第十一章の11
「やぁ、二式君。」
普段と変わらない笑顔。何も変わらない。昨日のことが嘘のようだ。
「依代さん。おはようございます。」
ここは食堂。職員は基本的に無料で食事がふるまわれる。しかし、食費を抑えるためか料理の選択肢は2つ。基本的にAセットかBセット。だが、アレルギーは考慮してくれるそうだ。
「二式君はAセットのようだね。」
「いつもは手間のかからない、食パンとヨーグルト、牛乳。なのですが。」
Aセットは白米、みそ汁、魚。Bセットは、パンかシリアル、サラダ、牛乳またはオレンジジュース、ヨーグルトかゼリー。
今日の魚料理は鰈の煮付け。自分で料理するには時間がかかる。ここだからこそ朝から食べることができる。
「依代さんはBですね。」
「霜月さんのこともあって食事の時間がないんだよ。嬉しい悲鳴さ。」
アームサポートへ板を乗せただけの簡易机に料理が並べられたトレーを見ると食パン一斤と牛乳だけ。サラダとヨーグルトがない。食事時間を削減するために断ったのか。
それにしても、霜月。冷菜の話が出ると、どうしても引っかかってくる。聞き流すのは難しい。
「それじゃあ。僕は自分の部屋へ戻るよ。」
「はい。仕事熱心なのはいい事ですが、体調には気を付けてくださいね。」
これはありがたい。依代さんは怪しい。怪しいのは確かだが、敵かどうかはわからない。
そのような人と対面しての食事は緊張する。
「そうだ、二式君。9時から体育館で霜月さんがリハビリしているらしいよ。行ってあげなよ。」
広すぎる体育館か。広いだけかと思っていたが、何かと使われているようだな。しかし、リハビリをするための道具はあったのだろうか。準備室に何度か入ったことはあるが、そこにもそのようなものはなかった。
「わかりました。顔を出してきます。」
俺の返答に満足したようで、そのまま廊下へ向かっていった。
取締役の部屋へ着くころにはパンは冷めておいしくなくなっているだろう。今、俺の手元にある料理のように。
「食事に楽しみを求めていないのか。」
知的好奇心の権化。食事はエネルギーの補給が目的であってもおかしくない。
あの人の性格の特徴はつかめる。知識欲が生理的欲求を上回っていて、マズローの欲求5段階説を根底から覆すような人。そこはわかりやすい。だから普段の行動を読み解くことはできる。しかし、その一部だけ。それ以上はわからない。
「周りが見えていなかったのか。」
「ようやく、そのことに気付いたかな。」
この特徴的な話し方。
「お久しぶりです。麗化さん。」




