第十一章の7
あそこまで融通が利かない人だとは思わなかった。
だが、全面的に悪いという事ではない。興味関心がある部に限った話で、基本的にはいい人なのだ。
結局あれから1時間ほどサンドバックを殴っていた。俺は走らされると思っていたのだが。依代さん曰く、走りの方は十分に効率化されているため他を強化したい。あれだけ走らされていたのだから当然といえば当然だ。
1時間で終えたのは時計と環さんのおかげだろう。ひたすらサンドバックを殴っていたところに壁掛け時計を手にもって「時間、大丈夫。」と聞いてきたのだ。
なぜ腕時計ではなく、壁掛け時計なのかはわからない。だが、その奇異な行動で夜も遅くなっていることに依代さんは気付いて、練習という名の拘束から解放されたのだ。
時間が遅くなっても家には帰れない。なぜなら、いまだに学校の改修工事が終わっておらず、休校だ。この期間は監禁(強化合宿)だ。その間は六畳一間の部屋を借りているため、寝床には困っていない。
ただ、一つ不満を挙げるなら、外に出られない。施設の場所を知られないための措置であるのは理解できる。だが、たまには無意味にぶらぶら歩いては店を冷かしたいこともある。
特に、いろいろごった返しているときは、だ。
俺の身辺では、この短期間に畳みかけるようにことが起こった。何から手を付けたらいいのかわからなくなるほどに。嬉しい悲鳴を上げることばかりであれば万々歳であるが、実際はそんなこと、起こるはずがない。
このような時は公園のベンチに腰掛け、無意味に空を見上げて、頭の整理でもしたいものだ。
「せめてこの部屋が散らかっていればな。」
借りているこの部屋は生活臭がしない。殺風景。
布団や机、給湯器、茶碗、とティーパック、コンセント、これらがあるため生活には問題はないものの、不自然に白い壁、平面で高すぎる天井。とにかく心が落ち着かない。
これなら、窮屈ではあるが依代さんの部屋でいた方がましだ。
「二式君、二式君はいるかい。」
おかしい。本来スライド式であるはずの扉が、蝶番で止められた部分もないのに部屋に向かって弧を描いて開いている。
「環さん。どうかされましたか。」
「霜月さんが目覚めたんだ。」




