第十一章の3
イデア発見から半年、政府は本格的に動き出した。
11月22日
Mは普段と変わらない時間に目を覚まし、そして家を出よう扉を開けた。
8:20
一限目の授業を目指し、自転車や原動機付自転車、バスが行き交い、交通事故に遭わないか、ヒヤヒヤしながら登校する時間。
この日も変わらない日常かと思っていた。扉を開けると太陽に照らされ、程よく明るい住宅街が見られると思っていた。
しかし、扉の向こうで待っていたのは、生活道路に1台のパトカーと白バイ数台。そして、拳銃を構える警察官が複数人。
この現実味のない風景を見たMは強烈な衝撃を受け、その場でただ呆然としていた。
「Mさんですね。」
理解ができず、一歩も動けなかったMに声をかけたのはスーツ姿をした30代後半の男性。
議員記章からすぐに政府関係の人間だと判断できた。
議員記章はMにとって、近くにありながらも遠く、そして大切なものを奪い去った存在で、忘れようにも忘れらないもの。無意識に目にいれてしまう。
「お話があるので同行願います。」
議員記章をした男はあたりよく、だが、相手にものを言わせない圧力のある物言いで告げる。
これに対し、Mは反論をすることや逃走を図ることはできない。この人の言うことに従うしかない。
男の後方には拳銃を構えた警察。そして、この騒動を聞きつけ一目見ようと取り巻く人。
車椅子生活のMが通れる場所はない。男の言い方は任意同行であるが強制連行だった。
そうしてMが連れてこられたところは応接室。
どこの応接室かはわからない。パトカーに乗った時点から記憶がない。ただ目覚めた時にはここにいた。
なぜ応接室とわかったのか。それは作りからだ。
1人掛けの椅子が2つ、三人掛けが1つ。これらが対面するように置かれており、椅子と椅子の間にはガラス天板の机がある。
部屋は広くもなければ狭くもない。ただ、行動するには手狭。雰囲気も絵がかけられていたりするため、殺風景というわけでもなく、居心地は悪くはない。
「単刀直入に言います。あなたは死にました。」
周囲を見回し、観察をしていた時に唐突の宣告。
反応などできなかった。現実味がなさすぎたのだ。
「ここからの生き方は2つです。生涯ここで生きるか、名を変え、顔を変え社会で生きるか。」
この選択肢を挙げたのはMを連行した中心人物。彼は一方的にMの人生を決めたのだ。
突然の出来事で納得はできないものの、Mは渋々前者を選んだ。
Mは二者択一を迫られたのではなかった。一択。ただ1つしかなかった。
多勢の警察を連れて連行する事でMの社会的地位を落とす。これにより、Mとして生きることを不可能にし、逃げ道をなくす。
全く別の人間として生きる選択肢を与えられたとしても、年齢からコネクションを持たない状態での社会復帰はほぼ不可能。
選ぶものはただ1つ、火を見るよりも明らか。束縛された生活を送るしかない。
こうして持てる力を存分に活かしてMを幽閉し、国はイデアを手にしたのだ。




