第十一章の14
「冷菜は風を操っていない。」
依代さんの言葉を思い出す。彼が言うには窒素を操っている。
冷菜が操っているのは窒素のみ。気圧の差を作り上げて風を起こしているわけでもなければ、扇風機のように空気を押し出して風を起こしているわけでもない。ラジコンのように単に窒素を操っている。
しかし、実際には空気を動かしているらしい。
「のみ」と限定していたり、「空気」と混在したものを指したり…最初は混乱した。
しかし、依代さんはこれを人混みに例えた事で理解できた。
多数の人の流れに逆らい進もうとするも数の力に押され同方向へ進んでしまう。
空気の約80パーセントは窒素で占めている。これが多数の人。そして8割が一定方向―冷菜が動かす方向―へ移動する。そして残りの二割(その他の気体)がつられて―押されて―同方向へ動く。
結果を見ると空気が動いている。そして「風」を操っている。
だが、理論上は風を操っていない。空気も操っていない。
依代さんから見ると冷菜の能力は凶器らしい。そこで環さんに冷菜へ丁寧に事細かく能力の使い方を教えるよう指示していた。それを見るに冷菜の自由時間はなくなり、訓練の毎日を送ることになるだろう。
それにしても、たかだか風邪を起こすだけで凶器とは言い過ぎではないか。風でできることは夏に涼をとることや、秋に落ち葉を風で飛ばす…
風邪で飛ばす。これは凶器だ。物を吹き飛ばすこと。もしその物が柔らかく軽量の物なら大丈夫だ。しかし、それが金属なら、あるいは割れて鋭利な刃物と化したガラスなら…
想像するだけで恐怖だ。360度、全方向から凶器が飛んでくる。目に見えないものを操ること程の怖いものはない。
「だから、少しでも能力の操り方をミスしないために教えるのか。」
依代さんは冷菜の能力を調べている間に、能力にどれほどの脅威が潜んでいるのか。リスクを減らすにはどうすべきか。血眼に調べ上げ、考えつくしたのだろう。
「宮辺さん、シカへ左遷されるみたいね。」
「依代さんに歯向かったの。」
「さぁ、歯向かったと聴いてないけど。」
「じゃあ、どうして…」
「わからないけど、あの子は終わったわね。」
「シカに送られるとね。」
俺の部屋の前で何を話しているのだろうか。
「それに、シカとはなんだ。」
今日、金曜だ!
毎日同じことしていると曜日感覚おかしくなる…




