第十章の9
「やあ、息を上げてるところ悪いんだけど。二式君。調子はどうだい。」
「依代さん、二式君、頑張っていますよ。このままいけば今週でかなりの情報が手に入るかもしれません。」
環さん。依代さんは床に仰向けで寝ている俺に声をかけたのですよ。
「それは嬉しい知らせだね。何かご褒美をあげないと。」
お二人さん。本人を無視して俺の話を進めようとしないでください。ご褒美をくれるのは素直に嬉しいけれども。
あと、環さん。目に見えて表情が明るくなっていますが、それは良くないと思いますよ。
「明日、環君の給料を下げた分で、焼き肉を食べに行こうか。」
ほらこうなる。
依代さんは一見優しそうな雰囲気を出しているが、仮面を被っているだけだ。
「ありがとうございます。」
「それにしても二式君。マラソンの選手になっても違和感のない記録だね。」
「自分でも驚いています。」
呼吸計測装置やらなにやらと、訳の分からない装置を体中に貼り付けられた状態で今までルームランナーで走り続けていたのだ。
「距離にして約60キロメートル。5時間でこの距離だから時速12キロだね。」
数値が明らかにおかしい。特別な運動をしていないはずの俺が休憩を取らずにこれだけ走れるわけがない。
「目を見張る乱れのない走り方。理想的な姿勢が常に保たれている。」
よほど興味深いのだろう。依代さんは計測結果の入ったPCの画面に食いついている。
「呼吸もルームランナーから降りるまで全く乱れていない。これらから、走っている間は能力によって姿勢と呼吸が矯正されていて、走るのをやめた瞬間にそれが解けと考えられるね。」
「後は裏付けをして、その仮説を立証するだけですね。依代さん。」
これが胡麻をするというものか。環さんは依代さんの一考察を聞くなり横へすり寄り、機嫌取りをしだした。
「そうだね。今後も期待しているよ。」
依代さんの目はPCへいっており、期待の言葉には全く心がこもっていない。しかし、環さんにはこの上のないものであったようで、大声でこうと言った。
「はい、頑張ります。」
次回は6月5日です




