第十一章の13
終わったな。
何故かこんな言葉が頭をよぎった。
いや、何故とか疑問自体を持たずに理解できるんだけど。
原因は目の前の男、依代 学がした提案だ。
「環君が説明したらいいんだよ。」
環とは俺の右手側の席に座っている人だ。
この人は依代さんの意味不明な説明をあたかも理解しているかのように相槌をし、そしてここにいる俺以外の人は、依代さんの知識自慢の内容を理解できている。と、言った。
俺以外の人。と、いっても、依代さん、環さん、冷菜の三人であり、説明を聴いている人は環さんと冷菜の二人になる。
こんな状況で依代さんの説明の仕方へ文句を言えばどうなるか誰でも予想がつく。
“文句があるならお前がしてみろ”
非常にシンプル。わかりやすい対応だ。
だが、この一撃はかなり効く。環さんは理解しているように見せかけているだけで、全く理解していない。そんな人が説明できるはずがない。
「環君。君は理解しているんだよね。僕が説明してもまた同じ結果になるかもしれないし、君に頼むよ。」
申し訳なさそうに言っている。しかし、俺は見逃さなかった。不敵な笑みを。環さんへの説明の強要をする前にした含みのある笑みを。
最初から気付いていたのだ。依代さんは環さんが全く理解できていないことを。それを知ったうえでお願いしているのだから、性格が悪い。
お陰でいい年のおっさんは涙目だ。身から出た錆ではあるのだけれども。
環さん。俺にそんな目を向けられても困ります。
「別に遠慮しなくてもいいんだよ。」
優位に立っている状況を理解したのか。悪戯な顔で説明を始めるよう促す依代さん。
俺や冷菜に目を向け、助けを求める環さん。何度か目が合うも無視し、我関せず、を突き通す俺。流れが読み取れず、何もしないことを決めた冷菜。
それぞれの考えが渦巻き、禍々しい空気となったこの場を打ち破ったのは環さん。この広すぎる体育館でも片隅から叫んで向こうの片隅まで届くのではないか、とも思える声で謝罪の意を言ったのであった。




