第十一章の12
「これはリハビリというのだろうか。」
今、冷菜していることを端的に説明するなら、ルームランナーを使って俺がしていたことの下位互換。限界までのランニングに近いトレーニング。
筋力を前回までに戻すのではなく、前回以上の筋力に。そして前回以上の心肺機能。
しかし、これは有酸素運動ではなく無酸素運動だろう。ならば心肺機能向上はあまり望めない。筋肉量増加による基礎代謝向上の方が強いだろう。
その地獄のような運動によって、表情のバリエーションが豊富とは言えない冷菜が息を荒くし、疲労を表に出している。冷菜に悪いとは思うが、その珍しい姿に感動を覚えた。
可能ならばもっと極限へ近づかせて、その表情を、それ以上の表情を拝みたい。
「二式君。悪い表情をしているよ。」
しまった。顔に出ていたか。俺の下卑た感情は隠すべきだ。
「違いますよ、環さん。筋力トレーニング、筋トレにしか見えないリハビリに驚愕しているだけですよ。」
「それは苦しい言い訳だよね、霜月さん。」
慌てて取り繕う俺を横目に、地べたに座る冷菜に共感を求めている。当然だろう。
広大な体育館の一角。準備室から離れていない場所。そこにルームランナーやマットを並べ、そこでリハビリという名の筋トレをしている。運動をしているときこそ安全のため少し離れるが、今は小休憩。足を三角にし、おでこを膝に置く冷菜であっても目線を上げれば俺の顔を確認できる。それくらいの近さ。
ならば、共感を促し、仲間を増やすにはもってこいだ。
「ほら、霜月さんもうなずいている。これで2対1。」
こんな風に得意げに勝利を掲げる40代後半もなかなかいないだろう。大人げない。
「いやいや、まさか。環さん。冷菜は疲れているのですよ。さっきのも何かの拍子でなっただけかもしれませんよ。」
冷菜は疲れている。誰から見てもそう見える。それくらい疲弊しているのだ。
環さんが冷菜に話しかけたとき、冷菜は力なく首を上げうなずいた。いや、途中で折れた。
冷菜はおでこを膝から離し目線を少しずつ上げ、半ば。目が合うとほぼ同時に重力に従うようにコクリ。そして膝へと戻ったのだ。
「それこそ、まさか、だよ。霜月さんはうなずいた。この目でしっかりと確認したよ。」
強調するように右人差し指を立て自身の目じり近くに置く。
ここで言い返せば休憩時間が終わるまでこの無意味な言い合いが続くだろう。これは確信を持って言える。しかし、実際はそうならなかった。それは、俺が言い返さなかったからではない。
「ひーくんは悪い顔をしていた。これで終わり。」
予想外の出来事。疲れも重なって苛立ちが通常よりも高くなったのだろう。冷菜による鶴の一声でその場が収まった。
「そうだね、これで終わり。そうだ、霜月さん。汗かいただろうし。シャワー浴びてきなよ。内側から鍵を掛けられるから安心してね。」
環さんが明らかに動揺している。話した時間は短くとも印象は作られる。このようなことはしない。と、思っていたのだろう。
では、長く付き合ってきた俺はどうか。
表に出していないが、正直、驚いた。




