第十一章の9
そろそろ寝ようかとする時間。月明りなど差すことのない人工的で無機質な部屋の一角。
床には、形、大きさがまばらで統一性のない破片。姿勢を低くし身の安全を必死にとっていた少年、そして部屋の惨状を興味深い、と目を光らせる科学者。
「二式君。こうなった経緯を教えてくれないかな。」
これだけガラスが飛散していて俺に切傷が全くないのは奇跡だと思う。破片が四方八方にありどこを歩いてもガラスを踏む状態だ。ここが土足厳禁な部屋でなかったことがせめてもの救い。
「依代さん。もうちょっと俺の安否を気にしていただけませんか。」
体勢をゆっくりと立て直し、知的欲求を表す怪物へ目を向ける。いつもの癖から立ち上がると同時にズボンを手で払いそうになったが、今素手で払うと痛い目にあうことが目に見えているためこらえた。
「君の安全は最初に確認したはずだよ“すごい音がしたけど。二式君大丈夫。”って。」
「そういえばそうでしたね。」
それだけですか、そうですか。依代さんは知識欲が先行する人だ、と勝手ながら思っていたのでそこまで驚きもしませんが。
「簡単に言いますと、不自然な暴風で鏡が割れてこうなりました。」
なんと完結な説明だろうか。無駄な見解などなく事実をそのまま述べたのだ。勘違いとか起こらないだろう。事実を受け止めることができるかは別だが。
「冷菜は。」
あれだけの風が吹いたのだ。冷菜の方もただでは済まないだろう。
「後ろを向けばわかるよ。」
依代さんの言葉は、ひとつ考えればわかることに俺が気付いていない事の呆れか。それとも他のことに思考がいっているのか。ただ、感情なく淡々と返ってきた。
確かにここは一枚のマジックミラーで仕切られていただけ。振り返れば冷菜がいた部屋。
現場全体が目に入るのだ、冷菜の安全を確認する以上の情報が手に入る。
「暴風が事実なら、面白いよね。」
依代さんの言葉は単純だ。ただの興味関心。好奇心からくるそれだ。
振り返って見えた光景。それはただの部屋。仕切っていた窓以外は変化なし。
なぜそれが面白いという感情を作り出したのか。依代さんほどの感性を持っていない俺だが、十分に想像ができる。
「割れるくらいの風が起きたのに、何も変わっていないのが面白いよね。」
部屋を仕切るマジックミラーをけたたましく叩いていたのに、鏡を割るほどの勢いだったのに。たかだか八畳ぐらいの部屋、それくらいの部屋が、あの暴風でベッドのシーツ飛ばされず、変わらない。
「局地的暴風、それでも表現できない、本当に一部分でのみの風。しかも他所への影響はなし。」
依代さんの言い方には何か面白いおもちゃを見つけた子供のようだった。




