている。よ〜く分かっている。


 ばたん!!


「すいません、ごめんなさい」

 誰かとぶつかった。そう、曲がり角でぶつかった。恐らく、間違いなく、女の子にぶつかった。驚くべき急展開。運命的出会いを夢見て、朝の学校に遅刻しそうな時間帯にパンをくわえながら曲がり角の多い道を全力で駆け抜けたことはなくもないのではあるが、それは僕がとてもとても小さかったころの話で、しかもそんなイベントに遭遇したことは一度もない。


 はっはっは〜。

 そんなことあるわけないよね。

 あるわけ・・・。


「あ・・・」

 とてもやわらかい感触。もしや、これは、うわさに聞く古典的運命の出会い、曲がり角でばったりぶつかったついでに、たまたま、本当にたまたまですよ、なんともいやらしい体勢になってしまいました!!と、いうやつではないのか。


 あるわけないですよね?


「すすす、すいません、すいません、すいません」

 脊髄反射で僕は謝っていた。ペコペコぺこぺこ謝っていた。全身全霊命がけの謝罪である。ただ、命がけである一方で、その子がどんな子なのか必死で観察していた。

 メインヒロインも十分こなせる絶世の美少女・・・にはちょっと物足りないが、僕の好みにはど真ん中ストライク!!やばい、これはやばい!!素朴な顔立ちは、美人やセクシーと言うのとは少し違うのであるが、初対面の僕が一目で親しみと好意を抱いてしまう飾らない魅力にあふれている。ちょっとした用事だったのか、Tシャツに短パンのラフな格好ではあった。無頓着で無防備でいやらしい目線を送ってしまいそうになる。色気むんむんではないのだが健康そうで脱いだら無敵的プロポーションは一目で分かる。なんともさわやかで飾らない自然な彼女の美しさは逆に僕の下心に火をつけた。

 彼女がいないどころか、周りに女の子のいない生活をしている僕にとってあまりにこいつは刺激的なイベントだ。落ち着け、落ち着くんだ・・・落ち着きやがれ!!

 

 よ〜く考えてみよう。

 考える事は大事だよ。

 そう、とっても大事だよ。


 こういう場合はどういうすれば良いのでしょうか。たまたま偶然不幸にもアクシデンタルに突発的にエリさん(仮名。名前が分からないのでとりあえず初恋の女の子の名前を適用。僕好みのとても可愛い女の子の代名詞としても用いられる。)が付き添ってあげることが必要ではあるが、それほど重症でもないとても都合のいい怪我をしていないかを確認するとか言うのはどうですか。ぶつかったんだからね。そうだよ、それが良い。

「お怪我はありませんか」

「いえ、大丈夫です」

 エリさんはそう言うのだが、なかなか立ち上がれない。はっはっは〜なんだこれ。いやいやいや。これなんかのドッキリですか。僕のリアクションなんてとっても面白くないですよ。面白くは・・・。


 いいだろう。

 そこまでするんだ、もうこれしかないよな。


 ここまで来るとお約束展開にのってしまおう。もう僕は恐れない、来るが良いとても都合の良いやらせっぽいハプニングよ、お前の手の内で踊ってくれる。 

「駄目ですよ、手当てしないと。僕の家すぐそこなんで手当てだけでも」

「いえ、悪いから」

「気にしないで」

 強引だったかな。いや、男はこれくらいで良いんだよ。そうそう、そうじゃないと話は前に進まないのさ。何だかんだでエリを僕の部屋に連れ込んでしまいました。いつも僕がゴロゴロしているその場所にとても可愛い女の子が座っている。閉じた空間にいるためか、女の子独特の優しいけれども男の子には刺激的な香りがするのが分かる。

「ねえ、今日泊めてくれない」

 な〜に〜!!まさかの超展開。ドキドキの眠れぬ夜。ちょっと遅れて始まる輝く青春全力疾走。加速する極めて健全なえっちい妄想が駆け巡る。そして、間髪いれずにとどめの一撃

「お風呂借りて良い?」

 返事をする前にエリは服を脱ぎはじめた。際どく緩んだ衣服の隙間を吹き抜けるやさしい風が爽やかだけれどもとてもいやらしい香りを運び、僕を包んでくれる。チラッと垣間見えるきわどい部分の眩い素肌は僕の視線を引きつけて放さない。ああ、貴方って人はとっても素敵な天然系なのですね。いやらしさを微塵も感じさせない自然な魅力はとても素敵で、可愛くて、えっちいのです。

「すいません」

 はいは〜い、何でしょう。風呂場から聞こえるエリの声。シャンプー切れてるとか何とか言って、生まれたときの姿でご対面とか言う奴ですか。もう何が来ても驚きませんよ。男らしく堂々としてますから。いや、どうどうとするのも変かな。ちゃんとドキドキしてますよっほっほ〜い。風呂場は滑りやすいので注意しましょうね。

「大丈夫ですか」

 大丈夫ですよ、いきなり襲ったりしないですから。何だかんだ言ってドキドキで何も出来ない眠れぬ夜になるのは分かってますから。ちゃんと分かってますよ。少しずつお互いの事を知って、仲を深めて生きましょうね。ああ、B級ラブコメ展開って素晴らしい。

「大丈夫ですかっ!!」

 

 あ、すいません、全部妄想です。

 エリさん(仮名)ごめんなさい、想像力豊かな僕は貴方を裸にしてしまいました。

 よ〜く考えすぎたようです。


「あ、大丈夫ですよ、僕の方こそすいません」


 まあ、そんな素敵なイベントが起こる確率は万に一つも無い物で、こうして僕のささやかな大冒険はひとまず終わりを告げた。人に語るには何とも恥ずかしい大冒険である。

 こんな僕でも、普段はかなり全うな人間である。ただ、少しばかり人より退屈が苦手で、想像力豊かで、一人遊びが得意なだけである。こうして時々夢を見せてやることで、弱い自分の心が疲れ果ててしまわないようにしているだけである。



 こうして僕の無駄に刺激的で平凡な夜が終わりを告げた。



 ・・・。

 いやいやいや。

 終わりませんよ。

 

 やべぇ。

 本気でまにあわねー。

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