第十一章の5
「二式君。快挙だよ、快挙。」
精根尽き果て、机に突っ伏す俺に対し、爽快な声を上げる依代さん。
快挙とはいったい誰のものだろう。何十キロもの距離を走った俺か、それともボクサーになるつもりがない俺がサンドバックを殴り続けた事か。はたまた、肉体を極限まで痛めつけ得たデータを数時間で分析した依代さんか。
「これだけの資料があれば、誰が何と言おうと能力におる影響だ。と、公言できるよ。」
公言できることがそれほどの喜びを引き起こすのか。科学者ではない俺にはよくわからないものだな。
「二式君。休んでいる暇はないよ。君も見たまえ、この素晴らしいデータを。」
研究資料を得るために休みなく動き続け、疲労困憊な俺へ、追い打ちをかけるが如く、今の今まで枕にしていた机の天板に俺の今までの苦労が記された紙が置かれた。
「これ、全部に目を通さないといけませんか。」
A4サイズの紙が広辞苑並みの厚さになるまで積み重ねられている。これをすべて読むにはどれほどの時間が必要か。考えるだけで頭痛がする。
「当り前じゃないか。これは君の努力の結晶だよ。」
この人、鬼だな。麗化という大概な人もいるが。
いや、麗化とはまた違うか。
麗化の場合だと、俺が疲れから読むことが絶対に不可能であることを承知の上でデータを目の前に置くだろう。しかも、机の天板に静かに置くのではなく少し離して落とし、重々しい音を立てて。
それに対し、この人は本心から俺が読めると思っている。悪意がない。純粋に喜びを分かち合うためにやっている。まるで、おいしい店を見つけ、それを友達に教えるみたいに。
責めるに責めることができない。いうなれば有難迷惑。
「わかりました。」
断ることができるものか。
「コーヒーを淹れてくるよ。さっきまで動いてたから、喉、乾いているよね。」
じゃあ、休憩をください。
「ありがとうございます。」
コーヒー、何杯飲むことになるかな。




