第十一章の12
いつからいたのだろうか。下手なところを見られていなければいいのだが。
「二式君、準備室で何やっていたのかな。」
冷静を装う俺に対し、笑いを隠しきれていない環さん。
「冷菜のリハビリを邪魔しないようにここから覗いていただけです。」
「覗きはいい趣味とは言えないね。それなら“頼もう”って、大声で叫んでノリと勢いだけで入ってくる方がマシだね。」
聞いていたのか。いや、待てよ。俺は口に出していたのか。頭で考えていたはずだ。
「驚いた様子だけど、二式君が思っているより大きい声で独り言を呟いていたからね。」
それほどの声で呟いていたのか。いや、あの広さを有する体育館へ届く声は“呟く”のレベルをはるかに超えているのではないか。どちらかといえば“叫ぶ”だな。
それにしても、なぜこのようなタイミングで環さんは来たのだろうか。体育館への入り方を考えていたのは数分。その数分を狙ったかのように体育館から準備室に入ってきた。
たまたま休憩時間と重なったのだろうか。可能性としてはあり得る。準備室には運動に使う様々な道具や機器を詰め込んでいるほか、体育館からシャワー室を使用する場合には準備室を通るような造り。
休憩時間に何かしらの準備をするために道具や機器を体育館へ運ぶために準備室に入ってきた可能性。
また、休憩時間にシャワー室を使うために通路として準備室に入ってきた可能性。
休憩時間に準備室に入ってくる理由はある。このいずれかだろうか。
そういえば、だ。体育館へ行こうとする場合、背中のエレベーターを使わなければならない。つまり、この準備室は倉庫であり、シャワー室の連絡通路、そして玄関口でもあるのだ。
もしかして、であるが。誰かが体育館を訪ねに来た時、インターホンのようなもの、呼びベルの役割を果たすものが存在するのではないか。
これが一番しっくりくる。
「何に対して、頭を悩ましているのかわからないけど、とりあえず体育館へ入ったらどうかな。」
「冷菜のリハビリの邪魔にならないのであれば。」
体育館を指さし、考え事をしていた俺を誘導する。
「そんなことは全然ない。むしろ霜月さん、俄然やる気、出るんじゃないかな。」
俄然やる気…俺が体育館にいると何かあるのか。
冷菜の性格から、さぼる様なことはしないだろう。ならば、監視の目を増やす意味はない。
監視役を買って出る人を増やす線はない。ならば、知り合いがいることで得られる利点か。考えられるのは、話し相手だ。誰かと話すと緊張がほどける。
なるほど。冷菜と環さんの二人だけでリハビリをしていた。しかし、その状況に冷菜は緊張してしまい身が入らない。納得だ。
「わかりました。そういう事なら。」
冷菜のリハビリに集中できるよう、その役割を果たしましょう。環さんが「絶対にわかってないな。」と、ぼそりと言っていたが、大丈夫です。ちゃんとわかっていますよ。




