第十一章の4
依代 学、Mは学のイニシャルだろう。
依代のYを使わない理由は、想像でしかないが、本当の名字ではないから。
「依代さんにそんな過去が…」
どんな言葉をかけるのが正解だろうか、慰めの言葉、それとも、哀れみの言葉。
俺はただの凡人。平穏無事な生活を送ってきた高校生だ。10年とちょっとしか生きていない。こんな俺には、目の前の人に対してかける言葉は思い浮かぶだろうか。
「僕が話したのは少年Mだよ。」
依代さんの言い方は、僕であるとは限らない。と、でも言いたいようだ。
しかし、話し口調。背景描写。何より眼が本人であることを示している。
「それもそうですね。」
だが、俺には本人である確認など到底できない。依代さんの気遣いに甘えるしかできない。
俺は本当に無力だ。力はどうであれ、心は非力。
目の前のことしか見ていない。俯瞰的に見ていない。心に余裕を持つことができていない。
井端さんや冷菜のこともそう。現実から逃げ、誰かに甘えてばかり。
気を落ち着かせ、しっかりと見定めなければならない。今まで、散々逃げてきたのだから。
「気張りすぎるのは良くないよ。ほどほどに、ね。」
それが一番むずいんだけどね。と、後に続け、からのコーヒーカップを傾けて飲もうとする。
「無くなってたみたいだ。コーヒーを入れたいから少し通してくれるかな。」
「すみません。」
そう、依り代さんは車椅子での生活。
「ちょうど自分も無くなったんで、俺が淹れてきますよ。」
「拡張、拡張で地下迷宮化したここで迷子にならない自信があるならお願いしようかな。」
すみません。出しゃばりました。




