十一章の2
Mは今まで父の管理下にあった。父という管理人の顔を窺うだけの人生だった。
それ以外は全くの0。父の言いつけを守り、父の基準で判断する。自ら考え行動することはなかった。
いきなり家という箱から投げ出され、あの人から手渡された自由をどのように使えばよいのかわからなかった。
「父の人生」のために生きてきたMにとって「私の人生」がわからなかったのだ。
敷かれたレールを走るだけだったMはこれからの生き方がわからず、ただただ引きこもるばかりの生活を送っていた。
そんなとき、なんとなくで見ていたテレビ番組で簡単な科学の実験をしているのをMは見た。実験内容は金属樹の生成。硝酸銀水溶液に銅を入れるとイオン化傾向の弱い銀が析出するという実験。ただそれだけ。だが、そのころのMにとっては不可思議なものを見ている気持で、銀が樹のように出てくるだけの映像に魅せられた。
それからである。Mは市販されている実験キッドを買い込み、自室で狂ったように実験をしていた。そして、実験から自らの知識不足を知り、今まで通おうとも思わなかった高校へ興味を持ち、通信制高校で勉強をした。
Mは次第に笑顔を取り戻し始め、自室のみでの生活から食卓へ、そして大学で化学の深みを知るため外へ出るようになった。
同じことを繰り返すだけの色褪せた生活が色を帯び、刺激的な生活へと変化したのだ。
それから数年後、Mは大学院へと進み研究を繰り返していた。そして、化学の研究を進めていくうちに時代の技術を何千年も進めるような発見をした。してしまった。
―物体X―
全てのモノを造り上げている超最小の物体。
これをMは発見し、物体Xをイデアと名付けた。
このイデアは、ありとあらゆる物質の根源的なもの。一定の電気信号によりイデアを誘導される性質を持つ。
この電気信号により誘導される性質を応用することで、物体が今までの物理学を根底から覆すような動き可能となる。
この世紀の発見は世の中に報道されなかった。それはなぜか、Mが通う大学に潜入していた政府の人間が情報をキャッチし、世へ出回る前に隠ぺいを画策したのだ。




