第十一章の13
「二式君は、わかっていないようだね。」
依代さんは、俺の顔をみて察したようで、あきれながら言う。気持ちを察してくれるのはいい。これで難しい言葉を噛み砕いて説明してくれると完璧だ。文句の付け所がない。ないのだが、期待はしないでおこう。
依代さんの表情を見て焦りを感じたのか、環さんは「あとは、二式君だけだよ。」と、続け、依代さんの言葉を理解しているように見せかける。しかし、ここには俺以外にも冷菜が居る。そして、冷菜も理解していない内の一人。環さんは墓穴を掘っていないか。
「すみません、知識不足で。」
雰囲気から、自分が悪いように思えてしまう。
「いいよ。理解できるまで何度でも説明するから。」
それは、死刑宣告というものでは。いや、直接、手を下していないところから終身刑か。それとも、理解さえすれば終わるのだから無期懲役か。
ここは体育館ではなく刑務所だったようだな、全く気付かなかったよ。
本人は優しさからの提案だろう。しかし、その案は俺にとっては苦痛以外の何物でもない。刑罰だ。今の今まで空を見ていた冷菜も、依代さんの提案に目を大きく開いて驚いている。目が右往左往しているところから焦燥感に駆られているのかもしれない。
「じゃあ、もう一度説明するよ。分からないところが出てきたら、順次、質問してくれたらいいよ。」
解らない所が判らない。これがピッタリだな。依代さんはその手の専門家に向けた説明をしているだけに過ぎない。俺たちのような一般に向けたものではない。
この事実を伝えて早く解散したいのだが、依り代さんはどのような顔をするのだろう。睡眠時間や食事時間を削り、築き上げた成果を無駄にした時、どういう感情になる。理解しない相手への怒りか、それとも喜びを分かち合えない事への悲しみか。
どちらにしても面倒なことになりそうだ。
「依代さん。少しよろしいですか。」
「環君。どうしたのかな。」
機嫌よく説明をしようとした依代さんを遮るように口を開く環さん。出鼻をくじかれたのが気に食わないのか、依代さんの表情が良くない。この感じだと、発表中に質問を投げかけるのもよくないように思える。
「高校生の二式君には理解するのが難しいかと。それに聴いているのは一般の高校生なので裏付けデータの説明は必要なく、結果のみ。“こういうものだった”という情報だけでいいかと思います。」
救世主だ。依代さんへ立ち向かう姿は素晴らしい。しかし、脆弁だ。高校生を強調すると最初に言った“俺だけ理解できていない”を部分的に否定することになる。
冷菜も高校生だ。“俺には理解できない”ではなく、“高校生の俺には理解できない”だと、高校生には理解できない。つまり、高校生の冷菜も理解できない。そこを依代さんに突かれると終わり。
だが、その心配は無用であった。環さんの言葉を聞くなり、依代さんは「なるほど。」と納得し、腕を組んで俺に対しての対応を考えている様子。
“これはいける”
そう思った時だった。何か思いついたのかいきなり手を打ち、音により3人の視線が依代さんへ集まる。そして、飛び切りの笑顔でこう言った。
「環君が説明したらいいんだよ。」




