第十章の3
「間に合ったようで何よりだね。一人で立つことできそう。」
少し野太い声。しかし、話し方はどこか女性を浮かばせる。この声質とイントネーションの違和感、一度聞くと、しばらくは忘れられそうにないくらいの特徴的だ。
「ありがとうございます。助かりました。これは、こけただけですので大丈夫です。」
顔面から倒れた剛田の後頭部にダーツ型の弾丸。これは麻酔銃か。
「諜報のリストが一人で逮捕協力してる、と聞いて飛んできちゃった。」
身長は俺より高め。腹はお酒によるものか少し出ている。顔も丸みを帯びている。
「本当に危なかったね。ナイスタイミング、私。」
そういうと彼は、腕を勢いよく上から下へ振り胸のあたりで静止。手は親指だけ立てられていた。サムズアップと呼ばれるサインだ。
彼の表情から自分の手柄を自慢しているのだろう。
「本当に助かりました。欲を言えば、もう少し早く来てほしかったですね。」
「そう、そう。もっと褒めて、感謝をするといいぞ。」
頭で返答を考えていたのか、俺が話し終えた瞬間に返事がくる。しかし、間をおいてから継ぎ足した俺の要求に気付いたのか、間の抜けた顔をする。その後、両手を下へ振り「ちょっと。」と不満をぶつける。
「恩を着せるような口ぶりがなければ、素直に感謝したのですがね。」
お調子者の性格。どこかで見たような気がする。
「私が来なかったら死んでたかもしれないんだよ。私、命の恩人だよ。」
前かがみの状態で右人差し指で自分を指す。
「すみません、遅くなりましたが、お名前を教えていただけませんか。」
「無理やり話を。」
この人は違和感の塊ではないだろうか。50代後半に思える印象で野太い声、なのに言動は若い女子。
「まあいいかな、私は逞、可変 逞。よろしくね。」




