第十一章の13
「意地が悪いですね。依代さん。」
「バレバレなことをするのが悪いんだよ。」
俺の投げかけに悪びれもなく笑う依代さんはさすがというか。なんというか。
「後、わかりやすく説明できるなら最初からしてください。」
「その方が面白いじゃないか。それに渾身の資料を読まないのもどうかと思うな。」
そう。実はあの分厚い資料はブラフだったのだ。誰もめくろうとしなかったために気付かなかった。
ブラフとは言ってもあの資料は実際に、集めた膨大なデータをまとめてあり、解説してあるものだ。しかし、今回の説明には不要なものであり、本当に使うページは最後の3枚だった。
しかもグラフや数値のデータを使ってのものではなく、図式化、そしてイラストを使って具体的な根拠に基づいた資料ではなく、フィーリングでなんとなく、輪郭がつかめる資料。全く知識のない人に対しては十分な完成度だった。
「あれは、どうしますか。」
今、俺たちがいるのは準備室のエレベーターの扉。家で言えば玄関を入ってすぐという感じか。
そしてあれとは、体育の授業で使われている体操マット。鉄棒や高跳びで使われるようなクッション性のあるものではなく、スポンジでフローリングよりもマシといったもの。
それにくるまり簀巻になったアレ。
「アレとは何だい。アレはアレでも二式君より年上だよ。」
依代さんもアレと連続しているじゃないですか。しかも連発してくれるお陰で文脈が全く分からない。
「すみません。アレはあのままでいいのですか。」
冷菜まで。しかし、アレでも年上をモノのようにいうのは気が引けるようで、言葉に若干だが震えがある。
「環君が望んだことだからいいんじゃないかな。」
間違ってはいない。依代さんは言ったように彼が望んで得た結果だ。
しかし、これは依代さんが環さんに更なる給料減額を突き付け、その罰から逃れるために“なんでもする”と言ってしまったことからなる。これは、環さんの望んだことになるのだろうか。
「依代さん。環さんが何か訴えてきていますよ。どうしますか。」
「声がくぐもっているから。彼の言葉が全く理解できないね。環君、もう一度言ってくれるかな。」
今の流れで察してしまった。依代さんはこの私刑を行う際に環さんに詳細を話していない。ただ簀巻にすることだけを伝えた。環さんは“簀巻になるだけ”と、跳んで喜んでいたが、「どれだけの期間」「簀巻の状態でどのようなことをされるのか」全く知らない。
そして簀巻はその事実に気付き必死に質問しているのだろう。
「ほら環君。明瞭に言ってくれないとわからないよ。」
そしてこれだ。必死の質問を「わからない」で返し続ける。デジャヴだろ。俺たちが依代さんにしてきたことだ。あの時は質問じゃなくて説明だったが。
目には目を歯には歯をとは、このことだろう。依代さんの被害者になった環さんには悪いが、執行官の気が済むまで耐えてもらおう。
「環さん。ご愁傷様です。」
これがしたかった。
アレを出すために必死でしたよ。
「アレとはなに?」だって?
アレはアレだよ!




