第十一章の6
読み切ったぞ。
なんだ、この達成感。
「二式君。どうだった。素晴らしいものだったよね。」
「ええ、とっても。」
「そうだよね。そうだよね。きっと君ならわかってくれると思ったんだ。ほんとにいいものだよね。二式君。」
「はい。とっても。」
疲れました。
「走っているときの呼吸や使用している筋肉。そして、一糸乱れぬ身体の動き。まるで一部の場面をリピート再生しているかのよう。」
依代さんには俺の顔は見えていないようだ。資料を手渡されてから数時間。そう、斜め読みでも数時間。コーヒー片手にして、最後まで読んだのだ。資料に目を通している間は、カフェインを摂取することで絶えていた。だが、今の俺の目は光を失い半開き、うつらうつらとしている。
誰がどう見ても、限界。気を抜けば寝る。そのような状態の俺をこの人は見えていないのか。
「だからして、君の能力はコントロール系となるわけだ。」
褒めろ。とでも言いたいような顔。それに対し、苦笑いの俺。
仕方いだろ。俺の体力は0といっても過言ではない。人の体力を回復するのには睡眠が一番だ。これはつまり俺の意志ではない。生命の危機に反応した本能による行為。
「そうなんですね。」
「そうだとも。君は能力によって身体の強化をしているのではないのだ。不要な筋肉を動かさず、本来なら鍛錬を経て体得するはずの効率の良い体の運び。これらを能力によって短期間で編み出し、極限まで体力の消費を減らしているのだよ。いうなれば君は究極のエコカーだ。」
俺はいつの間にか人間を辞めていたようだ。エコカー。車。
俺はエコに貢献しているみたいだし、エコカー減税のように税金下げられないかな。
「本当に素晴らしい結果だよ。素晴らしいとしか表現できない自分の語彙力を恨むくらいだよ。」
依代さん。全身を以って喜びを表現しているのは良いのですが、車いすが前後左右に揺れて、見ているこちらは、気が気でいられませんよ。
「こうしてはいられない。早速行動に移さなきゃ。」
「唐突ですね。」
ふと何か思いだしたようで真顔に戻り、先ほどの浮かれ顔がない。
「このグラフを見てほしい。走っているときの呼吸のグラフだ。こっちはここで初めてとった方でこっちはついさっきの資料。最初のものは呼吸は乱れ激しくけど、これは安定している。つまり君の能力は学習型。」
次の言葉が見えた。見えてしまった。
「さあ、練習を使用。」
もうやめてください。




