第二章の3
「やっと着いた。」
歩いて商店街へ行くのは堪えるな。ここまで来て何も買わずに帰るのは無駄足以外の何物でもない。
「飲み物でも買うか。」
飲み物と言えばあそこだよな。
飲食物と言えばここ、家計のみかたナカガイ。
ナカガイは、元卸業で今はちょっとしたスーパーをしている。
腐っても元卸業者、安く仕入れることを得意とし、主婦、及び主夫、一人暮らしの学生から強く支持されている。
さて飲み物を買うにしても「何を買おうか。」何せ無計画できたものだから、陳列されたペットボトルを見ても購入意欲を刺激するものがない。
「無難にお茶でも買うか、それともコーヒーか。」口に出しても決まるわけないよな。
「冷た〜いお茶か。」身長から取りやすいペットボトルを手に取りラベルの文字を読む。
そういえば冷菜の買いたいもは何だったのだろう。買うものがあるといい足を進めた先は商店街の反対方向、あの先は葉山荘のある住宅街。スーパーもなければコンビニもない。
あいつが目指した場所は何処だろう。おそらく何処も目指していない。強いて言うなら冷菜の家。ただあの空気から逃げたかったのだろう。「気を使わせてしまったかもな。」
「お客様、買わないのであれば置いてください。飲み物が温まってしまいます。」
「すみません。て、宮かよ。」
左を向くとそこにはオレンジを基調としたエプロン姿の男、宮辺 宮成(くべ みやなり)がいた。
「商品で遊ばないでくれるかな。僕、一応店員なんでね。」
「すまん。癖が出てしまった。」
気づかないうちにペットボトルを縦に回転するように上へ投げていたようだ。
「これを買うから許してくれ。」
「いいよ。見なかった事にするからラベル通り冷た〜い方を取りなよ。」
相変わらず気配り上手な奴だ。この性格の良さとそれを助長するかのような顔立ちから何度も告白されている。
「で、告白はどうなった?」
陳列棚から新しいお茶を取るなり、隣で膝を曲げて飲み物を並べている宮に質問を投げた。
「まったく、情報収集の速さには驚きを隠せないね。その長所を活かして情報屋になることを勧めるよ。」重い腰を上げて応えてきた。
冗談で言ったつもりだったが、事実だったようだ。
「で、付き合ったのか?」
「結果までは言われてないみたいだね。でも、その質問の答えはもう予想がついてるんじゃないかな。」
「断ったか。」「そう。」
毎回断ってるな。これで何度目だ。
「嫌なことを思い出させてしまったな。」
「大丈夫。あっ、でも、もし負い目を感じているならこれを買ってくれないかな。」
そう言って差し出されたのは「うげっ。」不味いで有名な泥水。泥水と言っても本物ではない。科学と投資によって再現された飲み物だ。
簡単にいうと、ミネラルウォーターを製造している某株式会社が黒歴史を刻んだ。ただそれだけなのだ。
「それを買う奴いるのか?」
「いると言えばいる。でもそれは、試しやネタで購入しているだけで、好んで購入しているとは言えないね。」
「どうしてそんな赤字の出るものを仕入れたんだ。」
「仲買店長が『それはネタで売れる。買いこめ。』と高らかに宣言したからね。」
「バカな事をしたな。宮と俺の仲だ1本ぐらい買ってやるよ。」
「恩にきるよ。御礼ついでに悪いんだけど。」
「どうした?」
「1ケースで買ってくれないかな。在庫が溜まってるんでね。」
「誰が買うものか。」




